#22 決着
ブン! ブン!
俺は次々に振るわれるドラゴンの鉤爪と尻尾の攻撃をかわし続ける。
(……って言うと聞こえはいいけどな)
実際には防戦一方だ。理由は二つ。まずはこのドラゴンの攻撃が速い上に強力すぎるのだ。一発でも食らったらアウトなのは間違いないし、かすっただけでも危ないだろう。
(でも、それ以上に問題なのはあの鱗の硬さだな)
さらに剣の強度もネックだ。借りているヘンリエッタさんの剣は鋼鉄製だから俺の持っていた銅の剣よりは頑丈なのは間違いないが……
(それでも鱗や角を何度も斬るのは厳しいだろうな……)
ヘンリエッタさんには申し訳ないが、いくら俺の剣より頑丈と言ってもドラゴンの前では大した違いはないだろうしな。
(なら、一撃に全てをかけるしかない)
つまり、攻撃できるのは一回だけ。これが俺が攻めあぐねている最大の理由だ。
“どうしたのじゃ? 打つ手なしか、勇者よ”
うん、確かにないな。少なくとも今は。
”妾相手に良くここまで戦った。だが、これで最後じゃ!“
!!!
(何だ? マナが……)
マナの動きが急に……これは魔法か!?
“〈バーストエンド〉”
グググッ!
魔力が集まり、膨張して術者の理想の世界を創り出そうとする。魔法が使えない俺にはどんな世界が広がるのかは分からない。が、直感的に何が起こるのかを理解した。
(ヤバい! もう逃げ場がないぞ!)
ブレス以上の広範囲攻撃……ただでさえヤバいのに、崖の近くに追いやられていて逃げ場自体がもうないのだ。
(あるとすれば上……)
だが、十中八九それが奴の狙いだ。何故なら空中では俺は身動きが出来ないが、翼がある奴は違う。つまり、今までの攻撃は俺を空へと追い込むためのものなのだろう。
(……待てよ)
起死回生……というより一か八かだが、このアイデアにかけるしかない!
ダッ!
俺がジャンプするのと同時にドラゴンの魔法が完成する。地面を焼く熱は想像以上で、吹き付ける風で肌が焼けそうな位だ。
”飛んだな! これで終──うッ!“
俺を見つけたドラゴンの瞳を陽の光が指す。太陽を背にして空中に逃げたから、俺を追えば必然的に太陽を直視することになるんだ!
「食らえっ!」
落下のスピードと俺の体重、そして俺の力を加えた最高の一撃……それは狙い通り奴の角に当たり……
ズザン!
これ以上ない手応え。そして……
ピシッ……ピシピシ……パリーン!
硬質な音を立ててドラゴンの角が割れて地面に落ちる。お、折れた……
(こっちは無事か)
借りた剣は折れてない。ふぅ〜 良かった。
“……見事だ、勇者よ”
ドラゴンの声だ。
”約束通り、妾はそなたに従おう“
そう言うと、ドラゴンは俺の元で丸くなる。が、ちょっと待て。どうしたら良いんだ、これ!?
※
ドラゴンが大人しくなった後、俺はサラ達を呼び、事の顛末を説明した。
(おとぎ話では龍殺しの話とかあるけどな……)
実際倒した後にも頭を抱えなきゃいけないというのはどう言うことか。
(まあ、ついてくると言うなら仕方がないが……)
まず困ったのが、どうやって連れて行くかだ。こんなデカいドラゴンが後ろからのっしのっしと付いてきたら目立って仕方ない。が、これはドラゴンの方から意外な解決方法が出てきた。
”人化などお手のものじゃ“
ボン!
何とドラゴンは一瞬で人の姿──二十代くらいの美女──に変わった!
(ドラゴンって人の姿になれるんだ……)
人の姿になるのは魔法の一種らしいからドラゴンの中でも特別な個体にしか出来ないらしいけど。
(これで一応一件落着かと思ったんだけど……)
実際には一難去ってまた一難だった。というのも……
「人の姿になるのは久しぶりじゃ! こうして主とノロノロ歩くのも悪くはないの!」
まあ、空飛ぶよりはゆっくりだろうけど……ってそこが問題じゃなくて!
「おい、くっつきすぎだ。もっと離れてくれ」
クレア──これはドラゴンの名前だ───は何故か俺との距離が異常に近いのだ。具体的には俺の腕を取りこれでもかというくらい体を密着させている。
むにゅ……
柔らかな感触が腕にあるのは気のせいではない。悪い気はしないのだが、問題は周りの視線だ。
「そうか? こんなもんじゃろ」
「いや、近すぎるから!」
どんどん冷たくなっていく周りの視線──特にサラとリアからの視線は特別だ──に耐えながら、俺はダラク山脈を越えるべく心を無にしてひたすら歩いた。
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