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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
73/183

要請

外交の場も戦場!

佞邪国ごしゅじんさまと仲良くしない。それが――貴国あんたらあちらさんと結んだ不可侵条約ふかしんの条件って訳かい!?」と虚綻が訊くと、貴狼は――

「左様!京賀国われらが緑の“中立的な後ろ盾”となっていることで……今の友好かんけいが成立しているのだ!」と答えてみせる。


 こうして京賀国の事情を呑み込んだ虚綻は急に真顔になって――

「今思い出したんが……あんたは今上陛下(当代の帝)の旧臣だったな……。

 先の三つ目に語った“道”については詫びよう!」と頭を下げる。

 これに当の『旧臣』である貴狼は全く虚綻かれを咎めえる気配を見せず――

「何も詫びることはない……。この場は“非公式な”会談の場だ。

 それに……私が今上陛下の“旧臣”であるといっても……貴殿が語った『三つ目の道』について真剣に考えてしまったことがある……。結局、その道は通らないがな……。

 故に……率直に申し上げて、先の貴殿の言動については不快に思う!

 だがここで貴殿を咎めようものなら、世の笑われ者に成り下がろうて……!」と述べる。

 虚綻は再び笑みを浮かべて「そう言ってもらえて幸いだ……」と謝す。


「とはいえ……京賀国われらが難儀な立場にいることに変わりない……。

 佞邪国に従っても――戦!逆らっても――戦!結局――戦は避けられん!」

貴国あんたらと緑との不可侵は――長王朝全体の利益をもたらす外交戦略だ!

 当然、塔高やつ佞邪国くににも利益を齎している!

 もし、貴国あんたらと緑とが戦の敵同士となったら、財界にも影響が及ぶ!

 商人達を支持基盤に持つ塔高やつが――そんな愚を簡単にやらかすか!?」

 頭を抱えてみせる貴狼に、虚綻は新たな疑問をぶつけてみる!


 もし、釣幻(塔高のあざな)が長王朝に対して易姓革命クーデターを起こし、代わって帝位に就くなら――自身を支持する商人らの財力ちからも必要となる!

 ここまで伊達に“丞相”や“摂政”を歴任してきたわけではない恐者つわもの

 それに佞邪国は京賀国を通して緑と貿易している。だが戦はそれを断ってしまう!

 そんな恐者やつが、緑との貴重な交易路を潰すような真似をするものなのか……。


 このような外交的()つ通商的な問題に、貴狼は冷静に――

「もし塔高やつ京賀国われらに戦を仕掛けたいとする!

 その場合、緑が邪魔になるが……一つの書状を出すだけで事足りる……!」と発言!

 虚綻も身を乗り出して「それはどのような……?」と訊いてくる。


「京賀国を佞邪国おのれ傀儡にんぎょうにするだけだ!――とな!」

「なるほど……!京賀国あんたらが消えたら、ここ一帯のパワーバランスが崩れる!

 そんなこと……それに対する準備が何もできていないあっちは面白くない訳だ!」

 貴狼の答えに、虚綻は意外な点を突かれて驚嘆の声を上げる!


「左様……!塔高やつが西への領土拡大を意図している以上、臣下になれない京賀国われらなぞ――後背を突くやもしれぬ不審者!

 本心では消してしまいたいが、消せぬ以上は力だけでも削ぎに行くだろう……!」

 貴狼がこのように嘆息をもらすと、虚綻もそれに応じるように――

「全くだ……!だがそれでも、須座おれら貴国あんたらうらやましい!

 須座おれらには削ぐ戦力もない!今より削ごうものなら亡国ものよ!

 おまけに外交面でも盾になるどころか、布にさえなる条約ものもない!

 今上陛下のおぼし召しがなけりゃ、歴史上にあるかって存在した(バーチャル)国家に成り果ててることだろうよ!」と大いに卑下て、どこか薄暗く笑う……。

 その時の虚綻かれの目に至っては――ちっとも笑っていない!


「自身に従順な南方の諸侯の領土も欲する塔高やつのことだ!

 もしもその気になれば――貴国も無事ではいられまいな!

 何せ貴国の領地は――佞邪国と南方の諸侯国を遮断するように東西に長い!」

 さらに貴狼に自国の地理的な不利を指摘されると、虚綻は意地悪な笑みで――

「だとすると――いざ須座国おれらと佞邪国で戦になるな……。

 その時、貴国あんたら自国おれらを助けてくるのかい!?」とからかう!

 すると貴狼は真顔で「そんなことお安い御用だ!」と返してみせる!

 実際に、今の京賀国の総兵力は四千を超える!対し須座国の兵力はたった一万……!


「……けっ、ちっとは須座国おれらにもいい顔させろってんだ!」とねる虚綻!いくら非公式とは言え、首脳会談の場でごろ寝はない!

 そんな虚綻に、貴狼は顔色一つ変えることなく――

「その点は不満に思うことなかろう!戦で物事の全てを決することはできん!

 貴国には戦よりも重大()つ絶対にやってもらいたいことがある!」と述べる!


 そして「何……?」と返す虚綻に、貴狼は――

「いつもどおり塔高やつに従順に振る舞まってもらえればよいだけだ!

 佞邪国あちらさんの代わりに、南方の諸侯国を支援する旨を塔高やつに伝えれば――塔高やつは貴国に目もくれずに、京賀国われらに攻めかかってこようて!

 南方の諸侯国もさらに南方の大国――『わい』の攻勢を食い止めるに精一杯!

 これなら貴国も安泰に過ごせろうて!」と要請!須座国にとって――お得!

次回予告:ついに号外が出るかな?

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