7話【無茶をしない戦い方】
「はぁ…はっ…はっ…つか…れる…これ…つ…らい…」
「止まるつもりはないですよ?」
ティークの訴えに耳を貸さず、階段を軽く上がるゼファー。その横にある階数の看板には10階と書かれている。
「ここで休んでいますか?」
「なん…べんも…いわ…はっ…はぁ…せんな!借りは…!返してもらう!っつってんだろ!」
「……ふっ」
ゼファーの顔が僅かに明るくなる。
「では、行かなくてはいけませんね。仕方ありません。手を貸しますよ、ほら」
ティークの目前にゴツゴツとした無骨な手が出される。強い手である。鬼や夜叉という存在がこの世にいるのなら間違いなくゼファーのような手をしているだろう。華奢で、凛とした
体に反する手は間違いなく死地を乗り越えた闘士のものであった。
「あり…がと…」
ティークがゼファーの手を掴む。
ゼファーは振り向き、ゆっくりと階段を登り始めた。
「さて、明かりが見えてきましたね。ここからは少し慎重にいきましょう」
「あぁ、人の往来があるかもしれないしな」
ゼファーを先頭に、殆ど四つん這いの姿勢で、一歩一歩階段を上がる。壁の光がゆらゆらと焚火のように揺れる。温かみのあるその光の源はどうやらランタンのようだ。壁に連なって存在するランタンに打つからないように二人は階段の内側を歩いた。
「おい、あのちょこまかしたやつまだ対処できてねぇのか?予備の弾持って来いって言ってこれで6巡目だぞ?」
「知らねぇーよ。ヒトガタの撒き餌も上からばら撒いたらしいし、あと少しじゃねぇの?」
「そう言ってもう何分だよ」
「あぁー…15分…くらい?」
「はぁ…雑用担当なのは確かだけどさぁ…これってどうなのよ」
「バッカス様に言いつける?」
「ばっか!殺されて終わりだよ!やめとけやめとけ!……はぁ、今回の仕事はやく終わらねぇーかなー」
「……行きましたかね?」
「あっぶねぇ…もう少し上がってたら見つかってたな」
階段に張り付いてやり過ごした二人。
「これは、先にあの二人を片付けたほうが良さそうですね」
「よっしゃ!ここで上から来ないか見とくわ!行ってこい!」
「……。まぁ、はい。行きますけど…」
「…?よし!頑張れ!!」
類は友を呼ぶとはこういうことなのだろうとブレスとティークを頭に浮かべたゼファーは15階のフロアへと駆け出した。
直後…ドサッ!ドサッ!とそこそこ重さのあるものが2つ倒れる音が響き、曲りかどからゼファーが当然のように顔を出した。
「え?なに?殺した?」
「いえ、気絶で済んでると思いますよ。恐らく…」
「恐らく…」
ティークはやや苦笑いになりながら復唱した。
「まぁ良いでしょう。ほら、早く上に」
「待て待て待て…!無謀に突っ込んでくつもりかよ!?頭使えよ!頭をよ!良いか?ここまで、こいつ等のバカさ見てんだろ?こーすんだよっ!」
ティークは今ゼファーが出てきた曲がり角へとゼファーを押し返し、そこで静止してろと手を突き出す。
んっ!んんっ!と少し咳き込んでチューニングし、すぅぅぅ…と息を吸い込んだ。
「たいっへんだぁ!!!侵入者だぁ!!!!!!えっと…。あっ…。10階で…いいか…。10階に敵発見っ!!!二人だっ!!!たっ!助けてくれぇぇぇぇぇ!!!」
ひどく情けなく、震えた声で、15階から叫ぶティーク。
言い終わるや否やゼファーの横へと駆け寄って、忍び顔負けの技術で息を殺した。
数秒後、ドタドタと騒がしい足音が鳴り響きながら降りてきた。「おい!速く降りろ!」「急げ!急げ!」「相手は二人だ!これだけいれば問題ないはずだ!」「行くぞー!」と男たちの荒々しく、猛々しい低い声が上から下へと流れて行った。実に40秒ぐらい経つとすっかり下へ行ってしまった。
「ほら、無駄にいっきに相手しなくても良いだろ?ほら、さっさと上の奴等片付けてくれ!任せたぞ!戦闘係っ!俺は…あんたがさっきぶっ飛ばした奴等の持ち物漁ってくるわ!んじゃ!任せた!」
そういうと足早に15階のフロアへとティークは駆けていく。その足取りは、やや跳ね混じりで、るんるんとしていた。
「……行きますか。……ふっ」
僅かに笑みをこぼして、ゼファーは1段目に足を運んだ。
「そろそろ…きつくなってきたねぇー。……使うか?【力】?」
額に滝のような汗がびっしりとあるブレス。
対して周囲のヒトガタも足元で自身達の水溜りを作ってこそいるが、その数はいっこうに減った気がしない。
ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ー!ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ー!
