#28 パターン
「ルールは一本先取。先に頭、小手、胴の何れかへの有効打を打った者の勝ちとします」
剣を構えながらヘンリエッタさんが宣言する条件を聞く。まあ、ここまで来たらなるようになれ、だ!
(それにしてもあの格好で戦うんだな)
カートレット将軍は着てきた板金鎧を脱ぐ素振りがない。実戦はともかく木刀を使う決闘じゃあんまり意味ない気がするけど……
(けど、この人はこの格好で走ってきて息一つ切らさないんだ。並の相手じゃない)
話は全く分からないが、剣の腕が本物なのは間違いない。
「では、両者構えて……初め!」
まずは様子見……と思ったら将軍はあっという間に距離を詰め、次々に剣を振う!
ブン! ブン! ブン!
(早いし、鋭いっ!)
こんな攻撃続くわけがない……と思った瞬間、俺は思い出した。
(いや、この人の体力は普通じゃななかったな)
このまま攻められたら保たなくなるのは俺の方か!?
「どうした! 早く攻撃してこい」
……なるほど。つまり、俺の剣を警戒しての作戦って訳か。
(距離を詰めての連続攻撃……これなら剣を投げることも振ることも出来ないな)
中々合理的な解答だ。非常識過ぎるけど。
(関心してる場合じゃない。何とかしないと)
嵐のような剣撃。これを全て防ぐには中々骨が折れる。
ブン! ブン! ブン!
将軍の木刀は速く、そして重い。その技術の高さに感心しながら、俺はあることに気がついた。
(この攻撃……パターンがないか?)
自慢じゃないが、俺は相手の動きを読むことにはちょっと自信がある。何せ辺境にいる強い魔物と戦うには奴らの動きを読むことが必須だったからな。
(……このパターンが連続攻撃を可能にしてるんだな)
当たり前だが、ただ剣を振っても連続攻撃にはならない。何故なら二回目からは続けて振れる方向に制限が出来るからだ。それとは違う方向に振りたければ一旦剣を引くしかない。
(しかも相手も自分が振りたい方向にいてくれる訳じゃないから普通はこんなふうに自分ばかり剣を振るなんてことにはならない)
その普通じゃないことを可能にしてるのがパターン。俺の動きを制限して、将軍が剣を振りやすくする場所に居ざるを得ないように追い込むための剣の流れがある。
(……凄いな)
俺は素直に感心した。俺も色々考えながら魔物と戦ってきたが、このパターンを考えた人は俺と同じくらい……いや、もしかしたら俺以上に色々考えてこれを生み出したんだろう。
(……俺にもやれるかな)
感心した次の瞬間、俺の心に沸き起こってきたのはある意味不遜とも思える思い。だが、こんな凄いものを見せられたら誰でもやってみたくなるに決まってるだろ。
(始点は袈裟斬り。そこから……)
大事なのは流れ。それを崩さないように木刀を振る。
(よし、ここだ!)
俺はこの試合で初めて将軍に向かって木刀を振るった!
※
(リア視点)
護衛の騎士と共に将軍の元にたどり着いた私は信じられないものを目の当たりにした。
「!!! 何でシデンさんと将軍が何で戦ってるんですか!?」
あれだけシデンさんは恩人だと、凄い人だと説明したのに何で……
「カートレット将軍を追っていたのはリア様だったのかい」
ヘンリエッタさんが驚いた顔をする。“リア様”と呼ぶのは周りの目があるからだ。
「将軍が急に飛び出すので気になって……」
「予感が当たったって訳だ」
予感というか、パターンというか。
「実は……」
ヘンリエッタさんが話してくれた話を聞いて私は心底驚いた。
(何でそうなるの!?)
将軍はいつも私のことを考えてくれる……けど、時々良く分からない行動に出ることもある。今の行動とかはまさしくそうだ。
「とにかく始まっちまったら、みとどけるしかないよ」
「……確かに」
決闘は始まったら最後時止めるわけにはいかない。それはこの国では絶対のルールの一つだ。
「……シデンが押されてる?」
固唾をのんで行方を見守るヘンリエッタさんがそう呟く。確かに一見シデンさんは防戦一方だけど……
「……いえ、シデンさんは様子を見てるんだと思います」
シデンさんは自分からは手を出さず、将軍の剣を見ることに集中している。
(大丈夫……シデンさんならきっと……)
私が祈るように見つめていると、それは唐突に起こった!
ガン! ガン! ガン!
今までのように剣が空を裂く音じゃなく、木刀がぶつかり合う音。つまり……
(まさか、シデンさんも“剣舞”を!?)
将軍の繰り出している連続攻撃は“剣舞”と呼ばれるカートレット流剣術の奥義。カートレット家歴代の天才剣士が改良に改良を重ねたそれは才能に溢れた剣士でさえ習得には十年はかかるとされると聞いている。
(それをまさかこの短時間で!?)
普通ならあり得ない。けど、シデンさんなら……
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