第十六話、必殺技会議
元気になった俺は、再び青空の下に出てきた。出てくるのは、数日ぶりの土手の隣の畑の中の土の広場。土手に植えられた木が枝を伸ばして、そこに日陰を作っている。隣にはジャノメも居る。シラアイ先生が俺たちの前に立ち、話をしている。
「二人は必殺技とかあるのかの」
「必殺技って何ですか」
聞けば、シラアイ先生は長々と説明してくれる。
「単純に自分の一番推している技、磨いてる技、自信のある技じゃ。ここぞという時にそういうものがあれば迷わず使えるし、日々隙を見つけて一つの技のみを磨いていけば、それは有事の際に心強い手段となろう。自分の一番よく知っている技が一番強ければ、それを自身の強さの指標にもしやすい、前もって戦闘などの算段も立てやすかろう。今日会う仲間にも、それを見せれば自身の強さを一目で分かってもらえる。自身を象徴する技を、なければ見つけ、磨いておくべきじゃの。一人前の冒険者としてはな」
今日は、その“必殺技”とやらの講座らしい。
「どうじゃ? 二人はそういうのあるのかの」
「あるけど人目に触れされることが出来ません」
「何を使う気じゃ」
「先生はそういうのあるんですか?」
俺が聞けば、シラアイはふむと頷いている。
「無いな」
「先生?」
「わらわはそもそも適当に冒険者をやっておるしな。大抵は呪いとフィジカルでどうにかなってきた。強いて言えば“相互弱体の呪い”じゃな」
シラアイの呪い。相手の傷に自身の体液を付着させ、自分と相手に一時的な弱体化を与えるというもの。強いし頼れるんだけど地味だな。まぁ本人も言っているようにサポートタイプなら、そういう補助的な技が象徴になるんだろうか。
「先生はなんか、強そうな派手なのとか持ってないんですか」
「鬼の血は、使いすぎれば破壊衝動が襲ってくる。あんまり腰を入れて使うものでもない。かと言って、腕や武器一本で戦うほど、わらわは武術に長けておらん、磨く気もそんなにない。結論から言えば、あんまり考えたことなかったな」
「先生は今どういう気持ちで俺たちに講釈してるんですか?」
「自身の手に無くとも、わらわはたくさんの冒険者を見てきた。強い冒険者たちはそういうものを持っているという話じゃ。わらわの言葉を疑うな」
別に疑ってはいないけど。俺は、隣のジャノメに目線を下ろす。
「どうだ? ジャノメ。ジャノメは何かそういうのある? 必殺技みたいな」
俺が聞けば、ジャノメはうーん……と考え込んでいる。
「わしは主に魔法を使うが、わしは魔法の属性に不適がないからな。いろいろまんべんなく使えるので、これが代表というものは今は持っておらんな。強いて言えば魔法全般じゃ」
「はい不合格。シラアイは自信のある技を一つ述べてくださいと言ったので一つを言ってください。いてぇ!」
俺はジャノメに脛を蹴られ地面にうずくまる。
「好みや直観によってでも一つだけを磨いておれば、それが役立つ場面も出てくるぞ。そちがいくら才能があるとはいえ、一つの場面で使う魔法は一つだけじゃろうしの。威力の最大値は大事じゃ。無いなら、今ここで一つ決めていかんか? 別に、ほかに候補が見つかれば、また変えればよいしの」
シラアイが丁寧にジャノメへと説いている。うーん、と、ジャノメはそれに考えている。
「使いたい魔法はあるけど、わしだと再現できなかった。それに比べると、どれもぱっとしないかな」
「そちが使えん魔法とな? ジャノメの身体属性なら、“大自然系”の中に使えん魔法はあるまい。習得に足りなかったのはなんじゃ? 頭か?」
「もしかしたらそうかも」
「ちなみにどんな魔法じゃ?」
すっと、ジャノメは俺を指さしてくる。
「キョウゲツが使ってたやつ」
「教えてやれ」
「制御が難しいのと、消費する魔力に対して威力が高すぎるのとで、ジャノメには向いてないと思う。ジャノメを象徴する技なら、ちゃんとジャノメに向いた技を覚えるべきだと思う」
「才能というのは、何も、先天的なものだけではない。自身の好みを器に、後天的に育っていくものもあろう。そういうのも一つの才能じゃ。それだけでは、不適であるとは言えんの」
「……無理だったんなら無理じゃない?」
「なんじゃ。そもそもどういう魔法じゃ。わらわにも教えよ」
シラアイは食い下がってくる。
「あー……なんか、しゅごごごごごぎゃぎゃぎゃぎゃみたいなやつ」
「そちの語彙力でそれしか言えんことは無かろ。なんじゃ、何を隠しておる。わらわだけ仲間外れか?」
「いや……俺もまだ研究中だし、まだ発展途上の技って言うか」
「いいから言え」
改めて二人に詳細に説明してみたが、やはりジャノメが使えることはなかった。
「ジャノメはなんか、好きな属性とかないの? これが使いやすいとか、これが強いとか」
俺はジャノメの必殺技を探すため、あらためて彼女に問いかける。
「属性はそれぞれに個性があり、その有用性は場面においていくらでも変わる。選り好みなどはしてないな」
なんだ、急にジャノメの返答のIQが上がったな。
「今はそういうのじゃないから。一つを選べない人間は、手の中に何も残らないよ?」
俺がそう言えば、ふんと、ジャノメは鼻から息を吐いて言い返してくる。
「キョウゲツの周りにはたくさんの女性を見かけるな。一番はどれだ?」
「今はそういうのじゃないから。人脈っていうのはどれも一個一個が大事なのであって、それを選り好みとかしちゃいけないんだよ?」
土手の隣の広場の上で、ジャノメが実際に魔法を使っているのを見ながら、三人でいろいろ考えていったが、全部強すぎて分からなかった。




