第三話、“黄金祭り”本祭―一日目―
「今日からはガンガン勝負仕掛けていくし、あちこちで戦闘も頻発する。にーちゃん、参加する覚悟はいいな?」
*
黄金街の周囲には何もない荒野が広がっており、少し離れて森が見えてくる。森の中には川が流れこんできており、その周辺に金塊を落とすモンスターが現れる。
冒険者たちはその川の狩り場でモンスターを狩って、金塊を手に街まで帰ってくる。しかし狩り場から街までの帰り道には、金塊の横取りを狙う冒険者狩りの冒険者たちが待ち構えている。
「……なんかそこら中に居ない? 冒険者」
俺が聞くと、まだ暇なのかワカナは相手してくれる。
「こっちのみんなは、みんな“冒険者狩り”なの?」
「対象のモンスターを倒すこと自体は、そう難しくないんだ。湧くモンスターも限られてる、それらすべてを狩る冒険者も、そんなに数が必要な訳じゃない。モンスターを倒すのに余力があるんなら、回る役目は“冒険者狩り”の方になる」
じゃあここに居るのはみんな“ライバル”の方か……。結構居るな、俺たちはこれらをみんな相手しなきゃいけないのか?
「そろそろ来るぞ」
少年の声に、丘の向こうから、一人の冒険者の青年が帰ってくる。手に小さな袋を抱え、周囲の冒険者からじろじろと見られながら、びくびくと道の上を歩いてくる。
「あれ、みんな手を出さないね」
「俺らもパスだな」
「ん? どういうこと?」
青年は一人で道の上を歩いているが、荒野に点在する冒険者たちはそれを見ているのに、やはり手を出す気はないようで。彼は俺たちの前も過ぎていく。
「いいか? “決闘”ってのは、相手が降伏するまで戦うんだ。もちろん相手も何もせず頭を下げてくれる訳じゃない、ちゃんと相応の実力を見せて、相手の体力も削って、もうこれはどうにも駄目だって所まで相手を追い込まないと、相手も“降伏”はしてくれない」
「まぁ、確かにね」
彼らはせっかくモンスターを倒して成果を得たのだ、モンスターと戦う気概もあるのにそこらの冒険者相手にただで降伏はないだろう。
「つまり、一回“決闘”をすればその分俺たちの体力も削られる。すると、どうだ? 俺たちは疲れる、周りにはまだ体力満タンの冒険者たちが残っている。その“決闘”を行う前には勝てるはずだった相手にも、“決闘”後には負ける体力になっているかもしれない」
「なるほど」
片端から喧嘩売ってたら、疲れきった所をまた他に狙われる訳だ。
「あぁ。だから喧嘩……えぇと、“決闘”を売る相手は選ぶ。選ぶ基準は三つだ、そいつを“降伏”させるのにどれだけ体力を使うか、どれだけの金塊を持ってそうか、そして、体力を浪費して金塊を得た後の俺たちが、倒すのに割りの良いカモになってないか」
要は、いかに倒されずに街まで金塊を持ち帰れるかを一番に考えるべきだということだ。欲をかけば、割りのいい相手としてほかの冒険者から勝負を挑まれ金塊は取り上げられる。野蛮な争奪戦と思えば意外と戦略が必要なのだな。
「さっきの冒険者は、ワカナから見てどうだった?」
「実力はまぁ、普通だな。弱いが、狩り場でモンスターを狩って来れる標準程度。だが帰ってくるのが“早すぎた”。大してモンスターは狩れてないだろう、それに一人だった、持ってる金塊の量も少なかったはず。多分、お祭りに参加したいだけ、あるいは少量でもいいから金塊が欲しかっただけの参加者だな。総じて、相手するにはしょっぱい相手だ」
なるほど。で、彼は結局誰にも勝負を仕掛けられずに街まで行けると。この場での成功のコツは強さじゃない、不相応な欲をかかないことなのだろう。
「要は、たらふく金塊を抱えた欲深くて弱そうなカモを狙うわけね」
「戦った後、俺たちがそのカモになっていないかも考えろよ」
その後、おそらく“参加賞”目当ての帰りの冒険者たちを何人か見送った。
「来たぞ」
と、ワカナが腰を上げる。向こうから、冒険者の一団が帰って来ているのが見えた。四人パーティーだ……うち一人が、袋に金塊を詰めて運んでいるのが見える、あれはこのお祭り専用の袋であり、あの袋に金塊を入れて持ち歩くことがルール。量は十分あるように見える。
「い、行けるの……?」
「俺はな。お前は戦闘が終わるまで待っててもいいぞ」
「……俺も一応顔を出すよ」
