2話【最悪のお願い】
テンテンテケテケテレテン♪
テンテンテケテケテレテン♪
「はぁ…」
ガチャ…。
「はい。もしもし」
僕は支給品であるガラパゴス携帯を開き、応答のボタンを押した。
「やぁやぁ、おっひさ〜!1年と6ヶ月ぶり〜!僕の声聞こえてるぅ〜?どう?僕の支給した携帯は僕の声を君の心に届けているかい?」
「どちら様ですか?」
「君の唯一無二の大親友の声を忘れたのか!?僕は悲しいぞぉ!」
面倒くさい。
「人違いです。失礼します」
「あ〜!待て待て待てって!用件を言うから!そんなにまで、僕と馴れ合いたくないのかい?」
「勿論ですが?」
説明しよう。彼の名前は【ゼウス】。聞いての通り陽気な明るい男だ。一見は。
その実…。
「そんなぁ〜…。ひどいなぁ〜。ぼくないちゃうなぁ〜…。なぁ〜、一万人殺しのことは反省してるって〜〜〜!仲良くしてくれよ?ね?ねっ?」
人の命をまるで埃としか見ないクズである。
「本題は?」
「んんっ…!そうだなぁ。その話をしようかぁ!」
「今回、君には1つやってほしいことがあってね。今朝の新聞を見たかい?」
「丁度、邪魔が入る今の今のまでは見てたよ」
わざと悪態を付いてみる。
「その中にね、【退廃都市トウキウ】と【新興宗教ディアベル】の話が出ていただろう?あれについてなんだ。実は、3日後、クリスマス当日、正にこの世界の3年目の誕生日にトウキウが消える。」
向こうはそれに気づいているのか、鈍感なのか何も返すことなく話を進めた。駄目だ、こいつに話し合いで勝てる気がしない。
………って。
「あ!?お前、また!なにかする気か!?どういうつもりだ!?何が目的だぁ!!!」
「勘違いするなぁ!僕じゃない!ディアベルだよ。ディアベル!全く…失礼するなぁ〜!僕がそんな悪い奴だと思うかい!?」
ゼウスは1つ溜息を吐いて続ける。
「奴等は簡単に言うと破滅信仰の宗教だ。そんな彼等と我々、EDENは何回か殺し合いをしている。それこそ君のお友達は、話題に上がっていただろう?ヒトガタの大量処理。あれは…原因はディアベルなんだ。」
「………」
「そんな奴等は今!トウキウの23区の内、20区を占領している。そしてもう1つ。奴等は【デウス・エクス・マキナ】を持っているようだ。察しの良い君ならもう分かるだろ?この世界が崩壊したアレを!奴等は、トウキウで再現するつもりだ!」
脳裏に浮かぶのは3年前のあの日。窓ガラスが割れ、ラジオが目の前で世界崩壊を告げたあの日。僕が生きた中で、最も記憶に残り、こびりついて離れることのないあの日。
あの白濁したモノが、世界を包んだ。
今の優しさも温かさも何も無い世界を作り上げた原初の種。それが今、正に起こされようとしている。
「そこで…だ。君に助力を願いたい。目的はただ1つ。【デウス・エクス・マキナ】の破壊だ。僕としてはできれば壊さず回収してほしいのが本音だが…。そうこう言ってるわけにはいかないのでね。勿論、それ相応のサポートはさせて貰おう。どうだい?この世で最も優しい君にもう一度言おう。【デウス・エクス・マキナ】の破壊、引き受けてくれるかい?」
僕は1度携帯を耳から離し、壁を見つめる。
自然と頭を搔いていた手を止め、もう一度、携帯を耳に当てる。
「やるよ、やる。ただ、1つ言っておく」
「なんだい?」
「僕は君の駒になったつもりはない。そして今後なるつもりもない。良いか?あくまで、世界平和の為の一時的協力だからな?」
「僕はまだ、お前を許したわけじゃない」
電話の向こうからギィ…ギギィ…と椅子が鳴る音が聞こえる。1…2…10秒程して、返答が返ってきた。
「その言葉、しかと受け止めて置こう」
彼は薄ら笑いでそう宣言した。
「どうでしたか?大分声を荒げているようでしたが…」
「ゼファー、急で申し訳ないけど、プリンを食べ終わったらトウキウへ行く。準備して欲しいんだけど…いいかな?」
「………承知致しました。」
好物のカラメルたっぷりプリンをいそいそと口の中へ放り込み、食器を机に残したままで、ゼファーは外へと出ていった。
「別にプリン急いで食べなくても良かったんだけど…」
本当に、彼は温かな人だ。
常々、頭が上がらない。
………僕もご飯食べ切るか。
カッカッカッ。箸が皿に強く当たる音がラジオの音を掻き消した。




