第十二話、授業:領域化 ーII
こてんと、シラアイはそこに座り込んで俺たちを見上げている。
「では、やれ」
「いかように?」
「まずは魔力を体外に引き出すのじゃ。それを手の平の上に留めよ」
体内から魔力を引き出す。魔力は、感覚的には、皮膚の内を満たすように全身を流れている。手の平に穴を開け、そこから掻き出すように魔力を引き出す。すると、手のひらの表面から、淡い、黄緑色の光の帯が滲み出てくる。
「留めるって、どれくらい?」
「いつまでもじゃ」
「いつまでもって、どれくらい?」
「いつまでもはいつまでもじゃ」
手の平の上、光の帯がぼやぁと空気に広がっていく。体内の魔力を動かすのは一苦労だが、体外に出た魔力はさらに操作が難しくなる。俺はその光の帯にじっと注視するが、それは見ている間にもだんだんほどけて薄くなっていく。
「シラアイー、とけちゃうんだけどー」
「とけても構わん。むしろ均一に広げよ。ただ一定範囲内に留めよ」
「一定範囲内……?」
要は、スノードームみたいな水槽内に均一に広げて閉じ込めればいいのだろうか。……でも檻、壁、そういったものはどう作るんだ……? 俺はじーっと手の平を見つめていれば、そこに光点が生まれる。それは周囲の魔力を集め、凝集し、そして“風”の魔法として解き放たれた。そよ風が俺の髪を持ち上げる。
「キョウゲツ、やり直しじゃな」
「魔力の檻? みたいなものを作るんだよね」
「檻? 違うな。全体を把握して、溶けかけの粘土を支えるように手で押し込め続けるんじゃ」
あー……要は、中に閉じ込める魔力、魔力を閉じ込める檻と、別々に意識するのではなく、魔力全体をその場に引っ張って押し留める? いやでも、それをしようとしたら今みたいに魔法として集めてしまって……。
「キョウゲツ、よく見よ。そちはそちの薄く広がった自身の魔力を識別できておらんようだな。自身の魔力を感知せよ、まずはそこからじゃ」
シラアイはその場にあぐらをかいて俺に指示してくる。魔力の感知……?
俺は再び手の平から魔力を放出していく……黄緑色のか細い光の帯が、そこから滲み出てくる。それは手元の空中を漂い、ゆっくりと、空中の中にとけていく……。
「龍脈の感知って……それ、“龍視”とかが必要なんじゃないの……?」
「“龍視”は、龍脈すべてを感知できる能力じゃな。自身の魔力を視るのにはそんな大仰な能力は必要ない。そちが鈍いだけじゃ」
「シラアイは、俺の魔力が今どうなってるか見えるの?」
「見えん。じゃがその辺にあるじゃろ」
俺の手から滲み出た光の帯は、先が薄れ、見えなくなっている。……いや、そうか。目で見ようとしてるからいけないんだ。目に映る光の帯はその発光を読み取っているだけで俺はそれを魔力として感知しているわけではない。俺はそもそもそも空気に薄まる前の段階の光の帯すら“見えて”いなかったのだ。
意識すべきは……そう、体内の魔力。そこから、手の平から出ていく俺の魔力、手の平から出て行って、空気に薄まっていく俺の魔力。
ぼんやりとだが、見えてきた気がする。俺の手の平には穴が開き、そこからか細い俺の魔力が流れ出している。それはふよふよと宙を流れ、薄まったものが、俺の手の平の周囲をぼーっと包んでいる。
これだ。俺はそれらを、意識して動かそうと試みる。やることは、体内に流れる魔力を動かす時と同じだ。掻き出すように……いや、大きな手の平で包み、閉じ込めるように……? いや、それでもダメだ。閉じ込めるイメージをすると、どうしても集めたときに過剰に固まり、魔法として起きてしまう。
シラアイは何と言っていた? 溶け掛けの粘土? そう、広がった魔力を外部から力を加えて動かすのではなく、魔力全体に意識の根を張り、それを意思ある粘土のように動かすのだ。
意識の根を、魔力の中に張り巡らせ、広げていく、違う、イメージはもっと柔軟に、水を、意識で動かせる水滴を魔力に落とし、それを魔力全体に馴染ませる……。
俺は、俺を取り巻く魔力全体が体の一部になったみたいに、それらに意識が染み込んだ。俺は手の平の中にそれらを収縮させ、均一に、球体に集めていく。
目を開けると、ぼんやりと光る、黄緑色の淡い光の玉が手の平にあった。
「キョウゲツ、合格じゃ」
シラアイは、拾った枝で俺を指して、上機嫌にそう言った。




