番外編 3Dプリンター解説
★番外編・3Dプリンター解説→ふむふむ……
今回は異世界転移後、地味に日本国内の情勢に影響し得る技術である3Dプリンターに関しての解説を行おう。
3Dプリンターとは聞いた事のある人の方が多いとは思うが簡単にこの技術の概要を解説すると、パソコン上で作成した三次元モデルのデーターを設計図に3Dプリンター(立体印刷機)が材料を使ってデーター通りの物を現実に物体としてプリントする技術の事である。
3Dプリンターが一般的に利用される様になった大きなきっかけは2013年であるとされる。当時のアメリカのバラク・オバマ大統領が、3Dプリンターの支援を打ち出した事から注目され、ここからいっきに世界中に普及が始まった。日本においても2013年頃から一般への普及が急速に進んだ。
ちなみに、現在の3Dプリンターの元祖とされているのは、実は以外にも日本で、名古屋市工業試験所の小玉秀男氏が3Dプリンターの基礎技術である光造形法を開発したのだという(なお、この時、特許を取らなかった事により後々、色々と大問題になったのは別のお話……)。
さて、それでは3Dプリンターで出来る事に関しても見て行こう。
稀に3Dプリンターに関して誤解を受けている事としてプラスチック製品しか作れない様なイメージを抱いている人も多いが、これは間違いである。2018年の時点ですら既に3Dプリンターを使ってプラスチック以外にも様々な樹脂や金属、木材、コンクリートなどの建材、それどころか生体組織すらも作成可能である。
3Dプリンターには幾つも種類が存在している。大きく分けると一般用の家庭用3Dプリンターと、企業などが使用する工業用3Dプリンター、医療や生命科学分野のバイオ3Dプリンターが存在する(なお、厳密に家庭用3Dプリンターと工業用3Dプリンターを分類する明確な区分がある訳ではない。ある訳ではないが、一般的には、一般人でも買えるくらいの値段の3Dプリンターの事を家庭用3Dプリンター、一般人では買うのは厳しいのでは?と言う様な値段の3Dプリンターになってくると工業用3Dプリンターと呼ばれる場合が多い)。
細かく見ると、さらに細分化された様々な種類の3Dプリンターがあり、プラスチックや樹脂の製品の製造を専門とするプリンターや、金属を専門とするプリンター、建築を専門とするプリンター、医療を専門とするプリンターなど、その用途や種類は多岐に及んでいる。
では3Dプリンターと呼ばれる装置を使って、どの程度の物が作れるのかであるが、これは使用する3Dプリンターの性能や種類に左右されるものの、概ねほぼ何でも作る事ができると言って良いだろう。何故ならば、既に様々な企業や研究機関の試みによって3Dプリンターを使って自動車部品やジェットエンジン部品、果てはロケットエンジンの部品に至るまで様々な部品が製造される試みが行われており、技術的には既に実用化の域にとっくに達しているからだ。
アメリカのゼネラル・エレクトリック社は2015年から航空機エンジン用の燃料ノズルを3Dプリンターを使って製造を始め、2021年にはジェットエンジン用ノズル10万個を正式出荷したと発表。ゼネラル・エレクトリック社は2021年の時点で既に同社で製造するパーツの10%が3Dプリンターによって製造されているという。
また同2021年にはスウェーデンの航空機メーカーであるサーブが戦闘機のJAS39グリペンの外装部パネルを3Dプリンターで作成して飛行した。このスウェーデンの開発プロジェクトの担当者によれば、3Dプリンターを活用する事により共食い整備の状態の解消を目指しているのだそうだ。
なお、2015年まで時を遡ってみてもオーストラリア国際航空ショーにおいて、オーストラリアのメルボルンのモナッシュ大学と、そのスピンアウト企業Amaeroがビジネスジェット機ファルコン20用のジェットエンジン全て3Dプリンターによって製作した。このジェットエンジンは世界で初めて3Dプリンターによって完全に作られたジェットエンジンである。
