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リテイク!  作者: とにあ
17/19

ステップ17

 話はさらりと流され、円君用の魔力回復茶を携帯用に水筒に詰めたり、移動時に必要なものセットを解説付きで準備したり食事や軽い下準備に追われる。

 いつきちゃんはついてくるなと言われてふてくされていた。

「移動は下水道を使う」

 そう言われて円君とのぞみちゃんがぎょっとした表情をした。あ、いつきちゃん、ほっとしてる。

 下水道という響きに反応したのか、窓の外の水量が二階部分を越えてることに心配してるせいかなと思う。

 水が逆流してきたことはないから大丈夫だとは思うけど。

 よろず屋はのんびりと笑う。

「魔物は確かに出るけど、俺とミルがいたらたいがいは大丈夫だから」

「まぁ、そうよねぇ。でも下水、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫。影響は受けてないよ」

 よくわからないよろず屋とミルドレッドの会話。

 そして当日の朝、厨房の奥の扉から地下へ下りたのだ。

 お弁当にティタにもらった魚のフライを仕込んで。

「よろず屋」

「うん? まどかちゃん、なにかなー?」

「これは」

「うん」

「下水道じゃなくて地下水道じゃないかっ!」

 滑らかな石造りに舗装された川。

 雰囲気は明るく水の流れるお手軽ダンジョン。壁の中ほど(腰の位置くらいの高さ)のくぼんだ場所に設置された照明に照らされる流れの中には魚だって棲んでいそうだ。

「潜り川だよ。その川の上に水上都市はあるんだけど、上を流れている水の源流がまた違うんだよ」

「え?」

「この川は千年を越えてこの位置で流れ続けてるんだよ。少し歴史があるんだ」

「少し?」

「そ。すこーし、ね」

 よろず屋と円君の会話に疲れたようにミルドレッドが息を吐く。

「そろそろ移動すべきね。追跡があるかもしれないんだから」

「そう、だね。るぅるぅの目を掻い潜れるとは思えないけどね」

 不審げなまなざしがよろず屋に集中する。

「あんなどこかチャラそうな男に何ができるの? ふざけた名前だし」

「るぅるぅってファニーなゆるキャラ目指してるんだろう?」

 ミルドレッドと円君にダメだしされて苦笑をもらすよろず屋。

「るぅるぅは結構生真面目だよ? あと高位魔法種だからね、ラヤタから来る程度の調査員くらい力技で追い返せるし、そこに辿り着くまでにもるぅるぅ付きメイド、シンねぇちゃんがいるしたぶん、ケリーもいる。連絡手段もある。大丈夫じゃなかったら危険速報がくるから二人とも安心して」

「程度の、調査員、くらい?」

 刺々しい感じのミルドレッドの反応。そのくらいによろず屋の対応は軽くてクールだと思う……足にひたりと何かが絡んだような気がして僕は下を向く。

 照明は道を辿るに不自由はないがすぐ足元を見るには向かない感じの灯り。明るさが際立つと闇も濃くなるよね。あんまりすぐ足元は意識しないせいもあるけど。

「え?」

 闇にきらめく何かが見えた。気がする。

「おにいちゃん!!」

 切羽詰ったのぞみちゃんの声。

「魔物っ?!」

 ミルドレッドと円君が声をあげる。

 足に絡みついた何かが僕を軽く引きずる。


『ゆーきぃ』


 気がつくと僕はサカナの背中でしりもちをついていた。

「サカナ?」

『うん。そー。さかなー』

 サカナの子供っぽい声が反響する。

 びっくりしたけど、サカナだったらしかたないかなとも思う。サカナだし。

「さかなっ! 私もお兄ちゃんと一緒がいい!」

 のぞみちゃんが主張する。

『巫女も乗るのぉ~?』

 サカナはのんびりと尋ねている。あれ? 知り合い?

