#31 窮地
将軍の天幕で聞かされた話は何となく俺達が予想していた通りだった。
(敵に丘を取られていて、更に大砲まで準備されている……と)
リアの言った通り、奇襲にも近いこの行軍にどうやって待ち伏せのようなことが出来たのかは不明だが、今はそれは後回しだ。
「つまり、避けたかった事態より悪い状況になった……ということですね」
「……業腹ではあるがな」
状況が書き込まれた地図を食い入るように見ながらサラが呟くと、カートレット将軍は唸るようにそう言った。
(丘を取られた上に大砲まで準備されている……厄介だな)
敵の大砲はかなりの数だ。これじゃあ、近づく前に全滅してしまうだろう。
「よく分からんが、無視して王都とやらに行けばよいじゃろ?」
のほほんとそう言うクレア。まあ、俺達の人数が少なければそうかも知れないが……
「そうすれば敵に後ろを見せることになる。丘から降りた勢いで後ろを突かれたら大きな被害が出てしまうと思います」
「……その通りだ」
サラがそう言うと、またもや将軍が唸る。が、今度のは状況の悪さに唸っただけじゃなく、サラの状況理解力……というより戦略眼に驚いた感じだな。
(ついこの間まで戦略とか聞いたことさえなかったはずなのに……やっぱり凄いな、サラは)
簡単に言えば地頭が良いんだろうな。カートレット将軍やその部下の人から聞いた話をどんどん吸収して、自分のものにしていくんだからな。
「つまり、あの丘の敵を何とかしないと前には進めんということなのじゃな……」
「そうだ。そして、我らの選択肢はさほど多くない」
将軍の副官は現段階で考えられる戦術について説明してくれた。簡単に言えば、全員で突撃、攻める方向を分けたり、時間差をつけて突撃……と言ったところか。
「……どれも被害が大きそうですね」
「この状況では仕方がない。今考えるべきなのはいかに被害を減らすかということだ」
丘を登るということは足が鈍るということ。そこに大砲が飛んでくるんだ。被害が出ない方がおかしいだろう。
「うーん、でもこの大砲の数と位置なら……」
サラがぶつぶつ言いながら何か考えている間に軍議は進んでいく。といっても、結局突撃するしかないんだから誰が行くのかと言ったことしか話し合いの余地はないんだが……
「私に先鋒を! あの邪魔な大砲を蹴散らしてやります!」
「いや、私が! 私なら砲弾が飛んでくる前に全て終わらせます!」
「俺なら奴らが大砲の準備をしている間に──」
誰が行くかだけでこんな具合に大盛りあがりだ。大砲の中に突っ込んでいく先鋒なんて危険しかないと思うんだが……
(……信頼、かな)
見ていて感じたのはこの場にいる皆がお互いを信頼しているということだ。大砲の中に突っ込んでいくなんて誰でも嫌だ。が、それを仲間に押し付けるのはもっと嫌だと考えているんだろう。
(凄いな……)
将軍の剣舞を見た時にも思ったが、ここまで信頼感に満ちている騎士団というのは凄い。そして……
(死なせたくないな……)
凄さを感じると同時に心の奥底から死なせたくない気持ちも湧き上がってくる。この騎士達がこんな場所で欠けるのは惜しい。一体どうしたら……
「よし、では先鋒は──」
目をつぶって皆の話を聞いていた将軍がそう言った瞬間、サラが手を挙げた。
「将軍、シデンならあの大砲を黙らせることが出来ます」
「「「「「「なっ!」」」」」」
ちなみに今のは俺の声も入ってる。いやいや、何をいいだしてるんだよ。大砲だぞ、サラ!
「大砲を黙らせる……まさかシデン殿お一人でか!?」
「い、いくらなんでもそれは……」
その場にいる騎士達があ然とする中──ちなみに俺も同じ気持ちだ──、サラは俺の方を見て片目をつぶった。
「ほら、シデン。これってロックリザードの卵を取りに行く時と似てない?」
ロックリザードというのは辺境にいた魔物だ。見た目は岩が生えたトカゲなんだが、この岩が飛んできたり、ヤツの身を守る鎧になったりて厄介なんだが……
(奴らは自分や卵を温めるために高い場所に巣を作ることが多い。あっ……)
ロックリザードは厄介な魔物だが、その卵は美味い。だから、取りに行く時には……
「……確かにな」
「どうする? 私の計算だとあれより大分楽だと思うけど」
“ロックリザードってあの山の王者と言われるS級の魔物のことか!?” “た、卵……嘘だろ? ロックリザードの巣に乗り込むなんてただの自殺行為だ”などと騒ぐ周りの騎士達を尻目にサラは俺の瞳を真っ直ぐに見つめてそう聞いた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
次話も頑張って書くのでよろしくお願いします!