「……いや、使った所でこの数は倒しきれねぇな?」
ドバンッ!!!
「そして何より、この砲撃がある以上はぜってぇに伸びるわけにはいかねぇなぁ…!?」
ブレスは迫りくる鉛玉を間一髪、首を後ろへ反らせて避けた。かなりギリギリである。鼻がかすかに打つかり、ブレスの流している汗が増えた。
ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ー!ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ー!
そんな事はお構いなしに人形は歩みを寄せてくる。
「やるっきゃないよなぁっっっ!!!」
自身の目の前にいるヒトガタを全力で殴りつける。殴りつけられた顔は四散する。そしてドロォ…と溶けていくのだが、その奥から手が伸びる。手はブレスの左肩を掴み、もう片方の手で顔を掴もうとする。危険だ。彼等は人の形をしているが、見ての通り白い粘性の液体。顔なんぞ掴まれれば、もれなく窒息死待ったなしである。
ぎぃ…!と奥歯を噛み、ヒトガタを睨みつけたブレスは頭を一度大きく後ろへ反らし、1つ…。
すぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!
大きく呼吸して見せる。胸が広がり、腕、腰、脚に一際大きな力が入る。そして、いっきに…。
「りぃやぁぁぁぁぁ!!!」
ヘッドバッドをヒトガタへ打ち込んだ。
バシャァッッッ!と面積の広いものを水面へ落としたような低く、短い轟音が鳴ってヒトガタはまた1人、崩れ落ちる。
ブレスの顔や肩にも白い粘液がべちゃ…とついていたが、本体が溶けるのと呼応するかのように、水のようにスルスルと流れ、白い粘液は粘性を失った。
「……しゃぁらぁ!次ぃっ!」
白い水で濡らされた顔を、濡れていない右の袖で拭う。
そして、視界が戻ると同時にまっすぐ目の前のヒトガタへと駆け出す。ヒトガタは当然、ブレスを捕まえようとするも、それよりも速い速度で、ブレスは全力の左ストレートをお見舞いする。
ヒトガタが溶ける。
「…次ぃっ!」
ドバンッ!!!
再び鳴る砲撃音。
少しずつだか、打たれる感覚が落ちてきている。
されど、無数のヒトガタを相手にしている上で横槍を入れてくる砲撃は厄介なんてものではなかった。
既に数えられないほどの人形を倒し、白い水溜りに変えたブレスは、不意に脚がふらついてしまう。時間で言うと20分という所だろうか。されど、相手の数、意識すべき対象はあまりにも多かった。
何十。否、何百かもしれない砲撃は、ブレスの隙を逃すわけもなく、その腹のど真ん中へと…。
ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ー!ぁ゙ぁ゙、バシャン!!!
無数のヒトガタを撃ち抜きながらも、威力を一切落とさず、当てられる。
瞬間、ボキィッ!と鈍い音が鳴る。骨の音である。ブレスは、思わず顔をしかめる。顔の大半に深いシワができる。歯と歯が強く擦れ、歯ぎしりを起こす。
「ぐっぶっ…!」
されど、ブレスに何ができるわけではない。
砲撃の威力に身を任せ、ブレスは何匹かのヒトガタを蹴散らしながら、地を這うかのように吹き飛ばされた。
バゴォォォーンッッッ!!!!!と大きな音を立てて打つかる。はぁ…はぁ…はぁ…と荒い息遣いが聞こえる。ブレスの両の瞳は鋭く、砲台を睨みつけ、ゆっくり、ゆっくりと下へ戻される。目前には十数体のヒトガタ。打つかった場所は皮肉にも自身の乗ってきた場所であり、馬車に背中を押し付けるようにしてなんとか立つ。
そして、ブレスは…。
「まだ…まだ…。やれるよぉ…。ぁー…いっ…つぅ…。」
はぁ…はぁ…と呼吸を乱しながらも力強くファイティングポーズを取ってみせた。
ども〜小町です!
冬休みに入りました!
これでいっぱい書けるね!やったね!
皆さんに見ていただけているという事実だけで、私はもうとてもやる気が大爆発しております!
いくぞ〜!やるぞ!やるぞ!やるぞ〜!
はい。今度ともよろしくお願いします!