「途中まで乗せてもらえると助かるかな」

 そう言ったのはよろず屋だった。

 他は、口々に『不気味』『乗りたい』『喋ってる』と何か言い合っていた。

「……ユーキ」

 ぺとりと小さな感触が手の甲に触れた。

 そこにあるのは小さな指。

「アディ」

 小さな少女アディ。

 サカナの相棒パートナーの少女。

 その柔らかな黒紫の髪を撫でればふわんと微笑む。

「あ、のね」

 アディはさかな以外とあまり会話しないので言葉がおそい。

 おかげで僕にはちょうどいい。

 視線を上下に泳がせて、それから上目遣いに僕を見上げて口を開く。

「……おかえり、なさい」

 ゆっくりとつたないしみこむ言葉。

 アディは淡いスミレの瞳を潤ませ、はにかみながらも視線をそらさない。

「あのね。……うれしいの」

 可愛いな。

 そしてその幼く飾ることを知らない気持ちが嬉しい。

「うん。ただいま。アディ」


 どぉん!!


 そんな感じの衝撃音。びりびりと空気が揺れている。

 アディが怯えたように僕の手を握りしめる。


「おにいちゃん!」


 声をかけてきたのはのぞみちゃん。

 泣きそうな顔で駆け寄ってくる。

「魔物の襲撃だ」

 淡々としたした口調でよろず屋が教えてくれた。

 姿は見えない。

 戦いになっている表面上にいるんだとは思う。オレンジ色のサカナのヒレが外界を遮る壁になっている。

 外から何か音が聞こえる。

 オレンジ色のサカナのヒレがゆっくり動いて視界を覆う。

『危ないからなぁ。ユーキは奥にいろぉ』

「ユーキ」

 『奥』へと誘導しようとしてくれるアディがぎゅうっと僕の手を誘うように握る。

「おにいちゃん」

 のぞみちゃんが抱きついてくる。

「サカナとよろず屋は強いから、大丈夫だよ? あ。円君は?」

 周囲を見回しても見える範囲にいない。

「お? 覚えてくれてたか。てっきり忘れられているかと」

 軽く笑ってこっちに寄ってくる。

「邪魔って言われてさ。つーか、こっちでもお邪魔っぽい?」

 僕は首を傾げる。

 邪魔?


重力加重グラビティヴィズ




 そんな『小さな声』が響いた。

 魔力を帯びた音。

 音を認識したモノに影響を与える音響魔法。

 そんな種類の魔法があると教えてくれたのは誰だったか。

 僕は説明を受けたけれど、やっぱり覚えられなくてその誰かを苦笑させた。それでもその誰かは懲りずに何度も魔法についての説明をしてくれたような気がする。いい人、だったなぁ。

「きゃ」

 加わった重圧感に少女たちが声をあげる。

 僕らを囲っていたヒレの壁に亀裂が走る。

「サカナ!」


『……アディ……』


「はい」

 いつもより低い声にアディが短く答え、僕の手を引く。

「ユーキ、さかながね、さかなも戦闘に参加するから下りてって」

 拙い喋りでアディが促す。

 僕は頷いて、のぞみちゃんの手を引く。

「行こう」

「うん。なんだか一瞬苦しくて。いったいなに?」

 のぞみちゃんが怯えたように自分の体を抱きしめる。

「うんっとたぶん、重力操作系の音響魔法」

「ナニ、それ?」

 僕の言葉に揃って首を傾げるのぞみちゃんと円君。

 えっと、声の届く範囲に効果を展開させる魔法。だったかな?

 音響魔法は。

 重力操作系だとわかったのは魔法言語のパターンが僕が翻訳できる言語のうちにあるからそれで何となくそんな気がするという程度にしかわからない。

「早く。さかなのヒレにヒビ入るのはやい」

 アディがぐいっと引っ張る。

 焦った瞳は潤んでいて、できる限り希望を叶えたいと思うんだ。

「のぞみちゃん、いこう」

「うん。おにいちゃん」

 僕はアディに引かれながら、のぞみちゃんの手を引いて足を早めた。

「由貴さん。大丈夫?」

 円君が心配そうに背中を押してくれる。

 気がつくと石畳を踏んでいた。



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