また、2014年にアメリカのLocal Motors社はカナダの展示会において電気自動車Stratiを公開した。この自動車は75%を3Dプリンターによって製作。しかも、展示会の会場にて3Dプリンターを動かして会場で自動車を0からプリントし世界を驚かせた。この自動車はもちろん走る事も可能で、後にLM3D Swimとして量産化、販売された。2015年時点の報道によれば75%を90%にまで上昇させてから量産化したいと言っていたが、その辺はどうなったのかは不明。しかし、いずれにしてもこの会社が制作したStratiは世界初の3Dプリンターを多用して製作された自動車となった。
中国では2014年に上海の大手建築会社の盈创建筑科技(上海)有限公司が大型3Dプリンターを使って一軒家を丸ごと作成。2020年時点においては、この会社は3Dプリンターによる事業を拡大し、公衆ゴミ置き場(倉庫の様な建物)、公衆トイレ(現代デザイン)を作成し、コロナのパンデミックに際しては多数の病室を作成した。また、それ以外にも5階建てのマンションの他、豪邸風の施設、円柱状の建物、護岸ブロック、庭や公園用のオブジェなどの作成を行っている。
2015年くらいにまで時を遡ると、流石にエンジンを作成した場合には耐久性の面で問題があったそうだが、その問題もそれから数年がたつと大幅に解決の方向へと進んだ。それが、ゼネラル・エレクトリック社が同社が製造する部品の10%を3Dプリンター製にする事ができた大きな要因だろう。粗悪品であればここまで普及などしない。
時を進めても3Dプリンターの活用の波は留まる所を知らず、アメリカの世界最先端の超巨大宇宙開発企業スペースX社もロケットエンジンの部品に3Dプリンターで製作した部品を採用。
バイオ3Dプリンターに関してはまだ技術が研究段階の物が多い為、広く活用されているとは言い難いが、それでも大学、研究機関、製薬会社などにおいて医療品や医療技術の開発によく使用されている。2018年の時点においてもバイオ3Dプリンターを使用して臓器を作成する研究(心臓など)が行われており、2023年現在は既に生きた血管や神経を作成し、これを患者に移植して様子を見る臨床試験が日本で行われている。なお、この臨床試験では指や手首の末梢神経を損傷した患者に対して行われ、報道によると移植後に失われていた感覚が戻ったと言う良好な結果が得られたという。
また、同2023年にはドイツの大学、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクとユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルクが行った研究の発表によると、人間の細胞を使って人間の心臓を模したミニ心臓を作成し、これがなんと自発的に100日間に渡って鼓動させる事に成功したと言う。実際に鼓動まで実現したのは、これが世界初事例であるとされる。
この様に3Dプリンターはプラモデルから医療まで様々なジャンルの物を材料さえあれば生産可能なのだ。まだ、研究段階の物も多いが、遠くない未来には真の意味で何でも3Dプリンターで作ろうと思えば作れる時代が到来するだろう。
なお、上記で紹介した物の多くは工業用3Dプリンターが使われている物が圧倒的に多いが、家庭用3Dプリンターも非常に高い性能を有している。
先ほど言ったプラモデルはその冴えたる例だが、それ以外にも食器を作ったりなどその用途は無限にある。例えば、木を使った初音ミクの60cm台かつ精巧なフィギュアをもしも木彫り職人などに依頼して作ってもらえば下手をすれば数十万円から百万円相当の額にまで達する可能性があるが、木材フィラメントを使える3Dプリンターを駆使すれば数十万円よりも圧倒的に遥かに少ない額で精巧かつ木製のフィギュアが手に入る。
プラモデルなどの模型目的で家庭用3Dプリンターを買っている人はそれなりに多いのではないだろうか。実際、私の家にも父が3Dプリンターを買って使っている。
家庭用の3Dプリンターの価格は最安価では驚異の1万円から存在している。もっとも3Dプリンターを買う場合は安い価格だけ見て買うと絶対に失敗する為、自分の作りたい物を考えて、その作りたい物に見合った性能の3Dプリンターを買った方が良いだろう。パソコンと同じである。パソコンも自分が使う用途に合った性能が必要である為、パソコンを選ぶ際に安さだけを見て性能を見ずに買うと失敗しやすいのと同じだ。
