大将軍
ミリオタたるもの一度は成ってみないのが――『大将軍』!!かもしれない……。
「陛下……仮にあの苦風が『過穀』を落としたとして、尽子まで攻めず過穀に居座り続けたらどうします?」と続いて長目が挙手。
「やつらは尽の一団を囮でもある!過穀に留まるならばそれでよい!
放っておけ!」と釣幻はまだ怒りが収まらないまま返答してみせた!
そんな釣幻に、再度俊雄が――
「陛下……仮に苦風が『過穀』に居座ったとして、尽軍が過穀へ兵を向かわせず、衛団と中団の方に兵を差し向けた時は?」と問いかける。
すると釣幻は先までのイライラを何処かへ片づけたかのように――
「はははははっ!とうにその場合も考えておるわ!」と笑い出す。
これにその場に居合わせている摂政、宰相格二人は不気味さを感じてしまう……。
「陛下……その場合はどうなさるおつもりで!?」と恐る恐る清乾が、まだ「ははははっ!」と笑っている釣幻に尋ねると、当の釣幻はドヤ顔で――
「簡単なこと!! 玉蓮藩の兵を使って、尽軍の背後を脅かすのだ!!」と答える!
「しかし、先程玉連藩は今次の尽征伐には参加せぬと――」
「これは秘策だからな!その場合になる直前まで玉連藩には軍令を下さぬつもりだ!」と驚く清乾の言を、釣幻は再度のドヤ顔で――遮る!
「しかし玉連藩の兵で背後を脅かしても、一戦するには――」
「玉連藩軍の勝敗や兵力の増減なぞどうでもよい!
玉連藩軍が尽軍背後を脅かせば、衛団と中団と挟撃できる体制が執れる!尽軍は尽子との連絡がとれず、孤立したことに恐怖を覚え――必ずや玉連藩軍に向かって転進する!
その時こそ――衛団と中団が転進する尽軍の背後を一気に突いて進撃するのだ!できるならば尽子ごと滅して構わんぞ!」
驚く俊雄の言も遮って、ますます上機嫌になる――釣幻!
こんな釣幻の機嫌のよさにほっとした俊雄は――
「策の方は理解できました!しかし、一気に尽軍の尽子を攻めるとなると、尽子までの早急な補給路の確立が必要ですが……」と釣幻に尋ねてみることにする。攻めたはいいものの、その結果――補給路が伸びて細ったところで自軍が弱体化し、そこを敵に反撃されるのはどうしても避けたい!
「はははははっ、俊雄!そういえば、お前は昔から戯れが通じなかったな!」
「……!?」
釣幻に笑われて、不意を突かれてしまって唖然とする――俊雄。
釣幻はそんな俊雄を尻目に――
「何も“必ずし”も尽軍を尽子ごと滅せよ!とは言っておらん!
この策の趣旨は、尽軍の兵力を漸減することにある!
それも半数をな!」と持論を展開してみせる!
まだ唖然とする俊雄に代わって、長目が釣幻に――
「尽軍の兵力を漸減させてどうするのです?」と訊いてみる。
これに先の持論を展開した当の釣幻は――
「とりあえずは――尽軍との和睦だ!」と言ってみせた!
するとこれに「なるほど……」と何かを閃いた長目が――
「陛下は尽の北の隣国の“緑”と、尽の東の隣国の“碩”の反応を気にしておられるのですな……!」と釣幻に正解を言ってみせた!
「その通りだ!下手に尽の尽子を攻めれば、手痛い抵抗を覚悟せねばならん!それで漁夫の利を両国が得るのは――我慢ならん!
しかしだからといって、両国を同時に相手する余力は――今の卒にはない……。
そこで先ずは尽を弱らせ、両国との緩衝国とするのだ!
その尽が両国の蓋となっていられる間に、我ら卒が力を蓄えておくわけだ!」今後の方針を自信満々で述べていく釣幻に、長目が――
「陛下の御意向は分かりました。それで……尽征伐の“大将軍”は何方が担うのでしょうか……?やはり、摂政殿下で?」と尋ねてみる。
この世界では一国への兵を差し向ける際は、そのための指揮官を任ずるのが慣わし!
特にその兵力が自軍の内の比率を大きい占める軍勢だと“大将軍”が指揮官!
「この朕が“大将軍”を兼ねる!朕が直々に征伐の指揮を執るのだ!
丘幸からな!」と釣幻は新聞を持っていた手を瞬く間に、自身の腰に差していた剣を抜いて――その刃の輝きを宮殿に解き放った!
これに長目は驚きつつも、「では……尽との直接の戦闘の指揮をお執りになるのは、摂政殿下で?」と釣幻に尋ねる。指揮官を決めるは――重要事項!
すると釣幻は抜いた剣を差し直しつつ「その通りだが……そうだな!」と思いつき――
「では――俊雄!お前を尽征伐の“将軍”に任じる!将軍用の剣は後で授ける!」
このように将軍に任じられた俊雄はどこか不満を持ちつつも――
「陛下の仰せのままに……!」と素直に受け止めてその不満を押し隠した……。
尽への征伐開始!?




