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#36 奇襲

(ハイネ視点)


(全く……これだから寄せ集めの奴らは)


 正直いくら舌打ちしてもしきれない。


(いや舌打ちなんかじゃ足りないな)


 正直大声で文句を言ってやりたい気分だが、部下の手前それは出来ない。全く、上に立つ人間って大変だよな。


(にしても大砲を誤爆させるとか……どんだけ素人なんだよ、こいつらは)


 俺が指揮をとっていると突然大砲が誤爆して陣地は大混乱……不利を悟った俺は軍を纏めて退却することで何とか総崩れは防げた訳だ。


(しかも、混乱して訳分からないことを言い出す奴もいる始末……これだから素人は困る)


 剣で砲弾を打ち返す……だったか? んなこと出来るはずがないだろ! 常識で考えろよ!


(だが、まだ策はある)


 俺の手早い撤退のおかげでこちらはまだ七〜八百人程度は残ってる。まあ、最初は千五百人くらいいたから大分目減りしている感は否めないが……大分逃げてしまったからな。


(だが、奴らは油断しきってるはず……今がチャンスだ!)


 戦において数は重要……だが、人数が多ければ勝てるかと言えばそうとは言えない。他にも色々と勝つために必要な条件はあるのだ。


(奴らは圧倒的不利な状況を覆して勝ったと勘違いしてやがる……そこが狙い目だ)


 実際には俺の先を見越した戦略的撤退だとも知らずに……ぷぷぷっ、馬鹿な奴らだぜ!


”仲間を見捨てて真っ先に逃げる指揮官なんて……“

”しっ……聞こえるぞ!“


 時々そんな声が下っぱどもから聞こえてくるが……全く先が見えない奴らはこれだから駄目なんだ。


(まっ……そんな奴らを使って勝つから俺の有能さが際立つんだけどな!)


 ぐちぐち文句を言う凡夫共も勝てばころっと言うことが変わる。目先しか見えてねえんだよな、ボンクラは!


(さて、準備はどのくらい進んだかな……)


 俺は分隊長を呼び出し、進捗状況を確認した。


(シデン視点)


「すっ……すっげー!」

「何だこれ、いや、何だこれッ!?」


 サラに言われて俺が三枚重ねにした鎧を切って見せると、皆は歓声を上げた。


「相変わらずシデンの剣技は凄いね……見るたび驚かされるよ」


「うおっ……こ、これは」


「まさに神業……シデン殿は達人、いや剣聖だ!」


 新たに加わった兵士達だけじゃなく、ヘンリエッタさんやカートレット将軍の騎士達まで興奮してる……一体何でだ?


(あ、そっか。見たことないんだ)


 辺境じゃ鉄より硬い甲殻を纏った魔物なんてザラだけど、こっちはそうじゃないんだろう。だから、やろうとする人がいないんだな。


「隊長、敵です!」


 見張りをしていたヘンリエッタさんの部下からの急報でお祭りムードがかき消える。。皆は一瞬息をのんだが……


「どんな奴らだって負けるもんか! こっちにはシデン隊長がいるんだ!」


「そうだ! やるぞ!」


 完全な不意打ちだが、皆のやる気は高いな!


(……俺一人がいたからって何か変わるもんでもないけどな)


 が、そんなことを言って皆のやる気に水を差す気はない。何をするにしろ、やる気が高いというのは重要なことだからな。


「隊長、迎え打ちますか?」


 分隊長達が俺にそう聞いてくる。決定を下す前に俺はヘンリエッタさんとサラ、分隊長達に意見を求めた。


「いけそうだと思うか?」


「敵の方が数が多いけと、こちらの士気は十分だね」


 とヘンリエッタさんが言うと


「それに引くにしては距離が近すぎますし……」


「引くにしても一度相手の勢いを削がないとならないでしょうね」


 と分隊長達。となるとやるしかないってことか……


「将軍は今、丘の上だけど敵には気づいているはず。時間を稼げば援軍も来るよ」


 サラがそう言うと分隊長達は“確かに!”と言って手を叩いた。


「将軍との連絡は私が。シデンはとにかく派手に暴れてくれる? ヘンリエッタさんと分隊長さん達はシデンのサポートとみんなへの指揮をお願いします」


「「「分かりました」」」


 分隊長達はそう言うと皆のところへ散っていった。サラはもうこのシデン達の軍師みたいなポジションになってるな。


「妾も何かした方がいいかの?」


 クレアがそう言うと、サラは首を振った。


「クレアは切り札だからシデンの側にいて。もし、ピンチだと思ったら助けてくれる?」


「わかったのじゃ。切り札……何か良い響きじゃの!」


 前だったらクレアがベタベタとくっついてきそうなタイミングだが、今はそんなことはない。サラから色々人間の常識とやらを聞いた成果なのか……


(まあ何にせよ、有り難いな)


 隊長になって今まで以上に人の目が集まりやすくなったからな……


(とにかくやるか!)


 俺は立ち上がると、サラに言われた通り、敵に向かって突進した!

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