ファンタジー小説によく出てくるバリスタ解説
★ファンタジー小説によく出てくるバリスタ解説→もしかしてこれまで解説してない…?
日本が異世界転移する小説で異世界勢が良く使う武器としてバリスタが存在する。
今回は、そのバリスタとはそもそも一体全体、どんな武器なのかを古代ローマや古代ギリシャを例に解説しようと思う。
解説する内容は、バリスタの概要と歴史だ。
バリスタ、これを聞くと詳しくは知らないが、名前と姿くらいは知っているという人は恐らくだが、弓が大きくなった物を想像し、また、矢もくは槍を飛ばす武器だと想像している人は多いのではないだろうか。
この想像はほぼ正解と言える。
実際にバリスタの発射原理は弓と似た原理だ。ただ、弓とは違い、その構造は複雑で、ねじりバネと言うバネによって弓の様な挙動を実現している。
また、バリスタを詳しくは知らない人の多くが恐らくは余り知らないであろう用途がある。
それば、バリスタは投石器にも分類されると言う事だ。
実はバリスタに使用される弾頭には弓や槍以外にも石球や油の入った壷も利用されていた。
バリスタには以前の解説でも触れた通り、数多くの種類があり、そのサイズは個人携行の物から現代の大型重機レベルの大きさの物まで様々な種類があった。
そしてその弾頭にはバリスタのタイプによって、弓や槍を使用する物。石球や油の入った壷を使用する物などがあり、その弾頭のサイズも小さい物から大きい物まで様々だった。
これら様々なタイプのバリスタは様々な戦闘に参加した。
野戦や攻城戦である。弓や槍を運用するバリスタは通常の弓矢などと、同じ様な戦いににも投入され、石球や油の入った壷を運用するバリスタは城や砦への攻撃や、敵陣地への攻撃などに投入された。
※上記の中間的な使われ方もされたバリスタもある(例えば手のひらに収まる小さなサイズの石球を飛ばす弓や槍を運用するバリスタと同サイズのバリスタ)。
近現代的に言えば、弓や槍を使用するバリスタは分隊支援火器で、石球や油の入った壷を使用するバリスタは大砲の役割に当てはまるでしょう。
特に、石球や油の入った壷を使用するバリスタの用途は、ほぼ、産業革命前の大砲と非常に似た様な運用方法でした。
例えば石球は城や砦の壁を破壊する為に使用され、油の入った壷は発射前に火を付けられ、それを発射する事で、着弾した城や砦、もしくは敵陣地などに爆発的な燃焼を発生させ攻撃しました。
この様な用途で使用されたバリスタの最大射程距離は古代ローマで利用された物の中には一説には最大で1kmにもなる物も存在したとされていますが、概ねは200mから450m程であったとされます。一般的なバリスタは26kgの石を400m以上先まで飛ばす能力があったとされます。
最大射程距離では火薬登場後に登場した大砲には遠く及びませんしたが、それでもバリスタは弓と同じ理屈で弾頭を飛ばす投石器である為、その命中精度は非常に高い能力を持っていました。
石球や油の入った壷などある程度の重さの砲弾を運用するバリスタには限られますが、このタイプのバリスタの最大射程距離は有効射程距離とほぼ同義でした。
このバリスタの有効射程距離は15世紀から16世紀頃の一部の大砲の能力すらも上回るレベルです。15世紀から16世紀頃の時代、最大射程距離が1000mを超える位長くても肝心な有効射程距離が100mから200m程度というレベルの大砲もかなりありましたが、有効射程距離でみれば、これらの有効射程距離100mから200m程度の大砲よりもバリスタの方が有効射程距離は遥かに長かったのです(威力は大砲の方が遥かに上ですが)。
実際、バリスタではありませんが、原理を同じくするものとして、第一次世界大戦中、ソートレルと呼ばれるクロスボウがフランス軍によって運用されていました。こちらは、弾頭に手榴弾を運用し110mから140mの射程距離で、敵の塹壕内の兵士を攻撃する為に運用されました。
これは弓を原理とする投擲兵器が近代戦にも充分に耐えうる命中精度を持っている事を物語っている話です。
