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初手

 すぐにでも少女の助けに入った方がいいのはわかるが、襲いかかっているのが狼男なんて予想外過ぎて、俺は木の影から顔を覗かせた状態で固まる。


 いやいや、狼男て……見るの始めてだしどうしたらいいんだ? 熊でも大概どうすんだって感じだけど、狼男とか非現実的な──


 はたと首を傾げる。


 実際目の前にいるのに、何が非現実なんだ?


 考えてみるも答えは出ず、再びモヤモヤとした気持ちになり始めた俺は、頭の中を空っぽにする様に首を振った。 今は少女を助けるのが先であるし、どうせ考えても仕方のない事だ。

 改めて狼男に視線を向け、俺はどうするかを考える。 所持している物に役立ちそうな物はなく、付近にも使えそうな物も無い。 強いて言うなら片手で握り込める程度の石が数個だが、それでも何も無いよりかはましと思ってポケットに詰め込んでいく。


 小さい石ばかりだな。 最悪、小さくても鋭利なのがあればいいんだが……これでいいか。


 一部が尖っている石を見繕うと、俺は一旦左手にそれを持ち、もう一つ投げる用の石をポケットから取り出す。


 よし。


 一度大きく深呼吸をして、俺は木の影から躍り出て走り出す。 その際に、取り出した石を狼男の左手にある木に向って投げつけた。

 コン。と石が当たった木から軽い音がなり、少女に襲い掛かろうとしていた狼男の注意がそちらに逸れる。 少女は対面にいたからか、音より俺の出現に驚いて視線が此方を向いたので、俺は人差し指を立てて口元に当てる。 狼男に気付かれるのは極力遅い方がいい。

 広場へと侵入し、花々を踏み荒らすのを申し訳なく思いながら、左手の石を右手に持ち替えて狼男に肉迫する。

 極力音は立てていないつもりだったが、流石にその耳は飾りではなかったらしい。 ピクリと耳が動いて狼男が此方に振り向き始めた。 だが、距離は十分に詰める事ができており、何よりも、猫背のまま此方に振り返った為、届く。


「ッらぁ!!」


 振り返る狼男の顔を打ち返す様に、俺は右手に握り締めた石を側頭部に叩き込んだ。 走りの勢いも乗せ、腕をしならせて繰り出した渾身の一撃だ。

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