第四話、氷河海調査団
「もちろん先輩が、私の調査を手伝ってくれるんですよね?」
長い黒髪の少女は、晴れやかな笑顔で俺の顔を見上げている。
「そ……それ危なくないやつ?」
「ふふふ」
マコモは答えずに笑顔を浮かべている。ふむ。よし。
「俺たちが君の帰る場所を守ろう。マコモちゃんは存分に調査に向かいたまえ」
マコモは俺から顔を離し、雪中車の傍に立っているミナモさんとジャノメに話しかける。
「この人借りて行っていいですかー?」
「いいよー」
「いいぞ」
「俺についての権利そいつらに無い!」
氷河海。一つの無人島と、その周囲に集まった、龍脈の影響で生まれた、海に浮かんだ多数の氷塊群。それらは、ひょうたん型に形を作っており、小さい膨らみの方には、中心に小さい無人島と、その周囲にイカダほどのたくさんの氷塊の群れが、そして大きい膨らみの方には、小山や島と見紛うサイズの大きな氷山の群れが集まっている。
「ここら辺の領域に、不明な何かが存在しているんですよ」
「情報量ゼロじゃん」
マコモは明るい笑顔を浮かべ、隣に居る俺の顔を見上げる。俺たちの前には、ごつごつとした氷の大地が広がっている。
「観測によれば、ここら辺に大きな龍脈の塊のようなものがあるんです」
「龍脈の、塊?」
「はい。それは、強大な魔力を内包するモンスターか、あるいは龍脈の噴出口か、高濃度の魔石の集積地か。その正体は分かりませんが、ここに、大きな塊の龍脈が何かしらの形で存在していることは間違いありませんね」
俺は、視界いっぱいに広がっているそれらを指さす。
「この氷の群れじゃないの? これらは、龍脈で生まれた氷なんでしょ?」
俺たちの視界の先には、白い氷の丘陵が視界の限り続いている。
「ここの氷は、海水を魔法で冷やされて作られた“本物の氷”であり、魔法で一時的に生成される“魔法氷”ではありません。その証拠に、ここの氷は溶けたら水になります。ここの氷が内包する魔力量は大したものじゃないですね」
魔法の氷は溶けたらそれで終わり、“魔法水”を凍らせれば“魔法氷”になる訳ではなく、“魔法氷”を溶かせば“魔法水”になる訳じゃない、魔力と“魔法氷”の間を行き来するだけ。
「うーん……じゃあ、ここに、なんか居るってこと?」
「生き物とは限りませんよ。それは、古い龍脈にこびりついた大量の魔石かもしれませんし」
だったらいいな。魔石の集積地が見つかれば、人の手が入り、その採掘が始まる。魔石は、人類にとって重要なエネルギー源になるからだ。おそらく第一発見者の俺たちにも大きなお金が入ってくる。
あるいは、それを期待してこのマコモは調査に来ているのだろうか。以前見かけた時は、“道屋”と組んで、その魔石の集積地までの道を作る仕事を手伝っていた。
「どこに、何があんの?」
「観測は遠い場所から行われました。分かっているのは、大体ここら辺に大きな塊があることだけです」
「でも、ここまで来てるんだから、近くに強い反応があったら分かりそうなものじゃない?」
“龍視”と呼ばれる特殊な感覚がある。これは、モンスターなどが備えている特殊な感知器官で、これがあれば龍脈の流れが可視化して見える。
俺たちも、強い流れはその発光を見て取れるが、この“龍視”があればもっと詳細な、例えば俺たちの体の中に流れている魔力の流れや色を見て取ることが出来るという。また、この“龍視”があるせいで、モンスターたちは離れた所から俺たち人間を視覚や嗅覚以外で見つけ出す。
この“龍視”を再現する魔道具も、確か存在していたはずだ。
「分からないって言ってるじゃないですか。殴りますよ」
「会話の中で暴力に繋がるような発言をするのは止めよ。ろくな大人にならないよ」
「分かりません」
「何が分からないの? 何かほかに分かってることないの?」
「分からないって言ってるじゃないですか。殴りますよ」
ふむ。俺は、目立つものが何もない、ただの白い景色に目を戻す。
もしかして、この子は何の手掛かりも見つからないまま、この広くてくそ見渡しづらい氷の海の上を探し続けていたのか? おまけに他との連絡も取れない、迎えも来ない。彼女は一人きり。周囲の人間はみな“マコモなら大丈夫”と信頼し、彼女はこの地で一人熱を出して、それを誰かに伝える手段もないままこの子は活動を続けていた。
「……ま、目が二人になれば、新しい何かが見つかるかもね」
「……期待してますよ、先輩」
彼女が俺の腕を軽く小突く。いつから俺はこの子の先輩になったんだろう。
各話のタイトルの最後に「*」がある話の末尾に「ひとくちずかん」というものを書き加えました。小ネタ程度ですが、よければお楽しみください。




