第二十三話、迷宮街の宝物 ーIV
「……もういい」
と、冷たい声が戦場に響き渡る。見れば、ずっと様子を静かに見ていた、向こうのリーダーの男だ。
「もういい。雑魚ばかり集め、強くなった気でいた俺が馬鹿だった。もういい、あとは俺がやる。全員失せろ」
彼の冷たい言葉に、まだ頑張って戦っているモンスターの一人が声を返す。
「そんな!! まだ戦えますよ、俺た」
彼は、懐から黒い剣を取り出した、彼はそれを静かに振り抜いた。途端、そこから不可視の刃が生まれ、縦の斬撃は炎をまとい戦場を過ぎ去る。あちらで争っていた残りは訳も分からずそれから逃げて、一匹のモンスターが逃げられなかったらしい。斬撃の軌跡に、真っ黒焦げの体が落ちている。
「タウロス・アルメリア。出てこい。俺はもう飽きた。それとも、まだほかに死にたい奴が居るか?」
彼の呼びかけに、誰も動けない。動けなかった。俺は今の攻撃を対処しようがない。“潜影”で逃げて、それから? 彼は今の攻撃に予備動作が無かった。逃げて、起き上がったところをまた攻められて終わり。
俺の攻撃は今のリュエルにさえ通じなさそうで、あっちのリーダー格の男にはもっと。俺はもうこれからの戦いに付いて行けない、あとはもう見守るばかりだ。今動いて、標的にされて、あとはすぐ黒焦げにされるだけだろう。
一つ、足音がする。もう乾き始めている砂の山を登り、一つの影が姿を現す。
「遠回りした割に、ずいぶんと短気なお方なのですね」
その影には、頭部に二本一対の内側に閉じた牛の角。
「口車に乗せられたよ。作戦通りに行けば勝利は確実、なんて。俺より弱い奴の言葉なんて、信じるべきじゃなかった」
「あなたのために身を尽くして戦ってくれた臣下たちに、感謝の気持ちはないのですか?」
「感謝? 何を言っている? こいつらこそ頭を地面に擦り付けて俺に謝るべきだろう、俺の期待にそぐわない活躍をしたことに」
「それでも、彼らはあなたのために戦った」
「結果を残さなければ無意味だ。負ければ何も残らない」
「話が合いませんね」
「あぁ。だから戦っているんだろう」
アルメリアは、砂山の上をゆっくりと降りてくる。向かい合う両者のほかに、もう動こうとする者は居なかった。砂漠の上を風が吹いていく。空はいまだ晴れぬまま。
「一族を率いるには不甲斐ない私ですが、それでも、あなたのような粗暴な人間に、私たちの一族を預ける訳には行きません」
「御託はいい。ここは言葉を交わす場じゃない。さっさと掛かって来い」
アルメリアが構えを取った、それは、さっきリュエルがして見せたのと全く同じ。
「はっ、お前ら一族は馬鹿の一つ覚えみたいに同じ技しか出してこねぇ。少しは頭を使えないのか?」
「ここは言葉を交わす場じゃないですよ、お兄さん。強さは力で示しなさい」
奴はその黒い剣を構え、無造作に振る。剣の軌跡から斬撃が生まれ、それは炎をまとい砂の地面を二つに引き裂きながら進んでいく。
その進行上のアルメリアは、避けることはしなかった。ただ構えを取って、走り出す。軌跡が彼女に接触した途端、まるで空間が歪んでもいるかのような錯覚を受けた。構えを取って走るアルメリアの周囲にも、不可視の覆いのようなものがあり、それが炎の斬撃とぶつかって、斬撃の方を容易く打ち砕いた。
アルメリアはただ砂の上を走っていく。奴は黒い剣を構え直した。
「だからそれがバカって言ってんだよ」
その切っ先が、寸分違わず彼女に向けられている。
「“炎剣”!!!」
そこから大量の炎が噴き出した。量だけじゃない、それは鋭い、白い炎の槍だった。それは直線上のアルメリアを飲み込み、その背後の砂山をも貫く。穴を見れば、そこはバターのように溶けている、上から砂が落ちてきては、溝に残った溶けた砂がそれを飲み込んで、また溶かしていく。
決着は、一撃だった。