バリスタの威力については運用される弾頭の種類にもよりますが、槍を運用するバリスタは盾を装備し鎧を着た兵士を2人貫通するだけの威力があったと記録されています。石球については大砲程の威力は無かったものの、数十kgの石球が200m以上先の距離から飛んで来る事を想像してみてください。つまりはそういう事です。油の入った壷に関しては、発射前に火を付けて、それから発射し、壷が地面に叩きつけられて割れて、その中身に引火する事でその効果を発揮します。遠くから油がたっぷりと入った壷が燃えながら飛ばされてきてそれが地面に叩きつけられて割れて燃えるのです。非常に強い爆発的な燃焼効果が得られるでしょう。
とりあえず、これがバリスタの概要です。
バリスタの当時の使い方がよく分かる動画をご紹介します。
ユーチューブで「グラディエーター ゲルマニア戦闘シーン」と検索しその動画を見てみて下さい。
こちらは映画グラディエーターの劇中における古代ローマ軍vsゲルマニア部族の戦いの様子の動画なのですが、このシーンは当時の戦いをかなり再現している事で有名です(※戦闘シーンの再現度の評価は高いが、映画のストーリーは史実と違う点が多い事に注意!)。
こちらの映画のこのシーンで登場するバリスタには弓や槍を放つバリスタしか出てこないのですが、マンゴネル風の投石器が油の入った壷を発射して攻撃している様子が見てとれます。
バリスタにおいても同じ様な使用用途があったと考えながらぜひ見てみて下さい。
ちなみにですが、これバリスタの話しとはちょっと脱線しますが、こちらの映画のこの戦闘シーンは実は古代ローマ軍を考える上で非常に素晴らしい参考資料なんです。それはバリスタ等の投石器の運用方法もそうですが、その戦術についてもです。
こちらの映画を見た後で、アメリカ独立戦争を画いた映画パトリオッドの戦闘シーンを見れば、やってる事は銃が弓、投石紐に。大砲が投石器に。銃剣が剣や槍になっただけで詳しい戦い方とか戦術だとかを抜きにして戦いを大きく見れば似た様な事をやっていると良く分かりますよ。
どういう事かと言うと、アメリカ独立戦争頃の戦列歩兵の戦術って、まず、戦列歩兵部隊と砲兵部隊が敵と撃ち合って、それで敵の陣形が崩れたら、そのタイミングで戦列歩兵部隊は銃剣突撃、騎兵隊が突撃するっていう戦い方な訳なんですが。
古代ローマ軍も、まずは弓兵、投石紐兵とバリスタやマンゴネル等の投石器で敵と撃ち合って、それで敵の陣形が乱れたら、現代の警官隊の暴徒鎮圧術と良く似た戦い方をする歩兵部隊と騎兵隊が進軍するっていう戦い方な訳ですよ。
ただ、古代ローマ軍の場合は、バリスタ等の投石機が、恐らくは大砲とは違って持ち運びが大変だったと思われますので、使われるタイミングはここぞ!というタイミングだったそうですが。
でも、戦術的には中世以降の近代の戦いにも近い戦い方をやってた訳ですよ。
歩兵の戦い方に注目しても、現代の警官隊による暴徒鎮圧術と殆ど変わらない優れた運用方法です。これは古代ローマ軍がそれだけ優れた先進性のある軍隊を持っていた事を示しています。
先程紹介させて頂いた作品を見るだけでも、古代ローマがなぜあれだけの広大な地中海世界の領域を支配できたのかがよく分かりますので非常におすすめです。
古代ローマ軍の戦い方をもっと見たいという方にはグラディエーター以外にも第9軍団のワシ(英名:The Eagle)という作品もおすすめです。
この2つの作品を見るだけでも、そら戦術劣ってる奴ら(ゲルマンやブリトンの蛮族)が、現代の警官隊による暴徒鎮圧術+高い戦術+殺しにかかる武器持ってる連中相手に勝てるわけがありませんわなってなりますよ。
古代ローマ時代に、古代ローマの周辺国で古代ローマ軍に対抗できるだけの戦術や兵器を持っている国は中東を除けば他にありませんでした。つまり、古代ローマ軍からすれば、中東以外の勢力の軍は現代の暴徒と変わらない脅威度だったでしょう。もちろんそのローマよりも劣った勢力にローマ軍が負ける事もありましたが、相対的に見た場合、古代ローマが地中海世界を支配していた期間を見れば、ローマ軍がどれだけ強かったかは想像できるでしょう。
現代の警官隊だって暴徒に負ける事は世界中見てもたまにある話です。それに現代の暴徒とは違って古代ローマ軍が戦った勢力はローマ兵を殺しにかかってきてる訳ですしね。
こんな事してた帝国が時代が進むにつれて何もかも劣化していって最後に滅びるってマジっすか?