目標の冒険者の集団は、警戒しながら道の上を歩いてくる。だが……俺たちよりも前にまだ他に“待ち受けている”冒険者が居るのに、彼らはどうやらその集団を見逃す様子だ。
「……みんなは、手を出さないね」
「あの金塊の量に、あいつらの装備もしっかりしてる。喉から手が出るほど欲しくても、手に余るんだろうな」
「俺たちは……」
いや、手を出すかどうかの判断はワカナにゆだねよう。俺は口を出すべきじゃないし疑うべきじゃない。俺はこの場では初心者だ。俺はただ、ワカナの邪魔にならないようにサポートをする、それが第一。
「おい! そこの冒険者ども! お前ら……いいもん持ってんなぁ?」
俺たちが姿を現し横から声を掛ければ、道の上を歩いていた彼らはびくりと震え、こちらを見る。だが、見えた俺たちの姿に彼らは安堵した様子だった。
「おやおや、喧嘩の火蓋を切る第一声が、一体どんな荒くれものかと思えば……ずいぶん可愛らしい二人組で。ここのお祭りは初めてかな?」
リーダーらしき男が俺たちに応答する。
「御託はいい、“決闘”しようぜ。俺たちが勝ったらその金塊は俺たちのもんだ」
「ふむ。正直に言えば少しの疲労も負いたくない気分ですが……まぁ、子供の相手くらいいいでしょう。祭りはみんなで参加するものです。あなた方にはぜひ、敗北を味わって帰ってもらいたい」
「作法を知らんか? おっさん。“決闘”を振っ掛けられたら“決闘”って返すんだぜ」
「……参加をするには早すぎたな、坊主。“決闘”」
後ろの冒険者の一人が突然杖を掲げる。
「“ファイア・ボール”!!」
突如、まばゆい火炎の玉が現れ、それは一直線にワカナへと放たれる!
「ワカナ!」
「それで詠唱を隠してたつもりか? ばればれだぜ!!」
ぼこぉと、彼の頭部が肥大化する、白昼でその姿がさらされる。髪はまばらに、皮膚の表面が青黒く変色し、少年の体に頭部だけが、まるで風船を膨らませたように歪に大きい。
彼の頭が真正面から炎を食らった、……いや、“食らった”。彼は異常に大きい頭部の口を開き、さらに大きな口が真正面から炎の球を飲み込み、彼の口が閉じる。しんと、場が静まり返る。
「マダマダ、クイタリナイ。ツギハナニヲ、タベサセテクレルンダ?」
少年の喉から、この世のものとは思えない恐ろしい声が響いてくる。
「ば、化け物……」
向こうのリーダーは、冷や汗を垂らして少年の顔を見上げながらそう漏らす。
「ハヤク、コウサンシタホウガイイ。オレハ、マホウモ、ブキモ……オマエラモ、クッチマウ」
「……ひ、怯むなお前ら! ただの脅しだ! 一斉に掛かれ!」
リーダー格はそう言って、剣を掲げてワカナに突っ込んでくる、遅れて後ろの三人も。突っ込んできたリーダー格は、そのまま剣をワカナに振り被った、俺は思わず目を逸らしそうになったが……ガキンと、音がした。
見れば、彼が手に持っていた剣、その束の先の刃が、まるで強引に何かに捻じ切られたかのように無くなっている。彼は、呆然とその無くなった剣の先を見つめている。
「オシイ……」
ワカナの声に、リーダー格は目の前の巨大な頭部を見上げる。
「ツギハ……ウデガタベタイナァァァァアア!!!」
「うわぁぁぁぁあああああ!!! すみませんすみませんすみません降参します降参します降参しま―」
彼らはその場を走り去っていった。俺たちの傍に大きめの金塊の袋が残るが、今の一部始終を目撃していたのだろう、周りから俺たちに戦いを挑んでくる冒険者は現れない。
ひょこんと、頭を元の形に戻し、少年は何でもない様子で金塊の袋を見下ろしている。
「こんだけありゃ上等だな。俺たちも喧嘩吹っ掛けられる前にいったん街に戻るか」
「……」
「……どうした? にーちゃん」
黙って固まったままの俺に、少年は言葉を続ける。
「……心配すんなよ、見境なく人間を襲うような真似はしない。あの状態でも、ちゃんと理性は残ってるさ。さっきの口弁は演技だ」
俺は、少年の肩をがっと掴む。
「強いですね兄貴! 一生付いて行きますよ俺! この調子でどんどん冒険者を狩って稼いでいきましょう!」
「あ、えぇ? 兄貴……? ……まぁ俺にビビってないんならいいけどよ……」
俺は虎の後ろで金塊の袋を担ぎ、街まで堂々と歩いて行った。街の入り口には帰還者を見守る観光客たちが大勢居り、慣れない状況の中、たくさんの人に見られながらギルドまで歩いて行った。




