第一話、邪教の町
「なんかその辺で拾ったものをご神体として崇めている教団が居るんですよ。悪いことに、それが本物の“神性”で、その周辺の人たちに悪い影響を及ぼしていまして。よければ、そのご神体を回収、あるいは破壊してきていただけませんか?」
*
俺は神様の依頼で、とある辺境の村へとやって来ていた。
「こんにちは。私は勇者協会所属、“眠り”の勇者、アルミラです。あなたがキョウゲツさんでよろしいですか?」
俺の行き先にふらっと現れた、くせっけの赤髪、眠そうな目の少女。え? なに? 勇者? もう謀反の意を悟られた?
「……えっと、君は、どういう立場の、何?」
「……? 私は、勇者協会の擁する教育機関の一つ、そこの教育者であるアヤトリ・ナグモからの要請で、辺境の村の異変の調査に参りました。私は、ナグモさん指定の冒険者と協力し、事態を解決に導くよう言われています」
彼女は低く、落ち着いた声でそう語ってくれる。
あー……“神性”関連の事は伝えてないが、とりあえず辺境の村で異変が起きてるから、勇者協会から協力する人材を引っ張ってきた。そういう感じだろうか。助っ人はありがたいが、俺一人の方が動きやすかったんじゃないか? これ。
「初めましてアルミラさん、冒険者のキョウゲツです。……ナグモ先生の所の、元教え子です」
「そうですか。この先に例の村があります。さっそく向かいましょうか」
彼女はいかにも“仕事をしに来ました”という態度で、さっさと俺の前を歩いていく。
「アルミラさんは、その異変? の情報について、どれくらい知ってるの?」
「とある村にて新しい教団が立ち上がり、それに触れた村人たちが次々と“おかしく”なっていると。もしかすれば魔王軍の手の者による何かしらの工作かもしれません。村の中では十分注意していきましょう」
この世界の世間一般的には、異常が起きた時にはそういう推測が普通なのだろうか。アルミラさんはしかし仕事が出来るようだ、すらすらと淀みなく答えてくれる。
「“おかしく”なってるって、具体的には?」
「人格の豹変、村人の態度の豹変などですね。いずれも、例の教団が起こって直後の出来事だそうです」
「俺たちはそこに無策で入って大丈夫なの? 俺たちも“それ”に影響されて、おかしくなっちゃったりしない?」
「要請者のナグモさんからは、“キョウゲツさんはそういう影響を受けにくい体質にあるから大丈夫”と伺っています。私も、よく分からない護符を授かっていますが、私によくない影響を感じたら、あなたに任せることにしましょう」
ふーん。まぁ何にせよ、一人じゃないというのは頼もしいな。
しばらく何もない草原を歩いていると、その村が見えてきた。村の周りにはおざなりな木の柵が打ち立てられており、畑や家畜の放された牧場があって、向こうには民家が見えている。
俺たちが柵の入り口から中に入ると、声が掛かった。
「あら、どちら様ですか?」
見れば……うぉ、なんだその格好。何かしらの神職の方だろうか、本来は黒く質素な装い、しかしそのスカートには不格好にスリットが入り、横から際どいところまで太ももが見えている。なに、この人も神聖盛ってんの? 黒い格好の女性は、俺たちが村の中に入ったのを見て、話しかけてきたようだ。
「勇者協会所属のアルミラです。この地で異常があったと伺って派遣されてきました。少し、お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
際どい格好の女性は、こてんと首を傾げて返事をする。
「“異常”? まぁ私は暇なのでいいですけれど」
俺たちは村の中を案内され、とある一つの建物の中に入っていく。中には並べられた横長の椅子と、正面中央を歩いていけば奥には、一段上がって教卓のようなものが置いてあり、背後の壁にはステンドグラスで何かの絵が描かれてある。
「無学で申し訳ないのですが、ここは何をする場所なのですか?」
俺が聞くと、俺たちを先導して来た黒い女性が振り返り、答える。
「ここは、女神さまに祈りを捧げる場所ですよ」
「女神さま、とは?」
「私たちも崇拝する女神さまのことですよ。女神と言えば、あのお方しか居ません」
と、隣でアルミラさんが答えてくれる。世界に武器を配ったというあの女神さまか。勇者協会は、その女神から、人類を守る武器を賜っている。表向きは人類から広く信仰があるのだろう。各地に、こんな田舎の村にまで、教会が建てられるくらいには。
「奥に私用の部屋があります。詳しい話は、そちらでお聞きしましょうか」
俺たちは案内され、そこの扉からさらに別の部屋に行く。
そこは生活用のスペースのようだった。キッチンやテーブルが置いてあり、何気ない、使っているであろう食器などもそこに置いてある。
「散らかっていてすみません」
「いえ、こちらこそ突然押し掛けた上に、お邪魔してしまって」
「どうぞ、そちらにお掛けください。お飲み物を用意しますので」
俺たちはテーブルに座る。生活感はあるが、清潔感のある部屋だった。物は綺麗に片付けられていて、何かしら散らかっているということもない。異常なし、ヨシ。やがて、黒服のお姉さんが飲み物を乗せたお盆を持ってきて対面の椅子へと座る。
「お待たせしました。どうぞお飲みください。体が気持ちよくなる成分も入っていますので、体が温まりますよ」
「体が気持ちよくなる成分って何ですか?」
俺が聞くと、向こうの女性は答えてくれる。
「エッチな気持ちが高まる成分ですよ」
「ぶっ!」と、隣でコップに口を付けていたアルミラさんが、液体を吐き出しむせている。
「なななななんてもの飲ませようとしてるんですかあなたは!」
アルミラが立ち上がってコップを机に置いた。向こうの女性は、きょとんとして、立ち上がったアルミラの顔を見上げている。
「あれ? お気に召しませんでした?」
「召しませんよ! こんなもの要りません!」
「えぇ……美味しいのに……」
アルミラは口を付けたコップをあちら側へ押し返す。俺もさりげなく返しておく。対岸の黒服の女性は、おそらく同じものが入っているであろうコップの中身を、口を付けてこくこくと飲んでいる。コップを机に置いた、その中身は確かに減っている。
「それでは、お話を伺いましょうか。私は、この村の教会に務めているシスター、アザミと申します」
向こうのシスターは、何事もなかったかのように話を続けようとしている。そういった文化の土地なのだろうか。俺たちが外から入ってきた余所者である以上、俺からはあまり強いことは言えない。椅子から立ち上がったまま、仰天の様子のアルミラさんは、あちらと俺の顔とを交互に見ている。
「何一人で立ち上がってんの? 座りなよ」
「私ですか!? この場で私だけがおかしいんですか!?」




