尽王朝
いよいよ皇帝へ!!
世歴八百四年四月十八日 午前八時頃 京賀国尽子 受禅台
「世歴八百四年四月十八日!長の道衰え、大乱混迷す!
されども汝――京賀王!朝廷を救い、徳を輝かし、文武の大業を成す!
天の暦数――汝の身にあり!よって……天命を受けよ!皇帝――“魂(陽玄)”!」と受禅台の頂点で詔書を読み上げる鈔狼!
彼は今……子木長の“末帝”として最後の御仕事をしている真っ最中!
しかも前後に皇帝の証である――冕板の前後に十二もの旒(宝玉を糸で貫いて垂らした飾り)、計二十四の旒を垂らしたの冕冠を着用して……!
本日――京賀国の尽子では陽玄の即位式が行われていた!
そんな陽玄の一世一代の式典に関わらず、式自体は急ごしらえと予算節約のためと、陽玄自身の意向により、あまり華やかな式典とは言い難い……。
しかしそれでも――集まる人だけは多かった!何せ尽子の民達だけでなく、京賀国中の民達がこの式を一目見ようと集まってきているのだ!
結果、尽子の今人口は――元々の三万人から四万人程度まで膨れ上がっている……!
そして――尽子そのものはお祭り雰囲気に包まれている……!
詔書を読み上げた鈔狼は詔書を自身の侍従に手渡すと、別の侍従から長王朝に伝わる“玉璽”を受け取る。玉璽とは皇帝の為の“印章”!これを手に取った者だけが、“皇帝”を公称できる!そして譲位や禅譲する時には――玉璽を新帝に譲るのである!
そして鈔狼が笑みを浮かべて――陽玄に玉璽を手渡した!
この瞬間――“子木”氏の“長”王朝から“零氏”の“尽”王朝が誕生した!
この時の陽玄――帝位に就く以上はもちろん冕冠を着用している!
無論、冕冠の冕板の前後にも十二の旒、計二十四の旒が垂れている!
玉璽を受け取った陽玄は、すぐに傍に控えていた秘書の紫狼に手渡すと――
「予は天意を受け――帝位に就く!即日――国号(王朝名)を“尽”と号す!
同時に我が御先祖――“始皇帝”に“始霊太行皇帝”と!
同じく――“東武帝”に“太霊武行皇帝”と!
同じく――“西文帝”に“高霊文行皇帝”と!
同じく――“廃殤子”に“世霊高行皇帝”と!
そして予自らに……“太聖高皇帝”と――それぞれ……諡す!」と勅語を発してみせた!
これに摂政の貴狼を頂点に戴く、尽王朝の行政府の官吏達の皆々が――
「畏まりました!高皇帝陛下……!」と深々と頭を下げる!
さらに帝位を譲ったばかりの鈔狼とその一族や、陽玄の父母兄弟といった近親者達や親戚の者達も「畏まりました……!」と深々と頭を下げている!
例え親族でも皇帝陛下への礼儀を欠いてはいけないのである!
「次に……帝位を譲りし翠(鈔狼の名)に――“祖宗義皇帝”と諡す!」と陽玄の次の勅語!これを鈔狼は頭を下げたまま「御意!」と笑みで受け入れる!
「そして……予の母――思(照泉の名)に“光聖慈皇帝”と!
予の父――音(月道の名)に“高祖報皇帝”とそれぞれ……諡す!」と続く陽玄の勅語!これに合わせて宮宰(侍従長)時狼が、それぞれ冕冠を運んで来た二人の侍従達を引き連れてきた!運ばれた冕冠はもちろん――今の陽玄と鈔狼が着用している冕冠と同じ型……すなわち皇帝用である!
「「……!!」」
運ばれてきた冕冠を目にして絶句してしまう照泉と月道!二人の目も丸くなる……!
まるでいきなり金塊を手に入れた庶民が、その金塊という宝物を忘れたよう……!
まぁ無理もない……。何せ予定になかったことだもの……!
ちなみにこの受禅台にある全ての冕冠には――そんなに金がかかってないらしい……。
「両陛下!早くこれを自分で被って、陛下に御言葉を返してくだされ!」と慌てて時狼が小さな声で“皇帝”になったばかりの照泉と月道の夫婦に声を掛ける!
これに夫婦は我に返って――急いで各々の冕冠を着用!その直後に夫婦は、尽王朝の初代皇帝となった陽玄に――頭を下げる……!
この一連の光景を見届けた時狼は安堵なため息をかみ殺して、陽玄に頭を下げる!
――もし滞ってたら、儂は天下の笑い者に……!と内心で怯えながら……!
「さらに……予の祖父――行(青月の名)に提祖蒼皇帝と諡す!」
この陽玄の勅語に、青月は堂々と別の侍従が持ってきた冕冠を自身の手で着用して――「身に余る光栄!」と陽玄に返して、深々と頭を下げる!
そして陽玄はこの式の最後で「ここに誓わん!我が亡き祖先らの偉業を継ぎ――天下を統一せんと!」という勅語を発して締めくくってみせる!
これに応じて――式に参加している一同は「万歳!万歳!万々歳!」と一斉に唱和!
その一同の中で、真藤だけが内心で――皇帝……どんだけいるんですか!? と驚愕して……。正直、この世界に制度についていける自信がなくなってしまった……!
次回予告:式の後日談的な……。