価格帯としては家庭用から工業用まで全て総合すると最安価で1万円から高価な物では億単位の物まで様々な価格帯の3Dプリンターが存在している。
なお、家庭用3Dプリンターとは言ってもプラスチックを含めた様々な樹脂や木材以外にも、金属を扱える物まで幅広く存在している。つまり、それだけ様々な物を作る事が出来ると言う事だ。
ではここからは本格的に庶民にの手が届きやすい家庭用の3Dプリンターでどこまでの事ができるのかを見て行こう。まず、言えるのはプラモデルや模型、食器、家具などは作れるのはここまでの内容を見ていれば分かると思うが、だが、これだけでは正直言って余り実感が湧きにくいという人も多いのではないだろうか。
家庭用3Dプリンターで作れる物の耐久性は?3Dプリンターで作った物の性能はどれくらいを担保できるのか?など、これらの疑問は依然として残っている人も居るだろう。
そんな疑問に答えられる事例が既に存在している。
それがミャンマー内戦だ。なぜミャンマー内戦……?と思うかもしれないが実は3Dプリンターの歴史を語る上で実はもうミャンマー内戦は必ず外す事のできない事象となっている。
というのもだ。なんとミャンマー内戦は確認される限り世界で初めて3Dプリンターを使って製造された銃火器が主力兵器として運用されている内戦なのである。
どういう事なのか説明しよう。ミャンマーは2023年現在、内戦状態となっている事は知っている人も多いと思うが……え?ウクライナとかイスラエルの方ばかりニュースになっててミャンマーのニュース全然やってないから内戦になってたの知らない?そんな方も居るかもしれないが、安心して欲しい。ちゃんとその辺も解説しておこう。
ミャンマーは2021年にアウンサンスーチー率いる民主政府が軍によるクーデターによって崩壊し、以後、軍事独裁政権によって支配されている状況にある。これに関しては知っている人も多いだろう。しかし、半年もしない内に全然ニュースにならなくなった為、この後、どうなったのか分からない人も多いかもしれない。
クーデター後、軍事政権は軍事独裁体制に反発する国民の激しい抗議を受けたが軍事政権はこれを武力で弾圧した。民主政府を率いていた党を解散させ、多くの民主政府関係者や軍に反対する人々を逮捕、処刑、拷問をしてまわった。これに対して国民側はかつて民主政権が樹立する前にも軍事独裁体制を経験していた事から二度と御免だ!と弾圧に抵抗し、少数民族と同盟を組んで武力闘争に至った。軍から逃れる事のできた政治家、民主派、少数民族などを中心に国民統一政府が設立されクーデターで成立した軍事政権は違法な存在であるとして、正統な政府は国民統一政府側であるとした。
この為、現在、ミャンマーは全然報道されていないものの、事実上の内戦状態にある。
しかし、この内戦に対して国際社会はミャンマー軍を批判し経済制裁などを行い軍事政権を認めてはいないものの、軍事的には圧倒的に軍事政権側が有利な状態である。これは国民統一政府側への軍事支援が殆ど行われていないのが原因である。国民統一政府はミャンマー国民から、かなりの支持を受けているものの、国際社会は現状、ミャンマー国内の情勢をただ傍観しているだけにとどまっている。一応、国民統一政府を国際的な場などででミャンマーの代表として扱ったり、国際的な支援金などがあるものの、それだけである。
というのも、恐らくこれが2010年代であったのなら、国民統一政府はアメリカなど西側諸国の軍事支援を受けられた可能性も大きかっただろうが、西側諸国なアラブの春の際に軍事介入をした結果、その軍事介入がことごとく、後の情勢を見ると大失敗に終わってしまった事から、完全に西側はこの手の事に介入するのに及び腰となっている。ミャンマーは中東やアフリカとは違い、ちゃんと国民統一政府が国民の支持を受けている事から、軍事介入をしてもその後に問題はないとは思うが、過去のトラウマはそれだけ西側諸国にとって深刻であるという事だ。
