#66 罠
“実はこの薬は未完成でして。最後に一つ、加えねばならない素材があります“
最後に必要な素材だと……?
(何か嫌な予感がするな)
ここまでの流れ、それは全てこの魔道士の掌にあるような気がする。進めば進むほど落ちていく落とし穴のような……
“それは何ですか?”
多分リアも同じことを感じていたに違いない。が、彼女の声には全く迷いがなかった。
“血です。それも近親者のものでなくてはいけません。それもかなりの量が必要でして”
”具体的にはどのくらいなのです?“
”恐れながら殿下がお命を失いかねない量かと“
魔道士が言うには──真実かは分からないが──他の近親者からは既に血を提供して貰っており、残るはリアだけ。飲む直前にリアの血を混ぜ、国王に飲ませれば病は治るとのことだ。
“ただ、お命を落とすと決まった訳ではありません。私も殿下への負担を減らすべく努力させて頂きました。ただ、これが精一杯でして……”
魔道士が作る沈痛な表情を見て、俺は反吐が出た。何が精一杯だ! 嘘に決まってる!
(これは罠だ。間違いない!)
証拠はない。が、百歩譲ってこの話が事実だとしても王は娘の命と引き換えに生きたいと思うだろうか。
(でもリアは……)
が、優しいリアがここで断われるはずがない。くそっ、卑劣な……
”リア様、少し時間を置いてお考えになるべきかと。御身はご自身の者だけではありません。どうなさるにしても準備が必要でしょう“
クレアの言葉に魔道士は大げさなジェスチャーで手を振った。
“おお、勿論ですとも。まさかこの場で決めろなどと申すはずもありません”
相変わらず胡散臭い芝居だな……
”一度部屋に戻って考えて頂いて結構ですよ。ただ、あまり時間はありません。王の容態は予断を許さぬ状態ですからね……“
*
「戻ったぞ。おっ、シデンもおるな!」
部屋に戻ってくるなり、そう言ったのはクレアだ。
(龍なのに本当に器用だよな……)
考えなければないけないことが山のようにあるのについそんなことを思ってしまう……
「シデンさん……」
「話は聞いた。一応聞くが……」
「私は絶対に父を助けたいです」
そりゃそうだよな。リアがそう言うだろうことは聞く前から分かってた。
(けど、多分王様はそんなこと望んでないだろうな……)
娘の命を危険にさらしてまで生きたいと思う父親なんているはずがない。
「けど、そのためにリアが死んじゃったら駄目だよ!」
「うむ。事故やらなんやらで仕方がない時でないのなら、親より先に死ぬなどという親不孝は避けるべきじゃ」
「……でも!」
一見すると二人の言葉はリアの意思を否定しているように見える。が、その裏に流れる想いは伝わってるんだろう。リアはそれ以上は何も言わなかった。
「事が事だ。命を懸ける必要があるかも知れない。でも、俺達は王様を助けて絶対に四人で帰る。そうだよな、リア」
「はい、シデンさん!」
リアは涙を拭うが、声はもう震えていない。よし、覚悟は決まったな!
「想いが一つになったのは良いのじゃが、具体的にはどうするのじゃ? あの胡散臭い奴の言う通りにすれば、多分リアは死ぬことになるぞ」
あの魔道士は“リアが命を失いかねない量の血が必要”だと言っていた。本当に血が必要なのかどうかも分からないが、恐らくリアの命を奪うつもりだろう。
(そんなことさせてたまるか!)
代わりに俺の血を……
(あの便利グッズで変装……いや、絶対無理だ)
俺とリアじゃ体格が違いすぎるからいくら便利グッズを使っても難しい。サラなら可能かも知れないが、そうすると今度はサラの命が危なくなる。
「そう言えば、リアはお父さんから何か渡されていなかった?」
あ、そうだった! 流石サラだ!
「紙切れのようでしたが……」
そこに書かれていたのは……
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