1話【騒音】
「んん…」
強い光が僕の眠りの邪魔をする。ゆらゆらと揺れる。ぽわぽわと包む。優しく温かな光が殆ど強制する形で僕の重い瞼を開かせる。
「ん…」
「…というわけで、今日の終末世界の極楽浄土ラジオを担当しましたぁぁぁぁぁ!天才スチームぅぅぅ!パンクロッカーぁぁぁぁぁぁ!ハトでしたぁぁぁ!次の放送は明日のこの時間っ!それではっ!一旦かいさぁぁぁぁぁぁん!」
じゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ん。
「うぅぅぅんんん……… ん゙ん゙ん゙!」
視界も定まっていない中、寝ぼけた耳に激しいギターの弦の振動が響く。思わず僕は乱暴に鈍い体を動かして、その音の発信源を探す。ザッ…ザッ…。ボスン…。ボフン…。布団に腕が擦れ、叩きつけられ、それによる音が何度か鳴った。
数十秒後、ガツン!と手の甲が打つかったのは古ぼけたポンコツのラジオ。そして、手探りでラジオの状態を把握した。
ガチャ。
ラジオの一番右の電源ボタンを押して、音を止め、僕はその場に沈み込む。僕の体を布団は慈悲に満ち溢れた態度で受け入れてくれる。(いっそ、このまま2度寝をしようか…?)等とうつらうつらと考えるも結局そのまま寝ることはなく、半時を過ぎた辺りでようやく四つん這いまで体を起こした。
「悪趣味な放送…」
朝から煩いギターを奏でる自称天才につばを吐き、鉛の体は朝を迎えた。
薄い白のカーテンから健やかな光が一身に浴びせられる。
四つん這いのまま、窓の方へよちよちと歩を進める。
畳の床に手足が辺り、ふと癒やされる。
日光に当てられたからか、畳の床は温かだった。
遂に、窓までたどり着くと近くの丸テーブルに支えて貰いながら何とかその身を立たせた。
しゃーーー。
カーテンを開くとより強い光が浴びせられる。もし僕が吸血鬼ならば、この場で命は潰えていただろう。まず間違いなく塵の山だ。
寝ぼけ眼を手で擦り、軽く「ふふぁ〜〜〜わ」と欠伸をする。欠伸のせいで、目の隅に涙が溜まった。ボヤけに拍車を掛けた目をモコモコとした上着で擦る。
何度か目をパチパチさせれば、安定した視界が戻り、光の方向、窓の先を見つめた。
退廃した世界。
崩れた瓦礫が道に転がり、家は殆どのものが半壊、若しくは全壊している。道路には車が西部劇の枯れ草のように転がっていて、カーブミラーに至っては深々とお辞儀をするかのように折れ曲がっている。
あの嘘のような世界滅亡宣言から実に3年が経とうとしている。この崩壊したルール無用、規律無用、モラルなんてのは微塵もない新世界を生きる人もなんだかんだで板に付き、あぁだこうだと、ぼやきながら生活が整いつつある。
まぁ、この街が整備されるのは遠い未来なのだろうが。
数年前の世界と何もかもが違う。
辛うじて衣食住が揃えられるようにはなってきた。
問題は安全性である。
幸福な世界と共に消え去った幾つもある。まず、行政なんてものは潰えた。彼等の過半数はあの災害に呑まれて命を無くし、残った数名は自分を守るので手一杯だ。逆に、こんな混乱した世界でできるわけもなかった。無論、治安も技術も何もかも悪い方へ悪い方へと落ちていきつつある。
ちょっと外を出たら死が隣り合わせにある。建物が崩れてきて死んだ。気が狂ったやつに殺された。女、それも子供だろうと容赦なくレイプされ、自害を選ぶものもいた。そんな風にこの世界は今尚、滅亡へと向かいつつある。
皮肉な話だ。
始まりは意味の分からぬ災害、白いナニカ。それでも心を強く持ち、世界再興を謳う人は何万といた。それがどうだ。この現状。今や、人が自ら世界を滅亡へと導いている。呆れて涙すら出ない。
コンコンコン。
「ブレス様、起きましたか?」
あぁ、もうそんな時間か。
時計を見れば、7時55分。朝食の時間は目前だ。
「うん!起きてるよ!」
「おや?てっきり昨日は夜遅くまでお仕事をされていたので寝ているかと。それは良かった。早くこっちへ来てください。朝ご飯できてますよ?」
「あ〜い!今行きま〜す!」
深みのある温かな声を聞き終えて、僕は着替えを始めた。
ガチャ。
「おはようございます。ブレス様」
「うん。おはようゼファー」
いつもの服、黒のシャカシャカとしたパーカーと動きやすい黒のカーゴパンツにさっと着替え、ラジオを持って扉を開ける。
優しい笑顔を返してくれる彼は既に席へ着いていた。