帝国の強みでもあった軍隊が蛮族の傭兵に置き換わっていって多くの技術や戦術も忘れ去られる展開が起きた国があるとかってマジっすか?
でもってその帝国が滅びた後に、騎士道とかいう思想が台頭して、帝国があった頃は戦争は効率と戦術が重視されていたのに正々堂々が重視される様になって、戦術が衰退して、それを横目に見てた中東のイスラム帝国が「何やってんだこいつら…戦争ってのはこうやるんだよ!」って殴られてアフリカとイベリア半島の領土をあっという間に制圧されて分からされた地域があるとかってマジっすか?
ローマ帝国「マジなんだよなぁ……」
ごほんほん。えー話をバリスタに戻します。
では次にバリスタの歴史を見ていきましょう。
バリスタは紀元前4世紀から紀元前5世紀頃の古代ギリシャが発祥でその後、古代ローマがその技術を継承、発展させました。
紀元前4世紀頃に最初にオクシュべレスという据え置き型のクロスボウがシチリア島にあったシラクサという古代ギリシャの都市国家によって発明され、それが、ギリシャ本土に伝わり、当時、ギリシャの覇権を握ろうと台頭していたマケドニアで改良され、リトボロスという投石器になりました。
リトボロスはオクシュべレスよりも強力な武器で、世界で初めて、ねじりバネを採用した武器となりました。これがバリスタの原型とも言えるかもしれません。
ちなみに、リトボロスを作らせたマケドニアの王はあの有名なアレクサンドロス大王の父親であるフィリッポス2世です。
その後、実戦配備されたリトボロスは紀元前280年に共和制ローマとマケドニアが戦った事で、その威力を知った共和制ローマに齎されました。ピュロス戦争です。
この時代、まだ共和制ローマには本格的な攻城兵器が存在しませんでした。このリトボロスがローマにとっての初めての攻城兵器との出会いでした。共和制ローマはマケドニアに最初負けましたが、マケドニアの戦術や、このリトボロスを真似する事で、最終的にはピュロス戦争は共和制ローマが勝利を収めました。
その後、共和制ローマはリトボロスをさらに改良し、ついにバリスタが誕生します!
共和制ローマのバリスタはリトボロスよりもさらに強力な物へと進化しました。共和制ローマはバリスタに金属などの素材を使う事で、ねじりバネのパワーを強化。威力を高めました。そしてさらには巨大なバリスタも開発しより巨大な砲弾を発射できるようにもなりました。
バリスタはその後もさらに進化。様々なタイプが開発されます。
紀元前2世紀頃にはスコルピオという石ではなく矢を飛ばすバリスタが登場。こちらは、バリスタの弱点を克服しました。バリスタの根幹である、ねじりバネはロープなので雨等で濡れると威力が落ちてしまいます。そこで、スコルピオは駆動部分に金属のカバーを被せる事で湿気にかなり強くなりました。さらにバリスタのサイズが小さめなので持ち運びが容易でした。
スコルピオはその後、紀元1世紀にケイロバリストラになります。
ケイロバリストラは、ほぼ全てが金属でできたバリスタで、据え置き型やクロスボウの様に個人が携行できるタイプも誕生しました。
これら以外にも、機関銃の様に矢を連射が可能なバリスタや、キャロバリスタという馬車に搭載し360度回転が可能なバリスタや、ハルパックスという艦船に搭載されたバリスタ等々etc……様々なバリスタが開発されました。この中に一説に射程距離が1kmを超えたとされるバリスタも含まれる訳です。
バリスタはまさに古代の超兵器でした。
このバリスタの様な武器は地中海世界以外では他には見られない高度な武器でした。
ねじりバネを使わないオクシュべレスの様な据え置き型のクロスボウの様な武器はアジアにも存在しましたが、ねじりバネは地中海世界独自の技術でした。この技術によってバリスタは弓と同じ原理で物体を飛ばす武器の中では頂点に君臨できるレベルの武器となったのです。
