第十七話、授業:装備スタイルの紹介
「キョウゲツは長らく装備を変えとらんようじゃが、更新とかせんのか?」
今日も今日とて田舎の広場の上。俺たちは土手の下でくつろぎ、頭上の樹の大きく伸びた葉っぱが風に吹かれて大きく揺られている。今は領域化の練習の合間の休憩中。隣に座るシラアイと話している。
「装備? まぁ、強い武器があればそれに変えたいけど、なかなか手の届かない値段だしね」
魔力を流すことの出来る武器“導器”、素材を与えれば強くなっていく“成長武器”、世界には強力な武器が存在するものの、それらは強さに見合った値段……あるいは目をみはるほどの大金を要求される。強い武器を買うお金があれば、その金でほかにいろんなことが出来る。
「武器はともかく、防具じゃ防具。そちは、強さの割には防具がペラペラで貧相ではないかの?」
「“防具がペラペラで貧相”? 護身の魔道具はあるよ」
どこかの兎ちゃんから貰った、緑色の三連の宝石。腰元に常に付けているそれをシラアイに見せる。これは、宝石一個ごとに、俺へのダメージを一回ずつ軽減してくれる。何回も助けてもらっているというか、常にこれがある前提で動いている。魔力充填式。
「それだけかの?」
シラアイは、俺の目をじっと見上げている。うーん。
「つよいこころ」
「……はぁ。てっきり、そういうスタイルかと思って口を出してこなかったが、単に興味がなくて知らなかっただけか」
「まぁ、防御力に関しては、不足に感じたことはあまり無かったしね。避けて当てれば敵は倒せるよ」
「……まぁ、そちがそれでよいならよいがの。一応、冒険者の間の常識を話してやるかの」
シラアイはその辺の枝を広い、また、そこの土の地面に何かを書き始める。
「冒険者の装備のスタイルとしては主に二種類、ないし三種類存在するの。“軽装備”、“重装備”、あとは“無装備”じゃの」
シラアイは枝でぺしぺしと地面を叩いている。
「“軽装備”は、主にスピード重視で戦う、前衛の武器種のスタイルじゃの。場合によっては後衛の魔法職なんかもこれにあたる。軽装備の特徴は、体の動きを阻害するような防具を身に着けん事じゃ。その範囲内で、防御力を盛れるだけ盛る」
シラアイは、そこに剣を持った人型を描いた。
「次に“重装備”じゃ。これは、敵の攻撃を受け止め、敵の注意を引き付ける役割の冒険者がやるスタイルじゃの。全身に重い鎧をまとうなど、その移動性能を大きく制限されておるが、その分並大抵の攻撃で怯むことはない」
シラアイはその隣に、鎧らしき何かをまとった人型を描いた。
「最後に“無装備”じゃ。こいつらは、そもそも攻撃を受けることを想定していない、依頼上の同行者や、マッピング、荷物持ちなど戦闘を想定していない人員がやるスタイルじゃの。まぁお守り程度に何かを身に着けていることはあるが、それはあくまで“護身用”であって、“戦闘用”ではないの」
シラアイは、三人目の人型を描いた。何も持ってない。
「じゃあ、俺は“軽装備”?」
「“無装備”じゃ。そちは何も“防具”を身に着けておらんじゃろ」
「“護身の魔道具”は?」
「確かにそれは上等なものじゃが、戦闘中にたった三回しか守ってくれないとなると、継続的な戦闘中の被弾を想定しているとは言えんの」
まるで俺が裸で戦ってるみたいな言い方じゃないか。
「でも、言えばすぐにジャノメが補充してくれるよ」
「まぁ……具体例を挙げるかの。おぬしのその不思議な宝石は、分類上“無装備”のものに入るの」
シラアイは、何もない人型をぺしぺしと枝で叩いている。
「“重装備”に入るのは、重い全身の金属鎧など、とにかくごついものじゃな。移動は面倒だし持ち運びも面倒じゃ」
「そんな人いる? 冒険者に」
「在野の冒険者には、中々見かけんの。じゃが、こういうタンクは特定のモンスター相手には強い需要がある。複数で戦うことが前提の、対大型のモンスター、集団対集団の戦闘などじゃな。そういった場では、事前に個々人の役割が決められ、そういった中で“敵の攻撃を引き付ける”という役割の“タンク”が生まれてくる。固定のパーティーや個人ギルドでは、こういう“タンク”の出来る冒険者が少なからず用意してある」
「……あ、ゴールデン・ホールマンさん」
俺は黄金街のあの人の姿を思い浮かべた。全身に黄金の鎧をまとった男性、あの人は、何度も冒険者たちから勝負を挑まれながら、それらすべての攻撃を跳ね除け、歩いて行った。
「あの人もそうじゃな。あらゆる攻撃を引き付け、跳ね除け、味方に敵を寄せ付けない。一般に見かけることこそ少ないが、こういうタンクは、冒険者にとっては花形の役割となるの」
“重装備”か……興味はあるが、たぶん俺には向いてないな。今までの戦闘スタイルで、重い装備をほとんど持ってきていない。
「“軽装備”には、じゃあどんなのがあるの?」
「まぁ、簡単に言えば簡単な装備じゃな。革の胸当てや肩当て、金属製にしても膝、健など、要所のみを守るもの。時には攻撃を受けることを前提として、肩だけごついシールドを装備したりすることもある。全身を覆わない一部分の装備、あるいは、全体を覆うとしても軽いものを装備する、それが“軽装備”の分類じゃな」
ふーん。じゃあ俺は“無装備”だね。
「動きの邪魔になるし要らなくない? 全部避ければいいじゃん」
「……うん。まぁ、そちがそれでいいのならそれでいいんじゃが」
「シラアイは、なにかそういう防具付けてたりすんの?」
「わらわはそもそも鬼の体じゃしの。何も身に着けんでも、たいていの防具より自身の体の方が丈夫じゃ。あれば手入れも面倒じゃしの」
やっぱりシラアイも何も着けてないし。ジャノメも、前に出ない魔法職だし大したものを着けてない。うそ……もしかして俺らのパーティー防御力低すぎ……?
「しかし、戦闘中一回も攻撃を受けられんとは、考えてみれば不便ではないかの? キョウゲツ」
「まぁ枝豆……俺には、“護身の魔道具”があるし」
今までずっと見切る方向性でやってきたし。
「しかし三回だけじゃ。魔力が無ければ次の補充もままならん。継続的な戦闘を行う場合は、じゃあどうする気じゃ? 今のそちでは、それが剝がれれば、肩に剣の一つも受けられんじゃろうて」
「そんな危ない場所には行く気ないよ」
「逃げられん時は? 不意の強敵との遭遇も時にはある」
「逃げられない時は……」
枝豆を三つとも消費した。背後は崖に囲まれ、目の前から危険なモンスター。俺はどうする?
「やられる前にやる」
「……そちの意志は固いようじゃの」
防具……防具かぁ。まぁ……必要になったらで、いいかなぁ。