一応、ミャンマーは昔からミャンマーの人口の7割を占めるビルマ民族vs残りの複数の少数民族の構図で争いを続けていた歴史があり、少数民族側はそれに伴って武装をしているが、それでも戦力は圧倒的にミャンマー軍側の方が圧倒している状況である。幸いなのは、ミャンマーがジャングルの密林に覆われた国家である為、強大なミャンマー軍から隠れて戦う事が容易にできる点くらいだろう。あとは、ミャンマー軍側から離反し国民統一政府へと合流した兵力も存在するがこれは戦力差で見れば誤差の範囲内と言えるだろう(ビルマ族と少数民族は長年対立していたが、ミャンマー軍のクーデターをきっかけに、少数民族とビルマ族が融和し一つの政府(国民統一政府)を結成するという何気にすごい展開が起こっている。なお、ミャンマーの内戦構造は単純にミャンマー軍vs国民統一政府という訳では無く、国民統一政府とは別にミャンマー軍と戦っている少数民族も存在している)。
さて、と言う事で国民統一政府側は強大なミャンマー軍を相手に国際的な軍事支援も無く戦い続けているという事になる訳だが、そんな国民統一政府を支える重要な装備の一つが3Dプリンター製銃火器なのだ。
3Dプリンター製の銃火器と聞くと恐らくは拳銃の事をイメージする人がかなり居るのではないだろうか。日本において恐らくもっとも有名な事件は2014年に家庭用3Dプリンターで拳銃を作った大学職員が逮捕されたニュースだろう。この時、この大学職員は5丁のまるで、おもちゃの様な外見をした拳銃を作成しそれがバレて逮捕された。この事件は日本において初めて3Dプリンターで銃火器を作って逮捕された事件となっている(2014年ですら3Dプリンターで銃を作る事が出来た)。
この事件で作成された3Dプリンター製の拳銃はリベレーターと呼ばれる3Dプリンター銃であるが、現在でも3Dプリンターの銃というと、この銃のイメージが強いという人も居るのではないだろうか。リベレーターと聞いても、あいにくご存じないですねぇ……という人でも「3Dプリンター リベレーター」で画像検索して見てみると、ああ、これかと思う人も多いだろう。
リベレーターははっきり言って銃としては、そんなに良い代物では無い。ライフリングも無ければ、連射も出来ず、薬室兼銃身となっているパーツを1発発射ごとに交換しなければならない。耐久性も低い。
しかし、ミャンマーの国民統一政府が使用している3Dプリンター製の銃は、もうこんなレベルの銃火器では既になくなっている。
3Dプリンター製の銃火器は主にアメリカやヨーロッパの銃器愛好家団体によって研究、開発が行われ、世界初の完全3Dプリンター製銃であるリベレーターを最初として(ただし弾薬は3Dプリンター製ではない)、その後も脈々と現在に至るまで開発が行われてきた。現在ではリベレーターの性能を遥かに凌駕するリボルバーや自動拳銃などの拳銃類も開発がされ、普通の拳銃と比べても遜色が無いレベルにまで達している。それどころか、近年は拳銃どころか自動小銃まで登場しその発展の勢いはとどまる所を知らない。
ミャンマー内戦に際して国民統一政府はFGC-9やその発展形のFGC-9 MkIIと呼ばれる3Dプリンター製の自動小銃を主力銃火器の一つとして採用した。画像検索で見てもらえば分かると思うが、リベレーターなんかと比較すると比べるまでもなく、洗練された銃火器である事がわかるだろう。性能も一般的な銃火器と変わらない水準に達している。
国民統一政府はこれらの3Dプリンター製の銃火器をインターネット上でオープンソースとして団体から公開されている物からデータをダウンロードしそれを家庭用3Dプリンターによってプリントして使用しているとされる。これによってFGC-9及びFGC-9 MkIIは史上初めて戦場で実戦投入された3Dプリンター銃として注目を浴びる事になった。
ここで念を押して強調しておきたのが、そもそも世界的に出回っている3Dプリンター銃の多くが家庭用3Dプリンターで作る事を念頭に設計されている事だ。だからこそ、国際的な軍事支援もない国民統一政府が自力で生産する事ができている。