だって26kgの物体を400m以上先まで飛ばせる武器なんですもの。
命中精度は15世紀から16世紀頃の大砲が支配する世界でも充分通用するレベルだし、なんなら、命中精度だけでみれば第一次世界大戦でも通用するレベル。
しかし、そんなバリスタは紀元3世紀頃をピークに、その技術は衰退し最後には失伝してしまいました……。
原因はローマ帝国が急激に衰退し滅亡の道へと突き進んでしまった為です。
蛮族の侵入、政治の腐敗、宗教問題、学問の弾圧etc。
バリスタの技術は紀元4世紀の西ローマの滅亡後には使われなくなり、一説には紀元11世紀にマンゴネルという投石器の技術が復活した事で、バリスタも復活したという事です。
マンゴネルにはねじりバネの技術が使われていました。
つまり、紀元4世紀から紀元11世紀頃まで、ねじりバネの技術はほぼ使われていなかったという事です。
その証拠に復活した、ねじりバネの技術は、最盛期のねじりバネの性能には遠く及ばない低い性能だったそうです。ゆえに復活した、ねじりバネを利用した武器はバリスタやマンゴネルも総じて最盛期の性能に比べれば低い性能でした。
その為、火薬が発明され、大砲が登場すると、初期の大砲は最盛期(紀元3世紀)のバリスタに比べれば有効射程距離が劣っていたり、安全性が劣っていた(大砲の火薬が暴発したりetc)にも関らず急速に大砲に移り変わっていったのです。
だって復活したバリスタの能力は低かったんだもの。
もしも、バリスタの技術が失伝せずに最盛期のレベルの技術を維持し続けられていたらバリスタは史実よりももう少し長い期間は使われ続けた可能性もあったかもしれません。
これがとりあえず、バリスタの歴史です。
ちなみに、古代ローマのバリスタを私達の生きるこの現代社会に復活させようという試みについても解説しようと思います。
実はバリスタを現代に蘇らせようという試みは世界各地の大学、研究機関、博物館、個人で行われています。ユーチューブでバリスタを意味する外国語の単語で検索すれば、これらの実験映像が沢山出てきます。
では現代に蘇ったバリスタはどういう性能なのかという事なのですが……。
残念ながら、現在の知識を持ってしても、古代ローマが文献に残したレベルの性能のバリスタの再現にはほぼ成功していません。以前紹介したモンゴル帝国の弓と同じです。一体全体、当時のいかなる技術を使ってこれ程の性能を獲得したのか分かっていないのです。
古代ローマのバリスタはロストテクノロジーによる産物と呼べるでしょう。
このバリスタがロストテクノロジーであるという点はGGIKKを考える上でも非常に重要です。
以前、武器輸出面の解説で、バリスタを日本で作ると現役で使われている異世界の国のバリスタよりも性能が劣ってしまう可能性があると指摘しましたが、それにはこのバリスタが現代の知識を持ってしても再現できないロストテクノロジーである事が関係しています。
もしも、異世界の国のバリスタが古代ローマ並みの性能があった場合、これを日本の技術では再現する事はできないのです。もしも、日本がバリスタを作って売ろうとしても異世界の国からしたら、「なんだこの低性能なバリスタは?」となってしまう可能性が高い訳です。
また、異世界という事を考えると古代ローマよりも遥かに性能の高いバリスタがあってもおかしくありません。だってよく日本が異世界転移する小説で対空バリスタなんていう物が出てくるでしょう?明らかに古代ローマのバリスタよりも弾を飛ばしてますよこれ。そうなると、ますます日本が作るバリスタは「なんだこの低性能なバリスタは?」となってしまうでしょう。




