#15 準備
「これが見取り図だ。で、巡回のスケジュールが……」
翌朝、ヘンリエッタさん達と作戦会議を始めると、流石というか何と言うか、詳しい情報がこれでもかと言わんばかりに出てきた。
(この人……凄いな)
人をまとめる力のある人だと思っていたが、人を使うための戦略的な視野もある人をだ。剣を振るうことしか頭にない俺とは違うなぁ……
「作戦は単純だ。敵を引き付けてるうちに中を占拠する。中の構造は大体分かってるからね。だけど、問題は引き付け役だ」
ヘンリエッタさんはそこで渋い顔をした。
「奴らは数が多いし、腕もそれなり。私達全員でも押さえられるかどうか……」
かといって全員出たら中を制圧出来ない。内と外、その人数配分が戦略の要に──
「正面は私達──というよりシデンがいれば大丈夫です。皆さんは内部の制圧に専念して下さい」
って、サラ!?
「助かるけど大丈夫かい? 施設の兵士は五十人は下らないはずだ。勿論シデンの腕なら出来ないとは思わないが……」
五十人!? 俺にはちょっと荷が重くないか、サラ!
「大丈夫です! シデン、クロムアントの巣を潰すみたいなもんだよ」
前半はヘンリエッタさん、後半は俺に向けた言葉だ。
(クロムアントの巣……そんな感じでいいのか)
クロムアントというのは辺境にいたアリ型の魔物だ。大きさは馬くらいなんだが、殻が硬い上に数が多いのが厄介なんだが……
(動きまくってなるべく一対一に持ち込めばラクなんだよな)
一度に複数を相手にするのは難しいからな。この攻略法に気づいてからは大分ラクになったもんだ。
「クロムアント……あのSランクの魔物か? 聞き違いだよな?」
「ていうか、さっき“巣を潰す”って言わなかったか? そんなの国家レベルの武力がいるんじゃ……」
ヘンリエッタさんの仲間がヒソヒソ話してるが、どうしたんだろう? そもそもランクってなんだ?
「やってくれるなら有り難い。なるべく負担をかけないように手早く制圧するよ」
ヘンリエッタさんが期待してるのら陽動と時間稼ぎみたいだ。なら、まあ何とかなるか。
「私達の土地なんだ! 助っ人だよりじゃいられないよ! 気合いをいれな!」
「「「「「おう!」」」」」
耐えに耐えて迎えた奪還作戦だけに皆の士気は高い。こりゃよほどマズい敵が出てこない限り上手く行きそうだな。
※
“私達は制圧の段取りと武具の準備をするよから休んでおいて”
とヘンリエッタさんに言われて、俺は日課の素振りをしようと思って外に出たんたが……
「胸を貸して貰えませんか、シデンさん」
何故か俺についてきたリアがこんなことを言い出したのだ。
「や、俺にはリアみたいにちゃんと習った訳じゃないし……」
リアの剣を見たのは一度だけ。だが、その太刀筋はみっちり稽古を積んだ人のそれ。俺みたいな我流混じりのものとは違う。
(何せ習ってた期間より好き勝手にしていた時間の方が長いもんな)
そりゃ、型も崩れるってもんだ。
「シデンさんの方がはるかに強いことは分かってます。だから、今の自分に何が足りないのかを見極めたいんです!」
リアは真剣だ。真剣に力をつけなければいけないと思ってる。
(……断れない、か)
リアは強い。でも、この先それでは足りなくなることもあるだろう。それが分かってるんだ、彼女は。
「分かった。じゃあ、訓練用の木刀を借りてくるよ」
そうして、そのまま試合を始めたのだが……
ザン!
「くっ、もう一本お願いします!」
ザン!
「あっ! まだまだ!」
ザン!
「っ! もう一本、もう一本だけ!」
:
:
こんな具合で十試合。リアはまだまだやる気だが、流石にこれ以上は……
「……ここまでにしようか」
「すみません、つい。これから戦うんですからやり過ぎは駄目ですよね」
まあ、俺は十回剣を振ってただけだから、大したことはない。けど、リアは肩で息をするほど疲れてるしな……流石にもう駄目だろ。
「流石です。シデンさん! 私、一太刀どころか最初の一撃を躱すことも出来ませんでした」
まあ、結果だけを見れば確かにそうだが、やはりリアは凄い。俺の剣をよく見ていて、同じタイミング、同じ速度では打たせないように工夫しているのだ。
そんなことを伝えると、リアは驚いた顔をした。
「……そりゃ! でも、それだけじゃ」
恐らくリアの脳裏には兵士達に囲まれて何も出来なかった時のことが頭にあるのだろう。
(三人の剣士と銃を持った素人一人……そこから何とかするなんて普通無理だけどな)
リアはむしろ凄いほうだ。その状況で反撃出来たんだから。
「シデンさん……不躾で申し訳ないんですが、何かアドバイスを頂けませんか? 私、もっと強くならなきゃいけないんです!」
もっと強く……か
俺にとってそれはもっと楽しいものだった。家で剣を習っていた時も、辺境で魔物と戦ってきた時も。
(出来ることが増えること、分からなかったことが分かるようになるのが単純に楽しかった……)
けど、リアは違う。今まではどうか知らないが、今は何と言うか、強くなることを強いられている。それが駄目とは言わないが……
「そうだな。じゃあ、一つだけ……」
俺の言葉にリアは驚きのあまり瞳を見開いた。
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