第十二話、流星の光
「出来たよ」
その報告を受け取って、俺はツバキを連れて再び工房を訪れた。
「おー……おぉ?」
工房の中、石の台の上にそれは置かれていた。色合いは赤銅に近い、しかしどこか金色っぽい金属質の、片手用の丸い盾と直剣。
「付けてみてくれ」
オチバに促され、少女は立ち上がりそれらを手に取る。ツバキは左手にその丸い盾を身に着け、右手に剣を握る。
「どうだ? ぴったりだろう!」
オチバの声に、ツバキがびくと震える。そのまま俺の後ろへと移動して隠れる。
「……なぁ。今日ここに来る前にもツバキがお前に会うのを渋ってたんだが……変なことしてないよな?」
「変なこととはなんだ、失礼な」
後ろから、ツバキが俺の耳元にぽしょぽしょと囁いてくる。
「……お前にお尻を揉まれたと言っているぞ」
俺がオチバにそう問えば、褐色の肌のツナギの少女は堂々と言い返してくる。
「何を言っている、お尻は脚の筋肉が集まる重要な部位だろう。少女がどれくらいの重さを振り回せるか、その子の筋量を把握するのは重要なんだぞ」
「そう言って、触ったんだな?」
「まるで私が犯罪を犯したかのように言うな」
俺はツバキの方へと振り返り、目の高さを合わせて話しかける。
「ツバキ、それは職業上必要な作業だったみたいだ。あんまり、深く考えなくていいぞ」
「でも胸も触られた」
「オチバさーん? 胸はー?」
俺が再びオチバの方に振り返ると、彼女はまるで隠し事が見つかったかのようにどぎまぎとしている。
「いや……それはその……」
ほう?
「……この工房の機材の類は、勇者協会から貸し出されてるものだってな。そんな身分で客にセクハラとは良い度胸だな」
「ままま待ってくれ! いや違うぞ! 私はただな!」
「ただ、なんだ? 言ってみろ」
オチバは途端に言葉の勢いが弱まり、そしておずおずと言ってくる。
「その子が激しい動きをする割に適切な装備をしていないようだったから、適当な胸当てでも作ってやろうと思って……」
「……なんで今いったん隠した」
「……注文は受けていないし……その、異性の君には、知られたくないかなと思って。後でこっそり渡そうかな、と……」
「……せめて本人に許可を取ってからやってくれ」
善意によるものか。ややこしい……。俺は再びツバキの方に向き直る。
「だとさ。多分悪気はないみたいだ。職人気質の人みたいだし、気持ちが先行していろいろ確かめずにやっちゃったんだろう。許してやってくれ」
「確かに。最近は、魔法を使わないと乳首が擦れて痛かった」
ちちち
「ちち乳首とか言うな。それは淑女の嗜みでない」
「……? 分かった」
俺たちは表に出てきた。そこには空き地があり、工房に入れられない道具とかも端に積み重なって置いてある。
「どうだ? 軽く振って、使いにくい感じとかあるか?」
オチバの言葉に、ツバキは手元に握ったその剣を見る。ぶんと振って、その重さに手を持っていかれている。
「わわ、この剣重い……あれ?」
不思議がるツバキを見て、軒先から見ているオチバが説明を始める。
「それには、特殊な鉱石の持つ、二つの特性が引き継いである。一つはグラビティメタルの“慣性の強化”、静止している時、あるいは動かし続けている時には変わらないが、動かす時、あるいは動かしているものを止める時には重量以上の重さを感じる。これは、君の持つ弱い力でも高い威力を出せるようにするものだ、ひとたび剣を動かし出せば、敵の手によって止めづらく、また空中に置いてあるその盾は、盾の重量以上の攻撃を受け止めることが可能だろう。まぁ偉そうに言っているが、その人が持ち込んできた素材なんだがな」
ツバキは空き地の上で、不思議そうな顔でその剣や盾を振り回し、あるいは慣れずに振り回されている。
「もう一つはメテオライトの特性だが……まぁ実際に見て貰ったが早いだろう。私が棒でその盾を殴るから、君はその盾を構えててくれないか?」
