9話【判明】
「痛くねぇ!動けるっ!砲撃も止まってる!」
体がじんわりと光る。温かく白い明かりが僕を包む。
先程までの痛みは嘘のように体から消えた。
僕はゆっくりと立ち上がる。
目前の敵を討たなくてはいけないんだ。
こんな所で寝転んでいられない。
何より、僕の中の【力】が僕に戦えと叫んでる。
こうして、勝手に【痛みに感覚を適応】させるほどに。
「負ける要素がないねぇ…!」
温かな光をぎっ!と手に包み込む。
温かな光は、それに呼応するようにじんわりと僕の体から離れて行く。そして、その光は初めからなかったかのように消えた。
第2ラウンド、ここで決めきるっ!
「りぃやぁぁぁぁぁ!!!」
代わりに、ブレスの目には、闘志が灯る。熱く。強く。
その時には既にブレスは走り出していた。
バンッ!
ヒトガタが1体落ちる。
ブレスに頬を殴られたのだ。
即座に倒れるヒトガタの体。
されど、溶けることはまだ許されなかった。
バシンっ!
外壁が消えた摩天楼。
骨組みだけの摩天楼。
掛けられた看板は既にボロボロ。
道路には転がった車。
そして壊れた馬車。
そのどれもに打ち込まれ、めり込んでいる大きな鉛玉。
廃れた都会の一角に鋭い水温が響き渡った。
ヒトガタの体は吹き飛んで数体のヒトガタを巻き込み、散髪屋と書かれた看板に打つかる。看板はその衝撃に耐えきれなかったようだ。少しグラついた後に、耳障りな音を立て、道路へ落ちた。
ブレスの前方に僅かな道ができる。
ブレスは迷わず駆け出した。
左右のヒトガタから伸びる手などには目もくれずに。
ブレスは、細いそこを走り切る。
直後。
ブレスは、振り返り、目の前のヒトガタに飛び足蹴りを1つ。 ヒトガタは体の真ん中を貫かれ、その場で溶ける。
ブレスは足蹴り直後の崩した体制のまま、ベルトのアタッチメントへと直していたラジオを引き抜いた。
引き抜かれたラジオへ強い衝撃が走る。
ブレスが押したのだ。電源ボタンを。強く。
「はぁ〜い!皆さん!こっんにっちわぁ〜〜〜!!!!!現在時刻っ!6時半っ!!!天才スチィィィムゥ!パァンクロッカァ〜!!!!!ハァ!!!トォ!!!のぉっっっ!終末世界の極楽浄土ラジオぉぉぉぉぉ!!!はっ!じっ!まぁるよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
思わずブレスは顔をしかめた。
「んぐぅ!?うっるせぇぇぇ!!!らぁぁぁぁぁ!!!!!」
負けず劣らずの雄叫びが響く。
ブレスは大きく振りかぶり、強くラジオを握る。
そして、雄叫び同様、豪快に天高くラジオを放り投げた。
集まる視線。………いやヒトガタに目はないけど。
ヒトガタの群衆の真上。そこに高く舞う僕のラジオ。
ヒトガタはぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ー!とそこへ手を伸ばす。さっきまで追っていた僕を忘れたように、天へ、高く高く手を伸ばしている。
その手の先から垂れる液体が地面へ落ちる。
1つ。
また1つ。
ラジオが最高到達点へ届いたのだろう。
中にピタッと止まったその瞬間。
僕は全力で駆け出した
ダンッッッ!!!
一際大きな音が鳴る。地を蹴る音だ。
それから僅か2〜3秒。
いくつもの水音が鳴り響いた。
原因はもちろん…。
「りぃやぁ!はっ!どぉりゃぉ!」
…ブレスだ。
止まることなく動き回るブレス。
回し蹴り、後ろ回し蹴り、フック、ハイキック、踵落とし、ストレート…等と続く連撃。
そこまでされてもヒトガタは上を向く。
天へ、ラジオへ手を伸ばしている。
耳障りで、喧しいラジオパーソナリティへどれもが手を伸ばしている。
全てのヒトガタは頭が吹き飛ぶ、その瞬間まで、ラジオへ手を伸ばし続けた。
そうして…ヒトガタは1体すらも残らずに白い水溜りとなって、地面に消えてなくなった。
「こいつぁ…倉庫か?」
10数個の扉を開けては閉めてを繰り返し、見つけた部屋。
そこには、棚がズラッと並び、大砲やら剣やらなんやらが詰まっていた。
ここになら…なんか…ある…よな…?
