第二十三話、迷宮街の宝物 ーIII
「ここは通しませんよ」
と、向こうで立ちはだかるのは、あのリュエルとかいうクールな女性。その髪から、小さく生えた牛の角がのぞいている。
「あら、綺麗なお姉さん! その綺麗な顔を傷つけたくないから、さっさとどいてくれる?」
「構いませんよ。私の体は美しく、そして頑丈です。勇猛果敢なタウロスの血の片鱗を、今からあなたに見せて差し上げましょう」
フタバさんとリュエルが砂漠の上、向かい合って立つ。多分、あのクラスだと、俺の手出しは邪魔なだけだな。
リュエルが腰を低く落とした。頭を下げて、東部に生えたその角の先端を、フタバの居る方へと向けている。
「“突進”!!」
言いながら、彼女は足をかき、大量の砂を蹴散らして走り出す。腕を両腕に構えタックルの構え、なんだ、ただのタックルか?
フタバさんは両手を構え、それを受け止めようと―
リュエルが通り過ぎた後、フタバの体が宙を舞う。
「フタバさん!!」
「おい!! 俺の妹に何してんだ!!」
カズハさんがこちらへと、リュエルの居る方へと駆けていく、俺はフタバさんの元へと駆け寄る。
「大丈夫ですかフタバさん」
「あはは……正面から受けちゃった……馬鹿だねわたし……」
鬼の体は頑丈で、奴の衝突を受けた後も体のどこかが欠けたりはしてない、ただ内部にダメージがあるのか、フタバさんは起き上がろうとしても起き上がれていない。
「大丈夫だよ……鬼の体は特殊だから、寝てればそのうち治るから……」
彼女は俺を安心させるかのように、そう呟いている。
「壁の近くまで運びます。お姉さんはもう“降伏”ですね」
「いや……まだ……」
「自分で立ち上がってから言ってください。背負いますよ、ほら掴まって」
自分より大きい彼女の体を背負い、俺は壁の近くへと歩いていく。近づいたところで先に降伏していた町のみんなが寄って来て、俺は彼女をみんなに任せて再び戦場へと戻っていく。
戻れば、魔王軍の数はどんどん減っている。だが俺たちの数も減っていないわけではない。元の場所に戻れば、カズハさんが息を乱して砂の上に跪いている。その視線の先には、多少服が乱れているものの、まだまだ余力を残していそうなリュエルの立ち姿が。
「お兄さん無事ですか! あなたも、どこかケガしたなら撤退を―」
「あぁ……? まだミツバが戦ってんのに俺が退けるかよ……」
カズハさんはよろよろと立ち上がる。
「もう諦めてはどうですか? 気持ちだけでは、あなたと私の間にある実力の差は埋まらない」
向こうのリュエルが、カズハさんにそんなことを呼び掛けてくる。
「ちっ……頭良さそうななりして、戦法はただ突進を繰り返すバカのくせに……」
「論理的に考えて脳死で突っ込んだ方が強いんですよ」
「にーちゃんだってバカのくせに見栄張ってんじゃねぇよ。ケガする前にさっさと退け」
と、後ろからミツバも現れる。リュエルの視線が今度はワカナに向く。
「おや、姉、兄と来て、今度はその末っ子ですか。家族総出でお出迎えとは、嬉しい限りですね、青髪」
「フルコースで言うなら俺は締めだぜ、ねーちゃん。しっかり味わってくれや、最後の味」
ワカナがお兄さんの肩を掴み、ぶん投げた。砂の上、俺の隣をお兄さんの体がごろごろと転がってきて、止まる。それがトドメになったらしく、お兄さんはもう動かない。これも俺があっちまで運んだ方がいいの?
「ねーちゃん、反芻って知ってるか? 食って吐いて食って吐いて、何度も同じ食べ物を味わうんだ」
「消化器官が短い、牛などの草食動物に見られる習性ですね。消化が苦手なので、回数を繰り返してそれを補うのですよ。私は確かに牛の角が生えていますが、体は人間に近いので反芻は行いません。牛差別ですか?」
「あんたの話はしてねーよ。俺の話だ。食べたものは吐く。必ずしも飲み込んで、消化するわけじゃねーんだぜ」
「……? だから?」
「あんた、打撃には強いみたいだが炎はどうよ」
ワカナの頭が化け物のそれへと変貌する。あんぐりと、その口を大きく開いてリュエルに見せた。その喉の奥、ちりちりと目を焦がすような熱がいまだ留まっている。
「……まさか」
ワカナの大きな頭から、炎の大蛇が生まれ出た、それは向こうに立っていたリュエルを真正面から飲み込み、砂に溶けた後を残しながら炎は過ぎ去っていく。
ぷすぷすと体の端々が焦げている、リュエルは、その場にばたんと倒れ伏す。体が溶けて行っていないところを見るに、核はまだ無事であり、寝ていればその内復活するのだろう。先に降伏していた人型モンスター二人がやって来て、彼女の体を担ぎ上げ、えっほえっほと遺構の方へと運んでいく。
「仇は討ったぜ、カズハにーちゃん」
「仇もお前じゃないの?」
俺がワカナに寄って周りを見渡すと、砂山の向こうから迷宮街の残りが向こうから合流する。弧の両側から攻めて来て、合流したということはもう残りはここに居るだけ。向こうは、“大将”を除くと残り三人、俺たちもアルメリア以外では五人か。残りの三人と、俺たちの残りが向こうで戦っている。
「……もういい」
と、冷たい声が戦場に響き渡る。見れば、ずっと様子を静かに見ていた、向こうのリーダーの男だ。




