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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
ー氷海の地図

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第八話、攻略“氷河海”のダンジョン―第二層 ーII

「あら、やっぱりここに居たのね」


 俺がぎょっとしてそちらを振り向くと、背中に小さく黒い羽を生やした女の子がふよふよと宙を浮いている。


「………………」

「私のことは、もう忘れてしまった? 勇者キョウゲツ。会わなくて、久しいものね。じゃあ、もう一度やりあいましょう」


 ……。俺の記憶の中の彼女が明滅する。思い出した、いや、忘れるわけもない。


「君みたいな子のことは忘れないよ、ヴァンパイア・バット・ヴァイオニットさん」

「“ヴァンパイア・バット”のヴァイオニット。ひと続きの名前みたいに言わないで」


 この子は、魔王軍所属のヴァイオニットさん。シルベヤマにて、人間が欲しいとか言われて襲われた経験がある。なんでここに居る……?


「あの……なんでここに……?」


 てか、そっちこそ俺のことを覚えていたわけ……? 一般通過人間Aじゃないの俺……?


「懐かしい匂いがしたから、つられて来てみれば、あなたを見つけたの」


 以前会ったのはシルベヤマだが……俺は転移でアイリスの都市からあの場所まで飛んでいた。シルベヤマとこの氷河海とは、位置的に近いのだろうか……?


「ず、ずいぶん鼻が利くんですね……空を飛んで来られたんですか?」


「ひみつ」


「そ、そう。じゃあ俺はやる事があるからこのへっ」


 ぞくと、足元を見れば、黒い帯のようなものが地面を伝って伸びてきて、その先が俺のズボンの足元の隙間から中に侵入し、それはそろそろと俺の肌を伝って服の中を這い上がってきている。黒い帯は、辿ればその子の背中の影から生えてきている。


「あ……あの……? 何をしてらっしゃるので……?」


「今は何をしてるの?」


「今は……ですね……その、ダンジョンの攻略を……」


「ダンジョン?」


 彼女は、今しがた気が付いたというように、そこに立っている大きな氷の扉を見上げる。その扉の隙間の向こうと、扉の周りの景色とを見比べて、中に広がる空間が異常なことに気づいたようだ。彼女は目をぱちくりと瞬かせている。


「不思議な扉ね」


「そうだねー。それじゃあ俺はこの辺で」


 ぐっと、俺の太ももに巻き付いた黒い帯が硬化して俺は足を動かせない。


「案内して」


 少女はミステリアスな微笑みを浮かべ、俺に笑いかけてくる。


 ……妙な状況になったな。俺は、腕にしっかりと黒い帯に巻き付かれ、彼女の影に繋がれて、暗い洞窟の中を潜っていく。視界は開け、そこは第一層、“あたり”と“はずれ”の氷のパネルの床の層。


「ここには、こちらの足場と向こうの足場との間に、沢山の氷のパネルが並んでるでしょ? この中には、乗ったら壊れちゃう“はずれ”のパネルと、乗っても壊れない“あたり”のパネルとがあって、“はずれ”のパネルを踏むと落ちちゃうから、“あたり”のパネルを見つけて向こう側まで渡るの。ルール理解した?」


「落ちる?」


 彼女は小さく羽を揺らし、これ見よがしに宙に浮いて見せてくる。彼女の足は岩の地面から十センチちょっと浮いている。


「一般人は落ちるよ」


「一般人は大変ね」


 俺の腕からするすると黒い帯がほどけ、彼女の足元に収納されていく。俺が見ていると、彼女は氷のパネルの前まで歩いていった。


「君もやってみるの?」


 彼女は、無言で手前の氷のパネルの上に乗る。


「それは“あたり”だね」

「簡単ね」


 調子に乗った彼女はまた一歩踏み出す。氷が砕け、彼女の足元の足場が無くなった。彼女は……そのまま出来た穴に吸い込まれ、真下の海まで落ちていく。彼女の纏う黒いドレスが風で大胆にめくれ上がりすごいことになっている。彼女はそのまま海面に吸い込まれていった。


「なんだか分からんがヨシ。今のうちにさっさと逃げるか」


 俺はひょいひょいと氷のパネルの上を進んでいき、真ん中くらいまで進んだあたりで背後から気配を感じる。


「ちょっと! なに勝手に進んでるの! 戻ってきなさい!」


 背後から声がして、俺は振り返る。速いな、もう戻ってきたのか。呼吸を乱した少女が、向こうで怒りの表情をあらわにして立っている。


「“はずれ”を引いたら律儀に落ちるなんて、君も意外と真面目なんだね!」


「なんでか知らないけど私の力が発動しなかったの! “あたり”はどれ? 道順を教えなさい!」


「君には分かんないか!」


「はぁ? 分かるわよ!」


 彼女は一歩氷のパネルの上に踏み出す、一歩目から“はずれ”であり、彼女は浮遊できずそのまま落ちていく。氷の隙間から必死にその姿を目で追ったが、彼女は今度は手でドレスをめくれ上がらないように抑えていた。ちっ。


 俺は彼女が居ない間にまた正解のパネルを渡っていく。後ろから足音がして、俺はまたいったん止まる。ちっ、もう数枚で向こう側に渡れるのに。


「ちょっと! なにさっきから私の居ない間に進んでるの!」


「答えを見せたら君が楽しめないかなーって!」


「いいから教えなさい!」


「君がここまで来れたらねー!」


 俺が両手を振ってその場で彼女を煽っていると、じーっと、彼女は向こうで俺を見つめている。向こうの足場からこっちに渡ってこない。あれ? 怒った? と、少女は無言で手の平をこちらに向けた。


「な、なにをする気……」


 途端、俺の体が奥底から段々と熱くなってきて―


「ちょちょちょ、ちょっと待った! なな何してんのこれ!? 待って! 分かったから!」


「私の元に戻って来なさい」


 俺は隣のパネルに乗り、氷は砕けて俺の体は落ちていく。気が付けば浜の上に出て、不思議な魔法の効果も解けている。なんて恐ろしい魔法を使うやつだ……。こっから逃げると後が面倒になるんだろうな……俺は氷の扉をくぐり、また洞窟の中を進んでいく。


「あれ? 先輩、やっと来ましたね」


「逃げずに戻って来たのね。ほめてあげるわ」


 と、俺が岩場に出ると、そこで黒い蝙蝠こうもり羽の少女と、恐らくまた落ちて戻ってきたであろうマコモが、二人で開けた岩場の上に立って俺を待っていた。……これどういう状況だ?


「先輩、この子誰ですかー?」


 まだ、戦闘とかのっぴきならない事態は起こっていないらしい。蝙蝠少女も今はやる気はないようだ。


「……その子は、魔王軍所属のバットさんだよ」


「そこ名前じゃない」


「へー、先輩はいろいろな方とお知り合いなんですねー。バットさんよろしくお願いしますねー」


 マコモはさっさと順応しているが、こんな秘境に人ひとり増えたこの状況に困惑とか無いんだろうか……まぁ、すでに三人増えた後だけれども。マコモはバットちゃんに握手を差し出している。


「ヴァイオニット」


「ヴァットさんですねー」


「……バットでいい」


 バットちゃんは、差し出されたマコモの手を見下ろして、ふん、と、そっぽを向いて拒否の意を示す。


「私は今から“これ”をやるわ。私は後ろを向いているから、渡りたいならさっさと渡って」


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