椅子を引き、ラジオをテーブルの端に置いて、浅く腰を下ろす。微笑んでいる彼に再度「おはよう」と伝え、2人仲良く合唱をする。
「「いただきます」」
ゼファー。白髪オールバックの渋い翁。彼と出会ったのは“こっち”へ来て1年経ったぐらいで、なんやかんやあって今は生活を共にしている。家事やらなんやらをやってくれるので助かってはいるのだが、いかんせん自分の面倒事を彼に押し付けているようで申し訳ない。
並べられた朝食は2人で量は違うが、これで良い。彼は少食なようだ。けれども、僕が大盛りを食べているので、それより少し少ないくらいの量を食べる彼は本当に少食なのかは疑わしい。
卵かけご飯に醤油、ごまをかけたもの。味の薄めの豚汁。ほうれん草とキノコ、じゃがいものをバターで炒めたもの。とっておきは彼の好物でもあるプリンだ。彼はカラメルたっぷりのプリンが大好きらしいが、僕に言わせれば蛇足でしかない。何もかかっていない美しいプリンを僕は所望している。そのためか、テーブルの中心には色の違うプリンが、1つずつ置いてある。
そして、もう1つ。僕と彼は生粋の箸使いだ。今日こそ卵かけご飯だが、トーストだろうとカレーだろうと箸で食べる程に。無論、プリンもだ。
彼がご飯を一口食べ始めるのを見て、僕はラジオを付けてからご飯を食べ始める。いつもの流れだ。因みにだが、ラジオのチャンネルは決まって8番。僕の趣味だ。
「今日の新聞どう?」
「特に面白そうな話はありませんでしたねぇ。強いて言えば、ですが、貴方のお友達が大活躍のようです」
そう言って新聞を渡して来た。
見出し…見出し…。
【退廃都市トウキウ 超新星現る】…違う。
【破滅主義者集う 新興宗教ディアベル】……違う。
【沼地の村マレパルーデで起きる怪奇現象】………違う。
【EDENの新覚醒者部隊長ギュスターブ 一騎当千の活躍】………これか。
「おぉ〜〜〜!え?嘘!?え?え!まぁじぃかぁ!!!めっちゃ凄いじゃん!わぁ〜…友達として鼻が高いねぇ〜!いやぁ…!ギュスターブは凄い人だと思ってたけど…いやぁ…いやぁ〜〜〜!良いねぇ〜!!!」
「ふふっ」と朗らかな表情を向け、「ええ…ほんとに…」と返すとズズズッ…と豚汁を飲む。
「ん〜〜〜と、なになに〜?【先日、トウキウのホクサイ区にて起こったヒトガタの大量発生。その数は正に1,000体程。本来ならば、命令に従い待機をしている状態だったが、ギュスターブは、独自の判断によりヒトガタと交戦。その溢れ出る剛力で、次々とヒトガタを始末。その場にいた人形の殆どを狩り尽くしたのだ!彼女がいる限り!我等に救いを差し伸べるEDENの未来は明るいだろう!EDEN万歳!EDEN最高!】…だってさぁ!」
「はい、喜ばしいですねぇ」
「いや凄いよねぇ…今じゃもう僕では手も足も出ないかもなぁ…」
「もう手も足も出す必要がないでしょう…」
「うん!それはごもっとも!」
過去を思い出し感傷に浸る。この長い3年間、いろんなことを経験して、いろんな人と出会って、今こうして、信頼できる仲間…まぁ、1人だけれども。そんな彼と共に同じ食卓を囲んでいる。これ以上の幸せなどないのでは?とすら思う。
テンテンテケテケテレテン♪
テンテンテケテケテレテン♪
そんな幸せな空間も直ぐにこうして水が差される。これは…今日のプリンは美味しくない感じだ。
「ごめん、電話だよ、ちょっと席、外すね?」
「EDENですか…」
「よく分かるね?」
「ブレス様が嫌いな着信音にしている相手なんてそれくらいでしょう?」
「うん、せ〜かい」
幸せな空間と大好きな友と美味しかった朝食を後にして、僕は心底嫌いな着信音の鳴り響く自室へ戻るのであった。
はぁ〜い!
どうも〜!小町ですぅ〜!
今回のタイトル騒音は実は2つのものに掛かってます。
1つはハトのラジオ、もう1つは携帯の着信音。
今決めたにしては中々シャレオツなタイトルになりました〜!
さて、それはそうと!
ようやく始まった第1話!
執筆が遅いよぉ!
仕方ないじゃん!テストしてるんだもん!
私学生なので!(メガネクイッ)
てなわけで、こんな感じでゆるっと不定期更新しますんで!この作品が面白かったというそこの君!
ブックマークだぞ☆
評価や感想をお待ちしております。
え?なんのメリットが有るのかって?
小町先生に好かれます。以上!またね!