「わ、分かった」
「準備はいいか? 結構強めに行くぞ」
少女が腕に付けた盾を掲げ、オチバの方に構えた。オチバはその辺の鉄の棒を拾い、少女の掲げる盾へと振り下ろす。
カァンと、甲高い音、そして小規模な爆発が盾の上で起こり、殴り掛かった方の鉄の棒を容易にはじき返した、逆にオチバは返されたその勢いにたたらを踏む。少女の盾は動いていない、ツバキはびっくりした顔でそれを見つめている。
「この通り、メテオライトは衝撃を受けると受けたエネルギーを吸収し、爆発として即座に返す。この特性は永続であり、メテオライトが爆発で無くなることはない。盾を殴れば爆発が起きて敵の攻撃をはじき返し、また剣で殴れば接点で爆発が起こりその攻撃を強化する。加えてグラビティライトの慣性の強化により、盾や剣は爆発による動作の影響を受けづらい。総じて、力のない君でも戦えるような属性の付与だ。ほか、繋ぎとして丈夫な金属を混ぜている」
ツバキは、珍しそうに剣と盾を見下ろし、それらをカン、カン、とぶつけて、小さな火花を生じさせて遊んでいる。
確かに、これならグラビティメタルのそれとも相性が良いし、俺が作って欲しかった武器の意図も汲んでくれている。先生が紹介してくれたこの子の職人としての腕は確かだったらしい。
「私が説明すべきはここら辺かな。どうだ? 実際に使ってみて、使いづらさとかは感じただろうか?」
「いや、特にない。大きさも柄の太さも重さも、今の私が使うのにぴったりだ。ありがとう」
「そうか。それは良かった」
セクハラ、じゃないや、詳細な寸法の成果だろう。
「それに……」
と、ツバキは手元のそれらを見下ろしながら続ける。
「この重い感じは……私が、魔法を使った時の、体を動かす感覚と一緒だ」
「確かに。似てるかもね。嫌だった?」
「いや……むしろ心地いい。これがいい」
少女はそれを気に入ったのか、盾や剣を握ったまま、くるくると、まるで踊るかのようにその場で使い心地を確かめていた。
「それは完成品、と同時に、私が初めて作った試作品でもある。何か不具合が出るかもしれないから、週に一度くらいは状態を見せに来てくれると助かる。ついでに手入れもしてやろう」
週に一度か……今少女が部屋を取っていたあの町は、この街から転移陣で直で行けないし、お金も時間も毎回掛かる。
「ツバキ、ここに、週に一度はそれを見せに来て欲しいだってさ。ツバキは、あの町になんかこだわりとかあった? 無いなら、このアイリスの街の近くに移動すると楽かもなんだけど。そしたら、俺もツバキの様子を見に来やすいしね」
「先生の言うとおりにする」
「少しは自分で考えなさい」
「先生の部屋に住む」
「先生は今、森林街の方に拠点を取ってるしな……」
ミナモさんの部屋に連れ込むわけにも行かないし。
「最低でも、この街と転移陣で繋がってる町がいいかもね。ツバキの実力で、いい感じの狩り場があれば。近ければ転移費用も安いし。あるいは、バス一本で行ける町とか」
「先生と一緒に選ぶ」
「……うん。じゃあ後で、一緒にいろいろ見て決めよっか」
俺は、脇に置いていた荷物を持ち上げる。
「じゃあ、一回狩りもやってみよう。外に行こうか」
「……まだ、付き合ってくれるのか?」
少女は赤みがかった金色に輝くそれらの装備を手に持ちながら、不安げな顔でそう聞いてくる。
「ちゃんと君が出来てるところを見るまでやらないとね。言ったでしょ? “君が出来るまで一緒に居る”って」
俺たちは街の外に出て、森の中にモンスターを探しに入っていった。少女は、最初は慣れない様子で武器を振り回していたが、すぐに感覚を掴み、この街の周辺で見れるモンスター程度なら容易に切り倒していった。
作ってもらった武器はもちろん優秀だったが、やっぱりこの少女も優秀だ。街に帰り、その日出来た稼ぎで、俺は少女から屋台の揚げパンを奢ってもらった。