つまり、工業用の3Dプリンターに比べれば性能が劣る家庭用の3Dプリンターでも、十分に実戦に耐えうるだけの銃火器の製造ができるという事なのである。
もちろん、性能的な問題が無い訳では無い。家庭用3Dプリンターで銃火器が製造できるとは言っても、ちゃんとした銃火器に比べればその耐久性に関しては劣ると言われている。故障や破損も多いとされている。しかし、それでも国民統一政府の様な孤立無援の状況下においては、非常に頼もしい武器であるのと同時に、壊れてもパソコンと3Dプリンター、それと材料さえあれば、何処でも新しい自動小銃を作れる為、資金に関しては国民統一政府は支援(ミャンマー国民からの支援や海外の支援団体からの支援など)を受けている為、作り続ける事が可能なのだ。さらにパソコンや3Dプリンターに関してもこれらは、いずれも民生品である為、ミャンマーの隣国を経由などして容易に入手可能である(ただしやっぱり弾薬に関して家庭用3Dプリンターでは作れない為、その点は家庭用3Dプリンターはまだそこまで万能ではない)。
2023年5月にはアメリカのシンクタンクがミャンマーの情勢について、民主派勢力などの抵抗によってミャンマー軍は2万人の兵士を失い弱体化していると分析したという報道がされた。2万人と聞くと驚く人も居るのではないだろうか。日本で報道されていないだけで、実は結構な戦闘が巻き起こっているのである。
この様な戦闘を支えるのに3Dプリンター製の銃火器は国民統一政府側の一翼を担っている側面がある。
これらが示す事はなんだろうか。これらが示す事とはつまり、家庭用の3Dプリンターであっても、もはや実戦に最低限耐えられるだけの射撃能力や耐久性能を持つ物を生産する事が可能であるという事である。
家庭用の3Dプリンターでさえもこのレベルに達しているのである。これはより高価な工業用の3Dプリンターであれば、それ以上の物を容易に生産が可能であるという事を示している。
では、工業用3Dプリンターは如何程の能力があるのかについても、より深堀りしてみよう。先ほども述べた様に高価な3Dプリンターを使えば、ほぼなんでもと言って良い程までに幅広いジャンルの物を生産する事が可能である。
しかし、それに問題点は無いのだろうか?こう思う人も居るだろう。結論から言えば、問題点は存在している。その代表例がコストや耐久性や時間の問題だ。
確かに3Dプリンターを使って、日用品から始まり、銃火器、自動車、ジェット機、果てはロケットまで多くの物を作る事は可能である。
しかし、現在、これだけの物を作れるにも関わらず、3Dプリンターが工業界の生産装置を席巻できていないのには、それだけのちゃんとした理由があるのだ。
確かに3Dプリンターは幅広いジャンルの物を生産する事ができる。しかし、現在の3Dプリンターの技術では出来上がった時に、普通に作った物に比べて耐久性が落ちてしまう問題が生じるケースが多いのだ。また、3Dプリンターで物を作るにはその物の材料が必要なのだが、この材料のお値段がそれなりのお値段である場合がある為、例え耐久性も問題ない物を3Dプリンターで作れたとしても、3Dプリンターで作った物と普通に作った物では普通に作った方がコストが安いケースも多い。その他、作る物によって製作時間がすごくかかるケースもある。
これらの問題点などから、工業界全体を席巻するレベルではまだ普及できないのだ。
とはいえ、3Dプリンターにも色々ある。先ほど、例え耐久性も問題ない物を3Dプリンターで作れたとしても、3Dプリンターで作った物と普通に作った物では普通に作った方がコストが安いケースも多いと言ったが、耐久性に問題の無い3Dプリンター製の製品というのは普通に存在している。
例えば、先ほど、アメリカでは3Dプリンターで作った自動車が販売されていると話したが、これは、アメリカの法律上ではあるものの、十分にアメリカの安全基準を満たしていると判断されているからこそ量産されているし、販売がされている訳だ。これはつまり、他の自動車と比較してこの3Dプリンターで作られた自動車の耐久性には法的な問題は無い事を示している。