壁にある松明を1つ手にとって、棚を照らす。
大砲の弾、剣、短剣等と何が入っているか雑に書かれたシールが棚には貼ってある。
……分かりやすくて助かる。
そうして、棚を転々と見ていくと目に止まった物が2つ。
ヒトガタの撒き餌と発光弾。
シールにはそう書かれていた。
世界が終わってから今日で3年。
いつしか、暴行、殺人、苦白、ヒトガタという狂気や異常は日常になった。もちろん、ブレスといった【侵蝕者】も。
だが…未だに1度たりとも聞き覚えがない。エネルギーを食い物とするヒトガタ用の餌など。
見れば、小さく黒い球体。形はまるでマスケット弾だ。
少し怖かったが、手に乗せると黒い弾はじわぁ…と溶け出す。然し、液体にはなっていない。
これは…液体になって…瞬時に…気体にまで?
それだけではない。
溶け出したその瞬間、それはやんわりと赤く光り、俺の手に熱をちょこっと伝えた。眩しくない、熱くない、そしてそれ程、不快感もない。
寧ろ少し、心地良い。
ずっと触れていたいような気もする。
言うならば紛れもなくエネルギーの塊だ。
新興宗教ディアベル…ブレス曰く、今回の敵らしいが…。トウキウ前でわざわざ襲ってくる、その上、今の所2人中2人はこの十字架を持ってる。まぁ…間違いなくディアベル…だよな?
だとしたら…この黒い球体を作る技術…こんな終わった世界のぽっと出の新興宗教が持っていて良い技術じゃないぞ?
いや、持ってるはずがないだろ?
ここ最近できた宗教だぞ?
……何かと繋がってるのか?
若しくは繋がっていたりするのか?
もっと大きくて、恐ろしい何かと…。
………。
「はぁ〜い!皆さん!こっんにっちわぁ〜〜〜!!!!!現在時刻っ!6時半っ!!!天才スチィィィムゥ!パァンクロッカァ〜!!!!!ハァ!!!トォ!!!のぉっっっ!終末世界の極楽浄土ラジオぉぉぉぉぉ!!!はっ!じっ!まぁるよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
「んぉぉぉぉぉっっっ!?うるっせぇぇぇぇぇ!!!!!あっ!?なんだ…これ!?ラジオ?外からか…?ってこたぁ…あの馬鹿かぁ?……何…やってんだ…あいつ…」
って!ここで考えてても仕方ねぇだろ!
発光弾……!詰め込めるだけ…もってっとくか…。
あぁ…!あと…剣…!剣持っとこ!!
……よし!!!
そうしてポケットいっぱいに4個の発光弾を詰め込み、片手に何の変哲もない両刃の鞘付きの剣を持って俺は部屋を出た。
さて、彼も気絶させても良いのですが…。
「ひぃぃぃ!?や…やめろぉ!俺に近寄るなぁ!!!」
「では…。少しお話しませんか?」
「はぁ…はぁ…!それでっ!俺は助けてくれるのかよ!?」
「返答によっては…ですかね?」
「わ…かった!答える!何でも教えてやる!だから…それ以上………近づくなぁ!!!」
…ふむ。交渉成功ですね。
さて、聞いておかないといけないことは…2つ…ですかね?
「それでは…いくつかお聞きしますが、初めに、【デウス・エクス・マキナ】の場所を教えて頂けますか?」
「【デウス・エクス・マキナ】…。」
「おや…言いたくありませんか…ならばっ!「待て待て待てっ!言う!言うから…!!待て!!!」そうですか…」
…刀を振り上げたと同時にそう言われてしまいました。
いやぁ…脅しとは便利な交渉術ですねぇ。
「知ってるかも知れないが、【デウス・エクス・マキナ】は【酒樽】だ…。場所は…わからない「ならばやはり…!」待てっ!待て待て待てっ!まだ続きがある!あるから!待ってくれ!「……承知しました」……ふぅ。……はぁ。場所は分からねぇ…分からねぇけど…持ち主は分かる。【バッカス様】だよ。あのお方が常に肌身離さず持ち歩いていらっしゃるはずだ。」
……持ち歩いている?
