第八話、祭りの後
黄金祭りは、黄金を落とすモンスターがもっとも湧く期間に開催されるが、その前後にも、か細くだがあのウナギトカゲは湧いている。俺は帰りのお金がなく、また一斉に帰りだす祭りの客との時期をずらすため、しばらく街に残ることにした。当初はウナギもどきを狩って帰りの代金を稼ぐつもりだったが、祭りの撤収のための人手が足りておらず、俺はそちらに参加しながらもお金を稼いだ。
祭りの手伝いの依頼なんかもギルドを通して募集されている。割りがいい依頼がないか、俺は朝早くにギルドへ訪れると彼が静かにギルドに立っていた。
「ご、ゴールデン・ホールマンさん……」
今日はあの黄金鎧を身に着けておらず、ラフな格好で、彼は朝早くのギルドの中に立ち、ギルド内を見渡しやすい位置で静かに立っていた。俺が思わず彼の名前を漏らすと、茶髪の男性はちらと俺に視線を向けた。
「祭りの後も残り、後片付けを手伝ってくれるとは、なかなか熱心な若者だな」
静かで落ち着いた声が、俺に向けて発せられる。あわわどうしよう……。
「あぁいえ、自分なんかお金目的ですし……」
「それでもだ。祭りが終われば、ほとんどの冒険者は次の日には居なくなってしまう」
朝早くなのもあったが、ギルドの中には誰も居ない。そこには、祭りの初日に帰って来て、歓声に包まれながら換金したギルドの買取所がある。今はもう誰も並んでいない。ギルドは空いていたが、職員は裏手に居るのか、受付にも誰も居なかった。まぁ呼んだら来てくれるだろうが。
「あれだけ冒険者でにぎわったこの街も、祭りが終われば寂しいものだ。祭りの時期以外は、ここはあまり“美味しい”街ではない。この街を気に入ってくれた、あるいはほかに行き場所のない者たちだけがこの場に残り、か細く狩りを行っている」
「平和で、いいじゃないですか? 代り映えのしない日常があってこその、特別なお祭りですし」
俺がそう返すと、おじさんは寂しそうに口の端に笑みを浮かべる。
「そうか……平和か。確かに、平和はいいものだな」
「ですね」
「君は……この街に残る気はないかね?」
俺は、何と答えたものかと考える。
「まだ世界を見終わっていないので。ここに長く留まるつもりはないですね」
「そうか……まぁそうだな。若者とはそんなものだ」
彼はあまり表情を動かさなかったが、言わずとも物悲しそうな雰囲気が伝わってきた。
街の中から少しずつ人が捌けてきて、毎日変わっていく乗り賃の立て札にも、手が届くようになってきた。俺は宿の荷物をまとめ、バス停から魔導車に乗り込み、街を出た。窓から背後を見ていれば、荒野の上にぽつんと立った、見慣れた黄金街がどんどん小さくなっていく。
*
やがて、あの森林街が見えて来た。行きよりも速い帰りの工程だったが、一人だったから少し長く感じた。俺はバスを降り、街の中を歩いて前に宿を取っていた建物の前までやってくる。移動していなければ、今も彼女がここに残っているはずだろう。
二階に上がって、扉を叩く。すると、白髪の少女が中から出てきた。少女は俺の顔を見て顔を輝かせたが、すぐに不満そうな顔に切り替え、俺に言ってくる。
「おそいぞ」
「ただいまー」
「友達が出来た。魔法学校の生徒じゃ。あまり狩りには出かけんが、三人で一緒に魔法の練習などしておった」
荷物をまとめ、宿に部屋を取り直し、多少身を綺麗にしてジャノメの部屋にお邪魔する。
「ふふ。今日はケーキだね」
「何のケーキじゃ。まぁ貰うが」
俺たちは、離れていた間に起こった出来事をさまざまに話しあった。黄金街で買ってきたお土産をテーブルの上に広げ、俺たちは陽光の入る部屋の中、くつろいでいる。どうやらシラアイはまだ帰っていないらしく、無言で帰らなくなるとも思えないが、シラアイのそばには他に冒険者も居たし、彼らとの付き合いとかもあって遅くなっているのだろう。
「なんじゃそのワカナとやら。わしらの金じゃぞ」
「俺の金ね」
前約束では、祭りで出た稼ぎは7:3で三割を俺がもらう手はずだった。まぁ祭りの間の彼の働きを考えればそれは貰いすぎだったとは思うが、だからと言って何も言わずに全部持っていくのはひどい。代わりにナイフは残されたがそれがどれくらいの価値があるかも分からない。いずれ居場所を突き止めて取り立てるつもりだ。約束は約束だからな。
「……そう言えば」
と、歓迎ムードだった少女が一転、居心地が悪そうに佇まいを直している。
「……うん? どうしたの?」
「……キョウゲツ・アオイというのは、珍しい響きの名前じゃよな? この街に、ほかに同名の冒険者は居らんよな?」
「まぁ居ないと思うけど」
俺が知っている範囲では。ジャノメは億劫そうに言葉の続きを紡ぐ。
「だとしたら……ギルドにて、この街に居るおぬし宛てに、言伝が届いておるようじゃの」
ふーん?
「じゃあまぁ、後で受け取りに行くかー」
「いや……その。わしは少し中身をのぞいてしまったんじゃが……早く行った方が良い、と思うぞ」
在籍している街と名前さえ分かれば、ギルドを通して届け物を送ることができる。ただし情報が少ないほど届く確度は低い。名前だけで俺まで届けようとしているということは、名前くらいしか俺のことを知らない相手か。
「……でも、疲れてるし、明日じゃダメかな? ジャノメとも話したいし、ジャノメも一人で寂しかったよね?」
「その……わしのことはいいから、今すぐ行ってやってくれんか?」
なんだ、せっかく今帰ってきたところなのに。ジャノメは一緒に居たくないのか。
俺はジャノメに急かされて部屋を出た。しかし、俺の名前だけ知ってる相手から伝言だけ伝えられて、いったい何があると言うんだろう。長旅の疲れもあり、ジャノメとの再会を中断されたこともあり、俺は若干不機嫌なまま、街のギルドへと足を運んだ。中へ入ると、帰ってくる前と同じ雰囲気のギルドだ。
「すみません、“森林街のキョウゲツ”宛てに伝言が届いてるって聞いたんですけど」
「あぁ……っと、はい。そうですね。確認してくるので、名前の分かる身分証などありますか?」
「冒険者カードでいいですか?」
受付さんは、やがて一枚の紙を持って帰ってくる。
「……おそらく、これですね」
伝言の内容は、いたって短いものだった。差出人は、“ツバキ・アークロイド”より、“森林街のキョウゲツ”へ。“先生、たすけて”と。
「……これは」
「付属の情報として、発信地が書かれてありますね。……おそらく、現地のギルドの職員に聞けば、何らかの事情を知っているはずですが……」
「どこですか? その町は」
「海の向こうですよ。この大陸近くの島国の―」




