独立
卒からの卒業!式はないけどね!
「南部諸侯共がっ!! 朕への恩を――仇で返しおって!!」
猛り狂って、壁に向かって猪口を力の限り投げつける釣幻!勢いよく壁にぶつけられた猪口は当然――粉々に砕け散った……!
卒帝を戴く諸侯が“皇帝”を僭称する!これはすなわち――卒からの独立!しかも独立許可証なしで……。
ちなみに釣幻が南部諸侯に施した恩といえば、全諸侯の易姓革命を承認したことだけ。その代償が重税や大国との戦では、割に合わない……。
「丞相(宰相)!貴様が南部諸侯共に懲罰を加えてくるのだ!」
釣幻に指名された清乾は「陛下の仰せのままに!」と畏まって応える!
これに俊雄が「それで……丞相にどの諸侯国を攻めさせるのですか!?」と釣幻に訊いてみれば、「“須座国”だ!」という答えが返ってくる!
「……!」
釣幻の意外な答えに、動揺を隠せない一同!衛兵の目も丸い!
「陛下!! 私が拝見したどの書状にも須座国の書状は入っていませんが!?」
驚いたままの俊雄が訊き返すと、釣幻は嬉々として――
「今の須座国は南部諸侯共の補給源である!
本来なら朕の書状の一つで南部諸侯共への支援を止めてやりたい!
しかし須座国は南部諸侯共の報復を恐れ、補給は止めんだろう!
そこで卒が武力で侵攻――いや、“保護”してやるという訳だ!
さすれば須座国は歓喜を上げて、南部諸侯共への支援を止めよう!」と答える!
しかも途中で出た本音が、須座への野心を表わしている……。
「須座国へ兵を派遣するのは理に適っております!
しかし卒は尽との戦の最中で、その尽には目立った被害を受けた様子がありません!この状況下で須座へ向かうのは無謀であります!」
この清乾の反論に、「何も問題はない!」と余裕の笑みを返す釣幻。
この釣幻の笑みに違和感を覚えた俊雄が――
「何か秘策がおありなのですか?」と訊いてみることにする!
すると釣幻は数秒考えて「……そろそろ教えてやるか」と口を開けば――
「尽の摂政の貴狼!あいつは朕の同志ぞ!」と誇らしげに暴露!
これを聞いた俊雄は「それは真ですか!?」と訊き返してしまう!
「「……!!」」
同じく暴露を聴いた清乾と長目に至っては声を出せない!
衛兵達も同様で、その中の一人は握っていた槍を、手から離しそうになってしまう!
「貴狼は朕が長王朝に仕えていた頃の密偵でな!その時から朕は貴狼を末帝(鈔狼)の下に潜らせ――今は尽帝(陽玄)の下に潜っておる!
流石に今の尽帝の一族の力は強く、昔に鈔狼に仕えていた頃のように情報は流してこん!だがそれでも――尽内では“一の権力者”だ!
ある程度は卒の意を酌んで、尽を動かすはずだ!」と釣幻は――既に勝った!と言わんばかりに、自身の臣下一同に語ってみせた!
こうして夜が更けて――翌日の同年四月二十一日の午前六時頃の丘幸。
丘幸の宮殿内に一人の使者がやってきた!玉蓮藩からの……。
しかも「直ちに皇帝陛下に、我が君の書状をお届けしたい!」と焦りに焦って……!
それからさらに一時間後の午前七時頃の丘幸の玉座の間で、釣幻は不機嫌そうに玉座に座ったまま――「先程、重大な知らせが入った!」と配下の全将に告げる!
その片手には『重大な知らせ』らしき書状が握られている……!
「一体……その書状には何が書かれているのですか、大将軍陛下!?」と長目が問うと――
「玉蓮藩が尽の侵攻を受けておるとの知らせだ!」と釣幻は答えた!
これに驚いた俊雄が「もしやその書状は玉蓮藩からの救援の要請では!?」と訊くと――
「その通りだ!玉蓮藩曰く、『我が玉蓮が敵の手に落ちるのは時間の問題!』らしい……!」と深刻な面持ちで答えてみせる!
俊雄は慌てて「陛下!直ちに玉蓮藩を救援すべきです!」と奏上してみせる!
玉蓮藩の摂政である世子(後継ぎ)は俊雄の幼馴染みである!それ故に、『玉蓮藩救援』の本来の目的は卒の防衛でもあるが、幼馴染みを救うためでもあった!
「よかろう、ただし救援の兵は一個団(一個連隊規模)だけぞ!! できるか!?」と俊雄に自身の程を訊いてみる釣幻!玉蓮藩の藩主と釣幻も幼馴染みの間柄!
それ故に当の皇帝も、玉蓮藩への救援には積極的である!
「尽の“撃滅”には不足しています!ですが“撃退”には十分です!」と俊雄の答えを聴いた釣幻は「では“大将軍”として命じる!」と宣言すると――
「衛団は玉蓮藩の救援に行け!」と俊雄に命令!
そして中団の校尉(指揮官)である清乾にも「中団は須座国へ征き、南部諸侯共への支援を止めてくるのだ!」という命令を下してみせた!
次回予告:玉蓮藩の救援に向かう俊雄!




