第一話、氷海の地図 ーII
「こっから先はこの車で行ってくれ。この船じゃこれ以上近づけん」
俺たちは青海を船で渡っていた。水平線上に白い塊が見え、俺たちはその近くまで行ってエンジンが止まる。海上を進む白い船の上には、一台の、箱のような魔導の機械が載せられている。もうすぐそこの深い青の海から、氷のばらばらの白い大地が始まっている。
「水陸両用だ。水に落ちても進める。まぁあくまで短距離だけで、本来は陸上用だがな。箱の上に雪が積もっても熱で溶けるが、動かしてない時は積もる」
甲板の上に固定された、透明な箱型の小さなバス、前に二人席、後ろに二人席、そんな感じ。
「これ、本当に借りて行っていいんですか?」
「あぁ。金ならもう受け取ってる」
彼女たちはさっさと側面の扉を開け、中に乗り込んでいる。
「わしが運転する!」
「だめ。わたし」
前座席は二人が乗るようだった。俺は後部座席に乗ってのんびり景色を楽しむか。
窓を閉めると、似てる感覚を言えば、観覧車のかごの中に入っているような感じ。決して広くはないが、四方天井全面が窓なおかげで圧迫感は感じられない。また、中は暖房が入るようで、氷の海の上の風に冷やされていた俺たちの体が温風に包まれ温まっていく。
「しゅっこー!」
「しゅっぱつしんこー!」
箱形の車が動き出す、がたんと、船の縁を乗り越え、視界が落ちる、俺は座席にしがみついて耐える。海に落ちた箱型の船は水中と空気中で乱高下を繰り返して高さを調整し、やがてぷかぷかと水面に浮かぶ。
「じゃあねー、船のおじさんー!」
車が動き出す、水をかき分け頼りない海の上を進んでいく。すぐそこに白い、氷塊の群れの端がある。ごつんと、氷の塊に箱の車が激突し海を揺らす。
「どうやって上陸するの?」
「なんか押すんじゃない?」
「これかな?」
大丈夫かなこの二人に運転任せて……。ミナモさんが何かのボタンを勢いよく叩いた。俺の体は座席に引っ張られ、箱型の車は海を脱出し、氷塊の上をバウンドしながら着地、そのままわしゃわしゃと氷の整列を乱しながら氷塊の上を順調に走り出す。
「わはは! いいぞ! すすめ!」
頼りなく浮き沈みを繰り返す氷の大地を、透明な車は走り抜け、しばらくすると、今度はちゃんとした浜辺を見つける。俺たちは島に上陸し、ぶるぶると震え、透明な箱型の車は陸地の上で止まった。周囲の砂浜から波の押し引きの音が聞こえてくる。
「なんだ? なんもないぞ!」
氷の大地の上に紛れた小さな島。海面に多少盛り上がっているくらいで、すぐそこにある頂上まで登ったら、島の全景は容易に見渡せるだろう。
窓を開けると、再びの冷気。ここは龍脈の影響により、異常に寒冷された海の上。海の上にはいくつもの海氷が流れ着き、気候ももちろん寒いが、氷や雪が見られるのは実は局所的にこの周囲だけであり、本当に氷河などが存在する地域と比べると、地上の空気などもそう厳しい寒さではない。
俺は首を縮めながら大地に降り立ち、島の景色を見渡す。ほかに人の気配がない、マコモが居る手掛かりは、今のところ見かけていない。後ろの子供たちも車の外に降りてくる。
「じゃあ、俺はマコモを探しに行ってくるよ。二人は拠点作っといて」
「わしに指図するな」
「ジャノメちゃんが拠点作っといてくれると、お兄ちゃんうれしいなー」
「子ども扱いするな」
「氷海に漬けるぞ」
俺は荷物の中から探索用の装備を取り出し、出る準備を始める。
「三日以内には一度帰って来るね」
「なんじゃ、そんなに空けるのか?」
と、ミナモさんもやって来て、ジャノメの体を後ろから両腕で包む。
「今日は帰って来ないの?」
「今日は……うん。まぁ出来たら帰って来るよ」
「ふーん」
ミナモさんは、じーっと俺の顔を見つめている。潮の音がすぐそばでずっと聞こえている。
「……特記する点が見つからなかったら、夜には帰るよ」
「わかった」




