プロローグ
ざわめき立つ街中でぼんやりと宙を眺める。
宙に向けた目に、太陽からの強い陽射しが入り込み俺は目を細めた。
ジリジリと焼きつく様な日差しは、今が夏であることを知らせていた。
──なんだっけ。
夏の暑さのせいか、霞がかかった様に思考がはっきりとしない。
自分はどうして今こうしているのか、前後の記憶が朧げだ。
──確か。
そう、確か出掛けにいこうとしていたはず。 いや、外出している時点でなにかしら目的はあったのはわかりきっている。
──違う。 重要なのはそこじゃない。
まるで熱された鉄板に横たわっているかの様に背中が熱い。 だが、その熱を感じ取れる様になる程、頭が働き始める。
──暑い。 熱い。
非常に暑い日だった。 そして休日でもあった。だから、せがまれて近くの市民プールに行くことになったんだ。
──そうだ。
準備をして、家を出て、手を握ってやって、嬉しそうな──を連れて。
──あいつは、何処だ。
ジリジリと熱を感じていた背に、ジワジワと熱さを吸収してくれるものが拡がっていく。
──あいつは、無事なのか。
はしゃぐ──に手を引っ張られながら歩き、大きな十字路の信号で立ち止まり、そして。
──雨?
急に日差しが遮られ、ポツリと頬が濡れた。 その雨はポツリポツリと頬のみを濡らし、地面へと伝って行く。
──あぁ、そうか。
少し間を開けて理解した。
「────────。」
俺は、泣き叫び身を揺すってくる──にそう言うと、意識を手放した。




