第三話、情報共有
「この島の内部、あるいは周囲の氷塊上では、現在外部との連絡を取る手段がありませんねー」
前の座席で、長い黒髪の少女は膝立ちして、背もたれの上から身を乗り出している。もう彼女はすっかり元気になったようで、いつも通りはきはきと話している。
「なので迎えの船も来ません」
「ふーん。そうなんだ。そっちは大変なんだね。まぁ俺たちはマコモの無事を確認できたし帰るよ、あとはそっちで頑張って。じゃあミナモさん、ジャノメ、俺たちは帰ろうか」
俺は隣のミナモさんを振り返るが、
「無理だよ」
「なんで?」
「今言ったじゃん」
透明な箱型の車には、俺たち四人が乗っている。周りは何もない、ここは無人島の上。すぐそこに押しては引いている波と浜があり、続く海を見れば島の周囲は流れ着いた白い氷塊たちに囲まれている。透けた天井の向こうには、銀色の雲がどこまでも広がっている。ここに来てから晴れ間をほとんど見ていない。
「そもそも、俺たちは帰りどうするんだっけ?」
「連絡したら、船が翌日の朝、海上の近くまで迎えに来る」
「連絡は?」
「とっくにしたよ」
「なんで来ないの?」
「おなか痛いんじゃない」
ふむ、と、黒髪の少女はそんな俺たちの様子を眺めている。
「その様子だと、あなた方はその船に乗ってここまで来たみたいですし、船の方に何かあっていた訳ではないんですね」
「……ちなみに、マコモの帰る手段は?」
「同じですよ。連絡器を使って向こうに連絡が届けば、迎えの船が見えるはずでした。私が呼んでも一向に来ませんでしたけどねー」
ふむ。
「まぁあっちが心配してそのうち様子を見に来てくれるだろ」
「船の運転手は、私たちの家族でも何でもありませんよ。船がこの辺りまで来るのにどれだけ燃料を食うと思っているんですか? 来ても、私たちが居るとは限らない、運転手は氷の上を渡って私たちを探す能力はない。まず来ないでしょうね、こちらが呼ばない限り」
うーん……。
「話を聞いてると、なんだか俺たちはこの島を出られない気がする」
「さっさと現実を受け入れたらどうだ? キョウゲツ」
俯いた俺の頭を、上からジャノメがぺしぺしとはたいてくる。うぅ……くそっ、今回に限って転移剣を持って来ていない……! まぁ、正直こんな海の上だと落として無くすのが怖いし、持って来れなかったのはそうなんだけど……。
ジャノメは、俺の前の座席から身を乗り出して俺の顔を見下ろしている。
「まぁ、なんだ。最悪、男と女は揃ってることだし、絶滅はしないむぐ」
「まぁ最悪、この雪中車で海を……」
いや、無理だな。ここの近海は海の流れが速かった。この雪中車は多少水に落ちても泳げるが、強い海流に飲まれて進めるほどの、強い水上性能はない。
「……まぁ最悪、ジャノメが海を全部凍らせて歩いていけばいいだろ」
「ごり押しが過ぎる。向こうの陸までどれだけあると思ってるんだ」
「“つうしんき”って、どれだ? そっちの故障は考えられないのか?」
と、右斜め前の座席のマコモが、ごそごそと懐を漁り小さな箱を出してくる。ハンドルの付いた木箱……?
「どういう原理の、何?」
「中に共鳴石が入ってます。片方を振動させると、もう片方も振動するので、複数の振動の種類を組み合わせて暗号を送受信できます。これは送信専用、向こうは受信専用なので、どのタイミングで連絡を送っても向こうは通信を受け取っているはずですね」
「その機器の、故障は考えられないのか?」
「可能性はゼロでは有りませんが……どうでしょうねー。モンスターの戦闘中に盾に使っても壊れないほどですし」
「需要に応えて高めすぎだろ機能」
船のおじさんと詳しい話をした訳ではないが、マコモの連絡を受け取り迎えに行ったが入れ違いになった、みたいな話は聞いていない。マコモの送信は向こうに届いていなかった、そう考えるのが妥当だろう。
「なんか、連絡が届かない心当たりとかあるのか? マコモは」
「そうですね。私はそもそも、この地で観測されたという異常を調査に来ていますし。通信の障害が出ているのも、その異常の一部かもしれませんね」
え……何、ここもしかして危ないの? これミイラ取りがミイラになってない? 俺たちも音信不通の行方不明??
「お……俺はこれ以上こんな変な所に居られるか! 俺は帰らせてもらうぞ!」
「帰れないっつってんだろ」
「頭を冷やすなら豊富にそこにあるよ」




