第十一話、花穂園へようこそ
「荷物は持ったかー?」
早朝、宿の前には、三人の荷物を抱えた俺たちが居る。眠そうな顔をしたジャノメと、きりっとした顔でいて寝癖が残っているシラアイ。俺も眠い。
「てんこー、いち」
「に」
「さん」
俺たちはバスの一番後ろに乗り込み、ジャノメを真ん中にして三人並んで座る。空いた窓から景色を楽しみながら、俺たちは魔導のバスに揺られ、道の上を進んでいった。
いくつかの街を過ぎ、なんどか森の中を抜けて行って。それは、低い山々の連なる森の中にあった。
「着いたぞ」
バスは、本当に何でもない田舎の道の上に止まる。そこで降りたのは俺たちだけだった。森が突然切れて、そこに広がっていたのは、切り開かれた平地の土地、なんかの畑などが広がっている。
「わー田舎だー」
「少し歩いた所に旅館がある。そこが、わらわたちの泊まる宿じゃ」
「温泉はあるのか?」
ジャノメがシラアイに聞いている。
「ない。じゃが浴槽はあるぞ。ヒノキのお風呂じゃ」
「お風呂!」
俺たちは田舎のあばら道の上を歩いていく。彼女に連れられ少し歩くと、大きめの黒い建物がそこに構えられていた。
がらがらと引き戸を開けて中に入ると、カウンターに女性が座っている。
「あらぁ、シラアイちゃん、来てくれたの。いらっしゃい。お友達も引き連れてねぇ」
「またしばらく世話になるぞ」
「いくらでも泊まってっていいからねぇ」
そこの女将さんとは知り合いなのか、シラアイは親しげにその人と会話を交わしていた。
「待たせたな。では部屋に行くか」
「大部屋か?」
「わらわとジャノメで一部屋、それからキョウゲツで一部屋じゃ」
「なんだ、みんなで泊まるんじゃないのか?」
「ここにそんな大きな部屋はない。それに……いろいろと不便じゃろ」
俺たちは、木造の暗い廊下を渡ってどこかへと歩いていく。中庭が中に見えた、ガラス戸の向こうには、落ち着いた感じの岩や手入れのされた木が植わっている。古く、懐かしい匂いが、建物全体からしている。
「こっちがキョウゲツの部屋じゃな。隣がわらわとジャノメで泊まる部屋じゃ。何かあれば訪ねてこい」
「なー、みんなで寝ようよー」
「駄目じゃ。ジャノメも、そろそろ分別を付けんか」
俺たちは中に入り、いったん荷物を置いてくる。内装を確かめる。高い位置にある窓の外には、建物の裏手から広がる森が見えた。
「キョウゲツ、いったん外に出て、里の中を散策するぞ」
部屋の扉が開いて、シラアイが顔をのぞかせそう言ってくる。
俺たちは荷物を軽くまとめ、建物の外に出てきた。
「と言っても、大したものはありはせんがな。大抵は畑か山か、それから棚田と茶畑じゃ。小川と、山奥には社もあるぞ」
「その程度のものしかないと分かる、いい宣伝文句じゃな」
「世俗から切り離されて癒しを得る場所じゃ。何もないくらいが丁度いい」
「商店くらいは欲しくないか?」
「あるぞ。旅館からは離れておるがの。ここの里の人たちが利用する小さな商店が」
「物を買うのにもひと歩きか。不便なところだな」
俺は、横に並んで会話を交わすジャノメとシラアイの背中を追って、平和的な田舎の上を歩いていく。
里には小川が流れていて、歩いてそこまで行くと、小川の土手の隣には広場があった。何もないが、広い土の平地が広がっている。隣接する土手には木が植わっている、なんの種類の木だろうか。
「ここが、明日から修行に使う広場じゃの」
「ふーん? シラアイは修行すんの? こんなところに来てまで」
「何を言っておる。修行はここに居る三人でじゃ。そのためにここまで来たからの。わらわが骨の髄まで教えてやろう」
俺が隣を向くと、おかっぱの小さい頭は俺を見上げている。
「うん? 俺が修行すんの?」
「そうじゃ」
ふーん。脱走を考えるか。




