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『貪欲』のマモン

 蜂蜜アイスクリームのこと、正確にはベルフェゴールとカクタスとのお茶会へ想いを馳せていたプリシラは「そういえば、あの男の名前なんだったかしら」と呟いた。覚えていなかったんですか、とソレルが呆れると同時にグレイスが笑顔で答える。


「マモーナス・オール様です。プリシラ様」

「えっ!? マモーナスですって!?」


 プリシラは思っていなかった名前に驚きに叫び声をあげた。

 馬車に一緒に乗っていたソレルとグレイスがプリシラの叫びに飛び上がった。ソレルは天井に頭をぶつけている。


「―――~~~っ! な、何なんです、お嬢様……!」

「マモーナスって、『貪欲』のマモンのことだわ」


 二人が驚愕に固まる。

 プリシラは馬車の背へと身体を預け、口を開いた。



 *・*・*・*・*・*・*・*・*


 なんかもう、すっかり忘れていたわ。

 3年経ってるから、すっかり忘れていたわ。全く記憶に残ってなかったわ。ちょっと待って、思い出すから。


 えっ〜と……『貪欲』のマモン、『貪欲』のマモン……。


 あっ、そうそう! 彼だけ、マモーナスって名前になってるのは商家から貴族になった際に名前を変えたからよ。仲良くなるとマモンの方が呼ばれなれてるとか言って教えてもらえるイベントがあったわ。そんなもの無くても私は知ってる訳だけど。本当に無意味な情報ね。


 経歴は……特に知っている事以外で付け加える事はないわね。


 貪欲っていう言葉が示すとおり、マモンは金儲けが大好きな商人気質。欲しいものは何でも手に入れたい、だったかしら。『金で買えないものはない』が持論で、その根底には過去が絡んでる、と。


 お金に困ることなく育ってきて、全然自分に気のなかった初恋の女性がお金と引き換えに売られたのを親に頼んで買い戻したら、恋をされたのが決定打になって『金』の亡者になったみたい。基本、人を信用してないみたいよ。可哀想ね。かわいそーああかわいそーなんてカワイソウなのー。


 え? 何ソレル。全然可哀想に思っているように見えないですって? 当たり前じゃない、今日は不愉快な一日だったんだから。むしろ、ざまぁって思ってるわ。グレイス……私もそう思う、って……さすが、私の侍女だわ。ソレルも見習いなさい。


 ああ、そうそう。なんか本人が考えてるとかって言ってたことがあったわ。


 えっと……『金で買えないものは本当にないのか。真実の愛は存在しないのか』。


 ……あんな乱暴な性格の割に、随分乙女チックなこと思ってるのね……もし今度見かけたら笑いが止まらないかもしれないわ。吹き出す自信しかないわよ。そもそも持論と矛盾してるし、人間ってやっぱり単純思考じゃ生きていけないのね。愛を求めるのかしら。……まあ、初恋が尾を引いてるんだろうけど。そんな初恋なら仕方ないと同情はしてあげるわ。


 眼鏡をかけてるのは、その方が女性が寄ってきやすくて、金儲けもしやすいからで、世の乙女達は彼を『金眼鏡』とか『腹黒眼鏡』『むしろ海賊』とかって呼んでいたみたいね。本当に別世界の乙女達のネーミングセンスは脱帽ものだわ。


 頭がいいようには見えなかったけど、あれも演技だったのかもしれないわね。何か焦ってたけど、それも理由かもしれないわ。


 ヒロインと仲良くなるきっかけは、えーと、精霊の力が将来自分の力になるかもって思ってマモンから近づいて来たのが初めだったかしらね。

 初めは皇子様みたいなうさんくさい笑顔で丁寧に対応するけど、途中で本性がばれるっていう王道よ。

 結局、ミイラ取りのミイラみたいになって、マモンはヒロインに恋をして自分自身がお金よりヒロインが大切になって始めて『金より大切なものもある』ってことに気づいてハッピーエンド。


『俺は金よりもアンタのほうが大切だ』とか言われて別世界の乙女達はときめいてたけど、そんなの当たり前だと思わない?

 お金の方が大切だ、なんていう男とキスも結婚もしたくないわよ。


 んーと……あと、マモンにとってお金って相当大切みたいよ。

 一文無しで放り出されるっていう試練を親から与えられた時に『金がなきゃなんにもこの世じゃできねぇ』って学んだんですって。ついでに博打と口調や処世術なんかも一緒に学んだみたいね。完璧な皇子様スマイルだったわよね、気持ち悪かったけど。あの演技力は見習いたいわ。

 実力主義が基本の家族らしいから……あら、ならもしかして私のことってあいつ本人が調べたことなのかしら。場所提供とお父様の繋がりは父親からみたいだったけど。


 まあ、いいわ。


 とりあえず、お金だけはあるから、そういう意味では関わりあってもいいけど、婚約者にはしたくないわね。


 *・*・*・*・*・*・*・*・*


 話を終えて顔をあげれば、何故かソレルとグレイスが憮然としている。不思議に思っていると、二人が口を開いた。


「……着々と攻略対象者に会って行きますね、お嬢様。呪われてるんじゃないですか? お祓いしときます?」

「エビネラン様にプリシラ様が迫られたと私が申しておきます」

「あっ、それはいいな! お嬢様、そうしましょう」


 という二人の申し出に「そうね」と頷いた。


 望まない遭遇は人生に刺激は与えてくれるだろうが、プリシラは家族に囲まれていれば幸せである。刺激はいらない。既に四人もの攻略対象者に会っているのだ。学園に入るまでに他の者達と会わないとは断言できないプリシラである。


「お祓いしてもらいましょうか」


 グレイス達から話を聞かされた父はプリシラを一ヶ月ほど邪気払いの為に別荘へ行かせるはめになったのは、それから数日後のことだった。

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