要請
外交の場も戦場!
「佞邪国と仲良くしない。それが――貴国が縁と結んだ不可侵条約の条件って訳かい!?」と虚綻が訊くと、貴狼は――
「左様!京賀国が緑の“中立的な後ろ盾”となっていることで……今の友好が成立しているのだ!」と答えてみせる。
こうして京賀国の事情を呑み込んだ虚綻は急に真顔になって――
「今思い出したんが……あんたは今上陛下(当代の帝)の旧臣だったな……。
先の三つ目に語った“道”については詫びよう!」と頭を下げる。
これに当の『旧臣』である貴狼は全く虚綻を咎めえる気配を見せず――
「何も詫びることはない……。この場は“非公式な”会談の場だ。
それに……私が今上陛下の“旧臣”であるといっても……貴殿が語った『三つ目の道』について真剣に考えてしまったことがある……。結局、その道は通らないがな……。
故に……率直に申し上げて、先の貴殿の言動については不快に思う!
だがここで貴殿を咎めようものなら、世の笑われ者に成り下がろうて……!」と述べる。
虚綻は再び笑みを浮かべて「そう言ってもらえて幸いだ……」と謝す。
「とはいえ……京賀国が難儀な立場にいることに変わりない……。
佞邪国に従っても――戦!逆らっても――戦!結局――戦は避けられん!」
「貴国と緑との不可侵は――長王朝全体の利益を齎す外交戦略だ!
当然、塔高の佞邪国にも利益を齎している!
もし、貴国と緑とが戦の敵同士となったら、財界にも影響が及ぶ!
商人達を支持基盤に持つ塔高が――そんな愚を簡単にやらかすか!?」
頭を抱えてみせる貴狼に、虚綻は新たな疑問をぶつけてみる!
もし、釣幻(塔高の字)が長王朝に対して易姓革命を起こし、代わって帝位に就くなら――自身を支持する商人らの財力も必要となる!
ここまで伊達に“丞相”や“摂政”を歴任してきたわけではない恐者!
それに佞邪国は京賀国を通して緑と貿易している。だが戦はそれを断ってしまう!
そんな恐者が、緑との貴重な交易路を潰すような真似をするものなのか……。
このような外交的且つ通商的な問題に、貴狼は冷静に――
「もし塔高が京賀国に戦を仕掛けたいとする!
その場合、緑が邪魔になるが……一つの書状を出すだけで事足りる……!」と発言!
虚綻も身を乗り出して「それはどのような……?」と訊いてくる。
「京賀国を佞邪国の傀儡にするだけだ!――とな!」
「なるほど……!京賀国が消えたら、ここ一帯のパワーバランスが崩れる!
そんなこと……それに対する準備が何もできていない緑は面白くない訳だ!」
貴狼の答えに、虚綻は意外な点を突かれて驚嘆の声を上げる!
「左様……!塔高が西への領土拡大を意図している以上、臣下になれない京賀国なぞ――後背を突くやもしれぬ不審者!
本心では消してしまいたいが、消せぬ以上は力だけでも削ぎに行くだろう……!」
貴狼がこのように嘆息をもらすと、虚綻もそれに応じるように――
「全くだ……!だがそれでも、須座は貴国が羨ましい!
須座には削ぐ戦力もない!今より削ごうものなら亡国ものよ!
おまけに外交面でも盾になるどころか、布にさえなる条約もない!
今上陛下の思し召しがなけりゃ、歴史上にあるかって存在した国家に成り果ててることだろうよ!」と大いに卑下て、どこか薄暗く笑う……。
その時の虚綻の目に至っては――ちっとも笑っていない!
「自身に従順な南方の諸侯の領土も欲する塔高のことだ!
もしもその気になれば――貴国も無事ではいられまいな!
何せ貴国の領地は――佞邪国と南方の諸侯国を遮断するように東西に長い!」
さらに貴狼に自国の地理的な不利を指摘されると、虚綻は意地悪な笑みで――
「だとすると――いざ須座国と佞邪国で戦になるな……。
その時、貴国は自国を助けてくるのかい!?」とからかう!
すると貴狼は真顔で「そんなことお安い御用だ!」と返してみせる!
実際に、今の京賀国の総兵力は四千を超える!対し須座国の兵力はたった一万……!
「……けっ、ちっとは須座国にもいい顔させろってんだ!」と拗ねる虚綻!いくら非公式とは言え、首脳会談の場でごろ寝はない!
そんな虚綻に、貴狼は顔色一つ変えることなく――
「その点は不満に思うことなかろう!戦で物事の全てを決することはできん!
貴国には戦よりも重大且つ絶対にやってもらいたいことがある!」と述べる!
そして「何……?」と返す虚綻に、貴狼は――
「いつもどおり塔高に従順に振る舞まってもらえればよいだけだ!
佞邪国の代わりに、南方の諸侯国を支援する旨を塔高に伝えれば――塔高は貴国に目もくれずに、京賀国に攻めかかってこようて!
南方の諸侯国もさらに南方の大国――『隈』の攻勢を食い止めるに精一杯!
これなら貴国も安泰に過ごせろうて!」と要請!須座国にとって――お得!
次回予告:ついに号外が出るかな?




