卒の消去
これからの陽玄たち……。
「これからどうするつもりだ?」という空兎の問いに、貴狼は――
「これから玉蓮藩側との昼食に臨み、それが済んだら畔河(玉蓮から南に位置する都市)に戻ってそこで一泊。一泊したら、丘幸へ向かい、今上陛下には丘幸で凱旋してもらう予定です!」と答えていく。
「で、俺達は何をすればいい?」
「我らの尽子に戻って頂きたいのです!
丘幸での凱旋が済んだら、すぐ尽子に戻りますので……それまでに尽子の警備に協力してくれれば幸いかと……」
「軍用小型トラックを隠したら、すぐに尽子へ向かう!」と言い残して、貴狼とのやり取りを終えた空兎は軍用小型トラックの荷台に素早く乗り込むと――
「出せ!」と運転手に命令!そして小型トラック《それ》はどこかへ去っていった……。
「我らも歩兵戦闘車を隠して、尽子に戻る!
尽子で待っておるぞ……!」と青月もそう言い残して、自身の彩艶達ごと乗せた歩兵戦闘車ごと――どこかへ去っていった……。
そして陽玄ら一行も、玉蓮藩側との昼食会、畔河へ戻る、畔河で一泊という順に、本日の予定をこなしていく……。
世歴八百四年四月二十三日 午後五時頃 卒 丘幸 宮殿
丘幸に乗り込んで凱旋をした後、丘幸の宮殿で陽玄らは卒の残党政権から降伏の“証”を受け取る予定!その証とは卒王朝の玉璽!玉璽を受け取り、保持することで卒の残党は存在意義を失って――消滅!後顧の憂いを消すことができる!
これで正式に――卒の臣民や官僚達を尽のものにできる!
とはいえその卒の残党政権の全高官も、貴狼の手下である長目に組している者!卒王朝の復興なぞ頭になく、あるのは卒王朝の消去のみ!中には塔氏(釣幻の一族)の横暴を見かねて、途中から加わった者もいる!
それに卒の復興に関する全ての要因は……昨日の内に消去されている!
玉璽を陽玄に手渡す者は――俊雄の妃であった恭帝(王朝の最後とされる君主に贈られる諡号)!現在彼女は玉璽を陽玄に譲るという目手のためだけに、長目らに擁立されて卒の“皇帝”という位に就いている!
彼女と俊雄の仲は、彼の一族ごと冷え切っていたらしく――彼女は即位と同時に、自身の義父にして先帝である釣幻に『煬武皇帝』と!そして自身の夫にして皇帝すらなれなかった皇太子である俊雄に『煬文皇帝』と諡した!
一見すると、釣幻と俊雄を敬っているようにも思える。
しかし『煬』という貶字を二人の先帝に贈っている以上、恭帝とその二人との関係が決して良い仲ではないということが、誰の目にも明らかになる!
何しろ、この『煬』という貶字は“天に逆らい、民を虐げる”という意味!
釣幻に贈られた『武』と俊雄に贈られた『文』という字に関してはお情け!
まぁ実際に、釣幻は戦に強く、俊雄は統治能力が高かったが……。
ちなみに恭帝自身に至っては、自らに『恭皇帝』と諡していた!このことから、前々から卒王朝を滅ぼす気は満々であるようだ……。
それから卒王朝の玉璽が陽玄の手に渡される時が来た……。
「……」
恭帝は無言で陽玄に卒王朝の玉璽を手渡し、一礼すると宮殿からどこかへ去っていった。
彼女自身は――二度とこの宮殿には足を踏み入れないつもりである……。
一方、玉璽を手渡された陽玄は玉璽を天高く掲げてみせる!
すると、「我が皇帝!! 万歳!!」と長目が嬉々として唱えると、旧卒の官僚達も――
「万歳!! 万歳!! 万々ざーいっ!!」と諸手を挙げた!
さらに宮殿に招かれた旧卒の民達も一斉に嬉々として――
「万歳!! 万歳!! 万々ざーいっ!!」と諸手を挙げる!
ようやく……あの釣幻の時代が終わったのだ!喜ばれずにはいられない!
こうして……この世界の歴史から――佞邪帝国卒王朝は完全に消滅した!
さらに同日――須座国の女王が尽王朝への臣従を表明した!
「お初に御目にかかります!私が須座国の王――氏が『琴』、名は『砂』、字が『対萌』と申すものです!」と陽玄に畏まって自己紹介する対萌!
真藤が前にいた平成の日本の基準で――中学生並に幼く見える彼女だが、実年齢は百歳も超えていると言われるほど長生きしている……。だが、こうも陽玄と向かい合っていては、弟の王様ごっこにつきあっている姉に見えて仕方ない……。
「予が尽の皇帝である――氏が『零』、名は『魂』、字が『陽玄』という者だ!以後……予の臣下としてよろしく頼むぞ!」
「……」
陽玄が対萌に対して御言葉を返している間に、貴狼は対萌の傍らに控えている虚綻に目で合図を送る!
「……」
静かに肯いて反応する虚綻!後は機が熟するのを待つのみ……。
次回予告:喜ぶ暇がない……陽玄ら!




