一君
ドミノ倒しのように斃れていく卒兵ども!
こうして弓兵隊が消滅したその時――俊雄が騎乗できない騎兵隊を連れてきた!
丁度いいタイミングである!もちろん――卒軍にとって悪い意味で……。
何せ、卒の弓兵隊を皆殺しにした物体がまだこの戦場にいるのだから……。
「な……なんだあれは……!」と馬上で狼狽えてしまう俊雄!
その視界には、槍兵隊全員と弓兵隊全員の肉塊!
これらの肉塊……俊雄が藩主へ挨拶している間に造られた物だとは到底信じることができない!しかし今も戦場に居座っている――箱状の謎の物体を視界に捉えた時!槍兵隊と弓兵隊が消滅した事実を受け入れる……。
俊雄はその物体を知っている!歴史の書物で読んだことがある!
――あれは……はるか昔の“大戦”で使われた兵器か!? とそれでも内心で動揺する俊雄!
何せその物体は……とうにこの世ないはずなのだから……!
だからといって今の俊雄に歴史を紐解く時間なぞあるはずがない!
そんな時間は「――退けええええええっ!」と撤退命令をすることに有効に使う!
ついでに唯一残った俊雄の馬で逃げることにも……!
「で……殿下!?」と突然の撤退命令に戸惑う騎兵隊の隊長!
ちなみに部下達は隊長を差し置いて全力で俊雄と共に逃げている!
そんな部下達に「おいっ!」とか言っている間に、この場にいる謎の物体こと……歩兵戦闘車の機関砲に「ダダダダダダダダダッ!」と撃たれて――
「ぷきゃっ!」と小さく悲鳴を上げて肉塊と化す!周りの部下ごと……!
「各小隊散れ!いずれ丘幸で落ち合おうぞ!」
この俊雄の命令の下、騎兵隊の残っている四個小隊はそれぞれの小隊ごとに別れる!
しかし、その内の一個小隊は機関砲を発射し続ける歩兵戦闘車に追われている!
ちなみにこの歩兵戦闘車の車長は――月道の父である青月だったりする!
それから別の一個小隊は……槍兵隊を殲滅させた小型トラックに追われ始める!
もちろん……小型トラックの荷台にいる機銃手に撃たれながら……!
尤も、重機関銃の威力に生き残れそうにないが……!
それからまた別の一個小隊は……「藩主にお目通り願いたい!」と玉蓮藩の政庁内へと逃げ込もうとしている!玉蓮藩側に匿ってもらって、あの謎の物体の魔の手から逃れて後で、丘幸へ帰ろうとする魂胆である!
そんな考えの下、政庁の門を叩けば――その門は「ギギギッ!」開けられ始まる!
――これで俺達は助かる!とその小隊の全員が思った!
そんな小隊を迎えたのは――もちろん、玉蓮藩の弓兵!
ただし矢を小隊に向けた戦闘態勢を取っているままでだが……!
「……!」
小隊に矢が向けられていると認識した時には――時すでに遅し!
「がああああああぁっ!!」
二百にも上る矢を受けた小隊は……忽ち断末魔の悲鳴を上げて肉塊と化す!運よく肉塊にならずに済んで、その場を逃げた卒兵達もその付近に潜んでいた玉蓮藩兵に追撃される羽目になる……!
最後に俊雄が直率する小隊に至っては、真っ直ぐに丘幸へ帰還する経路に入っていた!そこで出会ったのが――陽玄らではないか!もちろん貴狼もいる!
「貴様……貴狼か!?」と思わず視線上の貴狼に声をかけてしまう俊雄!
これに貴狼は――してやった!とほくそ笑みながら「左様……!」と答えてくれる!
「貴様……!! 己の主(釣幻)を裏切る気か!?」
「何を戯けたことを……今の我が主は――こちらに御座す太聖高皇帝陛下(陽玄)ただ一人!二君に仕えた覚えはありませんな!
それでもまぁ……“卒の一君”は利用させてもらいましたが……!」
この貴狼の答えに、俊雄は「ぬうううううっ!」と悔しがって歯ぎしりするのみ!
――謀られたか……!と俊雄が思うのも当然だが、そんな時間はない!
「将軍殿下!ここは我らが引き受けます!」
「殿下だけでも別の道で丘幸へお戻りください!」
「是非、丘幸で――捲土重来(敗れたり失敗したりした者が勢いを盛り返すこと)の機会をお待ちください!」
「我らの足では、ご騎乗中の殿下の足手まといになるだけです!
されど……殿下の盾となってごらんに入れます!」
以上の四人全ての分隊長に正気を取り戻した俊雄!俊雄は「頼むぞ!」という声だけをこの場に残して、先まで来た道を引き返していく!
「既に塔秀(俊雄の氏名)は逃げられん!先に卒の残存部隊を片付けろ!」という貴狼の号令の下――尽の弓兵隊は、俊雄を逃がすためにこの場に踏みとどまった四個分隊(計四十人規模)を総攻撃!
結果――その四個分隊はすぐに討たれた!一人の生存者を出すことなく……。
次回予告:あきらめない――俊雄!




