悲報
踏んだり蹴ったりの卒軍……!!
世歴八百四年四月二十一日 午後十時頃 玉蓮藩 玉蓮 政庁
「こんな形で世子と飲むことになるとはな……」と猪口で酒を飲む俊雄!
玉蓮に着くまで挟んだ休憩は最小限!既に疲れ切っている……!
そんな俊雄の目の前には、玉蓮藩の世子(次期藩主)である幼馴染みの男性。
「こっちも皇太子殿下が直々に救援に来てくださるとは思ってもみなかったよ!」
男性の氏は『房』、名が『穏』、字は『夢歩』という者!眼鏡をかけた物静かで優しい世子である!
戦いの後か、その笑顔がどこかやつれ切っている……!
「それで……尽軍の動向は?援軍が来たときにはいなかったが?」
「救援が来ることを知っていたのか……尻尾を巻いて逃げ出したよ!とはいえ玉蓮藩の被害も大きいけどね……」俊雄の問いに、笑って答える夢歩!
しかし夢歩の言うとおり、既に玉蓮藩の兵力は元々の“千”から“六百”と激減!
それ故に先の笑いはどうしても乾いたものになってしまう……。
そんな幼馴染みの内心を察した俊雄は、自信満々に――
「少しの間だけだが、衛団は玉蓮藩に留まる!
さすれば尽軍も容易に玉蓮藩を攻めんだろう!」と宣言してみせた!
これに夢歩は穏やかな笑みを浮かべて「頼もしい……!」と応じてみせた……!
こうして卒の衛団(親衛隊)が、玉蓮藩に駐留して間もない頃の同日の十一時!
尽の衛団が、すやすやと寝ている卒兵達が集まっている野戦陣を急襲!
「先に武器庫を襲え!卒兵を戦わせるな!」という貴狼の指揮の下、衛団の主力部隊は卒の武器庫を急襲しては、次々と無力になった卒兵を降らせた!
「散らばるな!戦え!」と酔いから醒めた俊雄が発した命令も虚しく……十一時半頃に急いで引き揚げていく貴狼らに、傷の一つさえつけられなかった!
そして、この奇襲は悲劇は卒軍の悲劇の始まりに過ぎなかった……!
貴狼らが去って五分ぐらい経った、卒軍の本陣内の天幕で――
「何っ!? 歩兵隊と工兵がまるごと消えただと!?」と驚き叫ぶ俊雄!
「どうやら、両隊とも武器庫を襲撃されて戦えなくなったところを尽軍に促され、両隊長ごと尽に降ったらしいのです……!」と衛団の槍兵隊の隊長!
そんな隊長に同団の騎兵隊の隊長が「何故、裏切り者をみすみす逃した!?」と責め立てる!自分は貴狼らの襲撃時に、酔ったまま寝ていたというのに……。
「尽兵らが裏切り者の投降を支援していたのです!
この暗闇で尽の騎兵がどこからともなく卒兵を斬り付け、尽の弓兵の位置ごと特定できない以上、深追いは極めて無謀です……!」
この槍兵隊の隊長の弁解に、騎兵隊の隊長は「ちぃっ!」と追及を諦めると――
「殿下、我が騎兵に追撃命令を!! 裏切り者共に鉄槌を与えます!!」と俊雄に進言する!
しかし当の俊雄は「もう遅い……!」とその進言を斥けて――
「とにかく兵に交代で見張らせて警戒を厳にせよ!」と衛団に号令をかける!
そして「御意!!」と幕僚達や隊長達が一斉に俊雄の号令に応じた!
すると彼ら全員、瞬く間に己の職務を果たすべく天幕を辞していった!
そうして只一人、俊雄だけが天幕に残った!
そんな俊雄はぐったりと椅子に座り「ふーっ……!」と深いため息を吐き――
「くそ……!これでは衛団の疲れがとれん……!」と不満を述べた……。
玉蓮について俊雄らは陸に休憩は取っていない……!
先程襲撃されたにも関わらず、幸いなことに兵糧にほとんど被害がなかった!
しかし真面に休憩が取れないでは、どこまで陸に戦えるか……。
世歴八百四年四月二十二日 午前七時頃 玉蓮藩 玉蓮 政庁
昨日の夜から、尽の安眠できなかった卒の残存部隊。
その指揮官の俊雄も必要最低限の仮眠を取っただけ!
そんな俊雄の下に更なる悲報が届いていた……!
「何っ!?『須座国は既に卒を裏切って尽に手を貸していた!!』だと!?」
普段は冷静な俊雄がここまで驚き叫んで訊き返すのは珍しい!
何せ卒の諸侯である須座国が尽と共謀して反逆してきたのだ!
これを伝えてくれたのは、釣幻と懇意にしている商人!
「はい……!昨日の夜に須座(須座国の首都)へたどり着いた丞相閣下(清乾)は敵の罠により、敵の手中に落ちました! それから瞬く間に、丞相閣下の指揮を受けられなくなった中団の全将兵は……一斉に敵に降りました……!」
この商人の捕捉を聴いた俊雄は……ただ怒りではなく焦りの感情から――
「急ぎ撤退――いや、転進の支度をせよ!直ちに丘幸に戻るのだ!」と早急に残存部隊に号令をかけた!もう玉蓮には構ってられない!
次回予告:ますます踏んだり蹴ったりされる卒軍……!!




