休み時間、住居
「この建物が、今日からあなた方が生活する住居となります」
教室の建物がある荒野からは、遠くに街の景色が見えていた。街の中に入っていって、先生はなんでもない一つのアパートの間で立ち止まった。
このアパートが、今日から俺たちの家。ふむ。
「一人一部屋です。この建物は二階建て、二階に四部屋あるのでお好きなところをどうぞ」
今この場に居る先生が引き連れる生徒は四人、部屋も四人。二階の四部屋に一人ずつ入っていく。右側に付いた外階段を上り、右から三つは他の子、一番左が俺の部屋となった。
階段を上がって一番奥の扉を開けると、そこには何の変哲もない1DKの部屋が広がっていた。ところどころに目をつむれば、異世界の部屋に来たという違和感がかなり薄い。玄関から、手前にキッチン、風呂トイレなどの水場への扉、ガラガラと引き戸を開けてワンルーム。
すでにベッドや棚、机などの最低限の調度品も揃えられ、置いてある。床は暗い色調の木材が縞々に張られており、部屋の奥にある窓まで行って下をのぞけば、下の建物裏の空き地が見える。
この世界では、“魔道具”という、魔力や魔石をエネルギー源として動く器械文明が発達しているらしい。明かりもあれば料理に使う火もある、トイレも各部屋に。シャワーも暖かい湯が出る。
この世界でも、あまり文明レベルの差を感じずに生活できそうだった。壁際のスイッチを押せば天井の明かりが付く。キッチンにあるでかい棚を開けると中が冷えている。
今日は、もう自由時間だった。先生はもうここには来ず、次からは、自分で起きて街の離れの荒野の建物の教室に向かうだけ。今日はもう自由。
生活用にと、この世界でのお金も渡されている。近所に、総菜などを扱う出店が集まっている広場があるらしい、そこでいろいろご飯を買ったらいいと先生は言っていた。
俺は街の外を見て回ろうと玄関の扉を開けると、同時に隣で扉が開く音がする。扉を出て隣を覗くと、今、隣の部屋の子も部屋から出てきたらしかった。
「……やぁ」
「……こんにちは」
そっちの外開きの扉に半身を隠しつつ、隣の女の子は挨拶してくる。ここは外付けの廊下、下に行くには扉を四つ過ぎて、反対側の階段まで行かなきゃならない。つまりこの子の隣を通り過ぎて……だが、彼女はドアを開けたまま、こちらを伺う様子がある。淡い水色の髪が、傾げた彼女の頭から垂れている。通れないから閉めてほしいなそこ。
「えっと……今から外でも見て回ろうかなって。……ほら、晩ご飯! あの人が言ってたでしょ? 近くにご飯の屋台が集まる市があるって。そこに行ってみようかなーって」
と、一応説明してみる。その子は、じーっと俺の顔を見ている。なんだ。もう行っていいか?
「ひとりで?」
と、その子は聞き返してきた。
「まぁ、そうなるね」
「……」
「あー……一緒に来る?」
俺は何とはなしにそう誘ったが、その子はこくんと頷く。そのまま扉をぱたんと閉じる。
なんだ、隣の女の子は、一緒に出掛ける人を探してたのか。まぁ、もう外は薄暗いし、あの人は“治安のいい街”だとは言っていたが、こんな時間から一人で、それも見知らぬ土地で、女の子一人で歩くのは心細いだろう。まぁ同階にあと二人女の子が居て、俺が同行する理由もないけど。まぁいいや。
「この街の料理、俺たちの口にも合うといいね」
「……うん」
彼女に話しかけると小さく返事が返る。こつんこつんと、二人分の足音が階段を下りていく。




