#32 チャンス
(ハイネ視点──少し時が遡ります)
(全く……ようやく運が回って来やがったぜ)
丘の上から見下ろすと遠くに小さくカートレット将軍の旗が見える。よしよし、ちゃんと来たな!
(ダラク山脈で行き倒れたところを助けられたは良かったが……このままじゃ王都に帰れないからな)
マルボレク要塞の陥落にダラク山脈の砦の半壊……これだけ揃うと騎士団長解任だけでは済まないレベルだ。
(ま……勿論適当な奴に罪をなすりつけるけどな)
だとしても、何か目立つ功績が欲しいのは事実だ。罪をなすりつけたとしても、このままじゃ俺は手ぶらで帰ることになる。それはあまりにも格好が悪い。
(だから本っ当にタイミングが良かったぜ!)
実は俺のところにゲバルト第三王子からの使者がやってきて、軍勢を率いて戦って欲しいと要請が来たのだ。
(第三王子って言えば最近調子づいているとこだったよな……)
正直政治にはあまり関心がないから詳しくは知らんが。そういや、第一王女が行方不明とかって話も聞いたな。関係あるのか?
(まっ……どうでもいいや。とにかく俺は戦で勝ち星を上げられれば良いんだ!)
丘の上にズラリと並んだ大砲。これでよじ登ってくる敵を撃つだけ……こんな勝確な戦は聞いたことねーな!
(しかも、相手はあのカートレット将軍。最っ高じゃねーか!)
勝ち星どころか大金星だよ! これで大手を振って王都に帰れるぜ!
(ん? 何だ?)
将軍の旗はまだ遠くだが、何だか騒がしいな。
「申し上げます! 騎馬が数十騎ほどこちらに向かって来ます!」
何ぃ?
(本隊から先行させた小勢か)
丘を抑えに来たか。ってことは俺達がここに陣取ってることはまだ知らないな……
(くくくっ……なら教えてやるか。既に俺達がここにいるってことをよ)
取ろうと思っていた丘が既に取られていると知った時の奴らの顔を想像すると笑いが止まらんぜ!
「迎撃しろ! 大砲をたっぷりおみまいしてやれ!」
「はっ!」
騎士が下がって間もなく、大砲が小気味よくなる音がした。
(奴らさぞかし慌てふためいているだろうな! あははは!)
それからしばらく監視を続けたが、やはり奴らに動きはない。そりゃそうだ。これはいわゆる詰みってやつだからな。
(酒でも呑むか……)
この状況なら部下に任せていても余裕だろ。全く日頃の行いの良さのおかげだな!
*
(シデン視点)
(サラの言う通りだな……)
実際に現場を目にした俺がまず思ったのはそれだった。
(あの地図を見ただけじゃ分からなかったけど、これ、ロックリザードの巣にそっくりだな)
丘にズラリと並んだ大砲、それは地面よりも日に近い丘に陣取ったロックリザード達にそっくりだ。
(……ってことは同じやり方でいいんだよな?)
ロックリザードの巣の時と同じようにやればいいってことだろうけど、あれは魔物相手の戦法だしな……
(果たして人間相手に通じるものかな……)
そんなことを考えていると、後ろから声がかかった。
「やはり止めた方が良いのでは……? シデン殿の剣の実力は比類なきものとは理解しておりますが、これはいささか無謀では?」
そう声をかけてくれたのは将軍との決闘を見た後、何かとかまってくれるようになった騎士達だ。
「シデン殿が優れた剣士であることは間違いありません。が、剣で大砲の弾は斬れません。シデン殿の勇気と将軍への忠誠心の高さは見事かと思いますが……」
どうやら俺の身の安全を心配してくれているようだ。
(まあ、勇気があるわけでも忠誠心がある訳でもないけどな……)
ただ単純にこの軍の騎士を死なせたくないと思ったのと、そのためにいつもやってたことをすればいいならやってみるかといったくらいの話だ。
「こんなのシデンにかかれば余裕だから心配要らないよ! それよりお兄ちゃん達にはやって貰いたい事があるからこっち来て!」
「え、あ、ああ」「何だろうか?」
俺に声をかけてくれた騎士達はサラに従って歩いていく。サラはその美貌と頭の良さで一部の騎士達のアイドルのようになっているのだ。
(そろそろ時間だ。やるか)
ここまで来たらやるだけだ。失敗しても俺一人がピンチになるだけ。ま、気楽にいこう!
ザッザッザッ……
俺は走るわけでもなく、急ぐわけでもなく、ただ丘を登る。しばらく登っていると……
「誰か丘を登ってきてるぞ!」
「は……一人だと!?」
何だか上の方が騒がしいな……
「丘を登るものは攻撃せよとの命令だ。大砲準備!」
おっ、いよいよ来るな!
ドッカーン! ドッカーン! ドッカーン!
遂に大砲が俺に向かって火を吹いた!
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