授業:魔法実習
「次は、魔石を用いずに魔法を撃ってみましょう。大まかな原理はさっきと一緒です、が、一部異なる箇所もあります」
再び校庭の上、先生の前に集まり、俺たちは話を聞いている。青空に三匹の鳥がはばたき過ぎていく。
「”魔法”とは通常、魔力の放出、魔力の集中、発動する魔法の現象の方向性の決定、そして魔法の起動という段階を踏みます。さっきの”原魔法”においては、”魔石”に魔力を流し込み、刺激することで”魔法”が起こっていました。今回は、自身で魔力を放出し、集中させ、起動してみましょう。魔法の属性などの決定はまだ難しいので、今は自分の魔力そのままの魔法を起こしてみましょう」
先生の言っていることは難しいが、まぁやってみれば何とかなるだろう。
「ちなみに、属性の習得については、その属性の”原魔法”を魔石で体験し感覚を覚えるというものなので、余裕のある方は今やっていただいても大丈夫ですよ」
俺は手の平の上をじっと見つめる。俺の体内は不思議な力の流れで満たされている。
手の平から、魔力を出す……それを一点にかき集め、起爆。今回やる操作はそれだけだ。だが、この、”体外に流れ出した自分の魔力を操作する”というところが難しい。それは、俺の意思通りになかなか集まってくれず、ふわ、ふわと、俺から漏れ出た魔力はその場で漂うだけだ。
「なにしてんのー?」
校庭に散らばって魔法の練習をしていると、誰かがやって来て後ろから声がする。振り返れば、声の主は清霜さん。
「……な、なにしに来た」
「私はもう終わっちゃった。キョウゲツはー? まだやってんの?」
清霜さんは気安く俺に話しかけてくる。え、もう終わった? 周りを見ても、ほかの人もまだまだ練習中だ、俺が遅いということは無さそう……こいつが早いだけ?
「う、うるさいな……もっと練習しろよ」
「そんなこと言われても、もう五つの種類は撃てるようになったし。魔力も少なくなって疲れちゃった」
はや。
「木陰で寝てろ」
「キョウゲツは? まだ出来てないのー?」
俺は彼女の言葉を無視し、片手を目の前に掲げてそこに集中する。
「へー、“風”の魔法練習してんだー」
「……」
「“炎”と“雷”は使いやすそうだったよー」
「……」
うるさいな……。
「ねぇってばー」
……こっちは集中してるんですけど!? 俺は、諦めて彼女の方を振り返る。
「何しに来たんだよお前……」
「暇だから、教えに来てあげたの。下手くそな人にー」
と、清霜さんはにやにやと俺の顔を見上げている。
「頭下げていいよー」
「帰れ」
「は? “教えてください”は?」
俺は一瞬考え、ベーっと舌を出すと彼女に頭を掴まれる。彼女は、冷えた口調で俺に言ってくる。
「教われ」
「お前はどういう気持ちなんだよ」
……はぁ。よく分からんが、
「……自分でやれることは、自分でやりたい。何かしてくれるって言うならそこで黙って見ててくれよ。分からないことがあったら聞く」
「はー? 仕方ないなー」
彼女は校庭の端、木の生えた根元にしゃがみ、こちらをぼーっと見ている。若干気になるが……まぁいい。清霜さんが見ていようが見ていまいが関係ない。
俺は手のひらに集中する。もう一度、全身を満たす何かに意識を傾ける。“魔石”を使った時と同じことだ、手の平に穴を開け、手の平に向かって魔力を押し流し、魔力を体外に放出する。そこまでは同じなのだ。
俺の手の平から漏れ出した俺の魔力は、まるで色の付いた透明な煙だ、黄緑色の光の帯が、ふわふわとそこでわだかまっている。これを……なんだっけ? ぎょうしゅうさせる? 集めて、小さな球にする。圧縮、集めて、一つに……。
「おー」
脇から余計な声が聞こえる。清霜さんは黙ってて。
ふわ、ふわと、手の先で煙のようにわだかまる魔力、感覚で握りしめようとしても、指は宙を掻き、煙のわだかまる様を多少乱すだけだ。なかなか一点に集まってくれない……。
「そうじゃなくて。引力を作るんだよ。まんなかに一個星を作って、それが周りの魔力を吸収して、育っていく感じ」
星を作る? 吸収させる? よく分からないが、彼女は多分それで出来たのだ。多分正しいはず。星を作って、引き寄せる……星ってなんだ……。
俺がじっと手の平を見つめていると、穴が開くほど見ていると、その上に、小さな光点が生まれる。それは周りの透明な煙を吸い込んでいく、今俺の手から漏れ出している魔力も、出てすぐにその光点へと集まっていく。これか?
「お、いいねー、その調子。じゃあそろそろ爆発させよっかー」
爆発、爆発……さっきの“原魔法”と同じだ、刺激したら起爆して、一気に現象として解き放たれる。
目の前の光点が、ひときわ強く光った。途端、手の平から放たれる、迸る突風。
できた! これが魔法!
「おー」
そちらで座って眺めていた清霜さんも、感嘆した様子でこっちを眺めている。
「ありがとう清霜さん、おかげで―」
「まぁ“風”の魔法は弱そうだけどね。じゃあ次は“雷”覚えようよ。強そうだったよ」
……。俺の身体属性は“風”である。
「俺あっちで練習するわ」