また、ジェットエンジンの部品しかりロケットの部品しかりも、これらが量産され採用されているという事は、これらも普通に作った物と比べても耐久性に問題は無い事を示している。
他にもコストが高いケースの話をしたが、これにも例外はある。例えば、先ほど、木製の初音ミクの60cm台フィギュアを作るとして3Dプリンターで作った場合と、木彫り職人に頼んだ場合とでは値段が全然違うだろうという話をしたと思うが、これは良い例で、コスト面で職人に依頼して作ってもらうよりも3Dプリンターの方で作った方が安いという例である。また、製作時間も恐らくは職人に頼むよりも3Dプリンターで作った方が早くできるだろう。
他にも中国の建築会社が3Dプリンターで建物を作っているという例を話たが、これもコストが安い面の一つだ。建築分野においては3Dプリンターで作る方が人間が作るよりも、安く済むというケースがかなり多いのだという。日本においても2023年、セレンディクスという日本の会社は日本で初めて1LDKの平屋の家を3Dプリンターで製作し販売を開始した。日本の建築基準法をクリアした3Dプリンター住宅としては初めて販売にまで至った初のケースとなる。この1LDKの3Dプリンター住宅の価格は550万円であるとされるが、この550万円という価格は、一般的に1LDKの家を普通に作ると、安価な部類では3Dプリンター住宅と同じ価格帯の500万円から600万円であるとされるものの、大手住宅メーカーに頼めば900万円から1100万円以上であるとされる為、3Dプリンターで作った方が、普通に作るよりも安くすむ場合があるのだ。
ここからは色々とこれまで調べてきた上での私の持論ではあるが、恐らく、現在の技術の工業用3Dプリンターでも製造コストまたは量産性、もしくはその両方を度外視にすれば、どんな自動車も、どんな飛行機でも、どんなロケットでも現在の技術の3Dプリンターでも作る事は恐らくできるのではないかと思う(流石に半導体レベルの物は無理かもしれないが)。しかし、それは到底、大量生産には向かないし、コストもとんでもなくかかってしまう可能性がある。だからこそ、誰もこんな馬鹿な事はやらないのではないかと私は思っている。
この世の中は市場原理で動いている。例えば一般家庭で卵焼きを作ろうと思った時に、用意しようと思うのは、スーパーに行って卵を買って、フライパンとコンロとフライ返しを用意する事だろう。間違っても、一般家庭で卵焼きを作ろうと思って食品製造工場で使われている大型の卵焼き製造機を買おうとは思わないはずだ。
恐らく3Dプリンターも同じなのではないだろうかと私は思っている。例えば3Dプリンターで1体のロボットが作れると仮定して、それ1体を作るのにかかる費用で普通に作れば10体のロボットが作れると仮定する状況ならば、10体のロボットを作る方に普通の企業の社長なら資金を投じようと考えるだろう。
または、製造コストは普通に作った物と変わらなくても、製造するのにかかる時間が、かかりすぎれば普通に製造する方を選ぶだろう。
望んだ性能の物を3Dプリンターで作るには、その性能を作れるだけの性能を持った3Dプリンターが必要であり、3Dプリンター用の材料も必要なのだ。または時間が必要な場合もある。だが、そんな面倒な事をしなくても作れるならば、そちらの方を選ぶだろう。
と、ここまで3Dプリンターについて見てきたが、私の持論の方はおいておいても、大体、3Dプリンターとはどんな物なのかという事はボヤっとでも分かってもらえたのではないだろうか。
少なくともだが、ここまでの内容でハッキリしている事は、3Dプリンターによって自動車や銃くらいのレベルの工業製品ならば家庭用3Dプリンターレベルではなく、ちゃんとした工業用3Dプリンターレベルの良い性能のプリンターを使用すれば、3Dプリンターを使わずに普通に作った物と変わらない水準レベルの物は普通に作れると容易に推測できる事だ。
まさか、高度な耐久性が要求されるジェットエンジンの部品やロケットエンジンの部品などが3Dプリンターで作れるにも関わらず、構造的にはエンジンよりも簡潔な構造であるマシンガンが作れないと思う人は恐らくは居ないだろう。




