第十一話、採寸2
その日は会えないということだったので、俺はまた日を改めて学校を訪ねた。どうせだからと、ツバキも一緒に連れて来た。
「やぁ! 君が僕に武器を作って欲しいという冒険者か!」
教室の中から姿を現したのは、ツナギのような服を着た少年のような少女だった。髪は短く、肌は程よく日に焼けており……気のせいか?
「僕はオチバ! そっちの子が実際に武器を握る少女かい? まぁ詳しい話はあっちで話そう! お茶も出すよ!」
彼女の後ろに付いて行けば、一つの建物の中に入る。そこは工房のような場所だった。火がめらめらと燃えている炉がそこにあり、俺たちは土間の上に椅子を用意され、そこに座る。
「グラビティメタルって言う、特殊な鉱石でこの子に武器を作って欲しいんだ。武器種は、それぞれ片手で持てる盾と剣を一つずつ。出来そうか?」
俺は単刀直入に用件を伝えた。彼女は鷹揚に頷く。
「やってみよう。……あぁ、やってみようでは少し心許ないな。私の名に懸けて、仕上げてみせようじゃないか」
出来……るかはまだ分からないが、とにかく引き受けてくれそうで良かった。俺は一旦ほっとする。
「費用はいくらくらい掛かりそうだ? 出来れば製作期間も知りたい」
「時間は、そうだな。一週間もあれば出来るだろう」
「そんなに早く出来るのか? すごいな」
「あぁ。うちの工房の道具は優秀なんだ。まぁ上から貸し出されたものだけどね。でもそうだね、期間に余裕があるなら十日くらい貰えると安心だ。初めての素材だしな」
がははと少女は豪快に笑う。
「それから、金は要らん」
「そうはいかない。貰ってくれ」
「要らん。その代わり、僕が指定する材料を取って来てくれ」
そういうことか。この少女は特殊な鉱石を使った武器を作りたい、その素材を得るのには金が要る、素材を仕入れる分のお金が浮くから、その分で作ってやると。未熟な鍛冶屋の腕だ、工費もそんなに掛からない……のか?
「分かった。好きなものを言ってくれ」
「メテオライトだ」
「メテオライト?」
「あぁ。衝撃を加えると爆発する。爆発が起きてもその石は無傷で、その特性は永続だ。面白いだろ?」
面白いな。何個か手元に欲しい。ついでに自分のを取ってくるか。
「へぇ、オチバさんは、そのメテオライトの武器も作るのか?」
「オチバでいい。何を言ってる、君たちの作る武器の話だぞ? まぁ、余った素材はほかに活用させてもらうこともあるけどね」
「あれ? この素材で武器を作ってもらうって話じゃないの?」
「その子に作る武器の話だろ? もちろん、そのグラビティメタルも使用させていただくよ」
俺は、隣に座るツバキの顔を見下ろす。さきほどから大人しく、そこにちょこんと座っている。
「……すまないが、この子が初めて握る武器の話なんだ。あまり、変なものは混ぜないでもらえると……」
「そのほそっこい子供の腕でも扱えて、モンスターと戦えるような強い武器が欲しいのだろう? まぁ騙されたと思って僕の言葉に従いたまえ」
少女は自信満々に言っているが……大丈夫かなぁ。
「あと、そこの君の採寸をいろいろさせてくれ。どれくらいの重さを振り回せるかとか、体の形とか重さとか、骨格とか筋肉の付き方とか、色々」
「必要なら好きにしてくれ。あと、それは時間が掛かりそうか? なら俺は今からそのメテオライトを取ってくるよ。俺が取ってくる素材はそれだけか?」
「もう行くのか? 性急だな。まぁ、僕としても楽しみが早まるから別に構わないが」
部屋に帰ってくると、ミナモさんが部屋の中で寝そべっている。
「ミナモさーん、今暇?」
「うぇ……?」
「狩りに行くから手伝って!」
ミナモさんは体を転がし、あっちを向いてこちらに尻を向ける。
「この前、ヒカリちゃんと一緒に狩りに行ったんだよ」
「……」
「でっかい二枚貝の中からね、虹色に光を変える不思議な石を取って来たんだ。綺麗な石でね、部屋の中に飾ってたんだけど……いつの間にか無くなってたんだ」
「……」
「おかしいなぁ……精霊さんが来て、石を持ってっちゃったのかなぁ……とか、いろいろ思ってたんだけど。最近その在処が分かったんだ! よかったね! ミナモさん、それがどこにあったか分かる?」
ミナモさんは向こうを向いたまま、ピクリとも動かない。
「この部屋の机の上に、俺が見慣れたその石が置いてあるな」
ミナモさんは向こうを向いたまま、おずおずと立ち上がる。
「アオイくん、気が変わったよ。私がその狩りに付いて行ってあげよう」
「そいつは良かった。あと石は返せよ」
*
暗い洞窟の中。目を凝らせば、青く光る何かがそこら中に見える。
「あの青く光ってる奴を、一個ずつ壁から削り取って集めて行ってね」
「めんどくさい」
「……周り見ててね。モンスターが来たらお願いね」
「あいあい」
地上にある森から、人に掘られた穴を潜ってしばらくすると、やがて天然の地中の空洞に繋がる。ここが“メテオライト”とかいう特殊な鉱石の産地だった。それは暗闇で発光する性質があり、明かりを消せば容易に見つけ出すことができる。
もちろん明かりを付けなければ俺たちはほとんど周りが見えないし、この空洞には少なからず危険なモンスターが徘徊している。気を抜いて採石に集中は出来ない。
俺は持っている明かりを消して、頭の中に残る地形を頼りに手探りで近づき、光る小さな青い石をピッケルで削り、拾い集めていく。
「今日の補填だけど……」
と、ミナモさんが暗闇の中で何かを言い出す。
「ほてん?」
「今、アオイくんのお願いを聞いてあげてるわけでしょ。じゃあ私のお願いも聞いてくれるよね」
いやそれはお前の……、
「……まぁいいよ。何でも言って」
「今度……私の部屋でゆっくりして行ってよ……一日」
「いいけど、何すんの?」
「何するとかじゃないから。……まぁケーキとか食べるかもだけど」
それは予定のうちに入るのだろうか。
「了解。暇な時でいいの?」
「いいよ。でも後回しにしちゃだめ」
「おっけー、優先ね」
壁から剥がれ落ち、カランコロンと光る青い石が地面を転がる。
「ここら辺のは剝がし終わったから、一回明かり付けようか」
肩の明かりを再び付ければ、ミナモさんは何かを手に持っている。鵜? 水鳥? そんな感じの鳥。
「……なにそれ」
「これ? 来たから捕まえた」
ミナモさんは何でもないことのようにそう返す。こいつ、いつの間に。この暗闇の中でか。アサシンかよ。