……酒樽を?
「酒樽を持ち歩いていらっしゃるのですか?あんなに大きなものを…ですか?」
「…大きな?ん?いや…あぁ…違う。酒樽は小さい。片手で持てる程度だ。黒い木材で作られていて、特注の高級品なんだとよ…」
「ほう…片手で…ですか」
これは聞いておいて良かったですねぇ…。
この一件を解決するとなると…。
少なくとも…。
敵のリーダーさんとの衝突は避けられない。
…ということですか。
少々厄介ですが…場所が分からないよりかは幾分か楽だと思っておきますか。
……さて、もう1つお聞き致しましょうか。
「それではもう1つ…。どうやって…【デウス・エクス・マキナ】を作った?」
瞬時、空気が変わった。
先程までの冷たく凍てついた言葉を話すゼファーはここにはいない。おどろおどろしい形相で、男の前に立ち塞がる修羅は今、まさに、殺さんばかりの気迫で男に問う。
【デウス・エクス・マキナ】。
ここまで読んできた読者は頭を混乱させただろう。
本来の意味では【困難な状況を解決する絶対的な力】である。されど、この世界では少し異なる。
どんな者でも直面したら絶望の他ない苦白。
その苦白を呼び起こす絶対的なエネルギーの集まりを、畏怖の念を込め、名付けた。
それが、【デウス・エクス・マキナ】そのものである。
【機械仕掛けの神】とも呼ばれるエネルギー集合物はこの崩壊世界では決して自然に発生することはない。ましてや元の世界でもだ。
そう。【デウス・エクス・マキナ】とは人為的に作られた苦白発生装置の事である。
修羅の気迫を纏ったゼファーもまた、【デウス・エクス・マキナ】の被害者の1人。かつて仲間と手を取り合い、守っていた小さな国は一夜にして白に呑み込まれ、命を、場所を、再興の機会を全て何もかも奪われた。
老父ゼファーが今、最も忌む存在と言っても過言ではなかった。
「作り方…?それは…。………。「速く答えろ…」…作り方は簡単だ…。生命エネルギーを使うんだよ…。」
「生命エネルギー…?それは…いったい?」
「生命エネルギーってのは…」
ひゅぅ…とゼファーの横を通り過ぎた槍。
それは…彼がディアベルの秘密を語るよりも先に、彼の喉に突き刺さり、あまつさえ、彼をこの高い高いビルの上から放り出してしまう。
「ごひゅ……。い…ぁ゙………」
ゼファーが最後に聞いたのは彼の死への呻きだった。
「おぉ、裏切り者は…駆除完了だなぁ!よし!」
ゼファーは…ゆったりと振り返る。
舐めているわけではない。
自身の頭に巡る殺意の流れが、血の巡りが、彼の体への命令伝達を阻害するのだ。
「さて、次は!侵入者だ…!お前等は下のブレスを処理してこい!ここにいると邪魔だからなっ!」
部下に命令を下すその男。
左目の下には【BUCKS】の焼印。
服は見事に着こなされた燕尾服。
その細い指にはいくつもの指輪が着けられている。
腰にはベルトに巻かれた鞘がある。細身で湾曲した鞘。そこから武器を連想するなどゼファーにとっては造作もないことであった。獲物はサーベル。それも少しきらびやかな装飾が施された鞘と持ち手の。
この男がこの場で最も高位の役職についている存在なのは明確であった。
「さて、自己紹介が遅れたな!私の名前はディオニュソス!名前は覚えなくて良いっ!どうせ…これから死ぬからなっ!」
明るく声を張り、名乗りを上げた男は素早くサーベルを鞘から抜く。腰を低くし、やや前傾姿勢に、体重を前へと預けた。明らかなまでの殺気と声とは裏腹に何の感情も感じられないポーカーフェイスで、構えを取り…。
「冥福を祈るっ!」
…と駆け出した。




