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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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かっての主

今--丘幸を立った最中……。

  世歴八百四年四月七日 午前九時頃 佞邪国丘幸郊外

 自らの尽子みやこへ凱旋帰国するべく、現在から一時間ぐらい前に丘幸を発った陽玄ら一行!ただし丘幸そこへ行った時よりも人数は増えている!



「やっと帰れる!これからはずっと一緒だぞ、陽玄!」と嬉し泣いて陽玄に告げる月道!

 月道かれは今――照泉つまと共に陽玄が乗る馬車に同乗している。

「もう寂しくなんかないわよ……!」と陽玄むすこに語りかける照泉。その手にはまだ一歳にも満たない陽玄の末弟が抱かれている。末弟かれはすやすやと寝ている。

 陽玄は「うん……!」と本心では嬉しいのに、ぎこちない返事をしてしまう……!

 何せ――今の陽玄の傍は、「きゃっきゃっ!」と両親が旅の途中で生んできた妹二人と弟一人に固められている!終いにはその内の一人が、陽玄の柔頬を玩具おもちゃにして引っ張る!この際に「う~!」と呻く陽玄に“京賀王”としての威厳は――ぜろ

 自身の肉親が増えたことは大変喜ばしいのだが、もう乗っている馬車が狭い……!

 もう自身の空間スペースも限りなく――ぜろ!正直、しんどい……!


 本来ならこのような陽玄に対する肉親達の無礼を止めるのが摂政の役目!

 しかし、その当の摂政である貴狼は――馬車外で真藤と話している為、馬車内の現状に全く気付いていない!鋒陰に至っては――別の馬車でくつろいでいる……。



「それにしても……摂政閣下……!」と馬上で貴狼に語りかける真藤。

 これに貴狼が「どうした、真藤……?」と応えてくれる。

 今――真藤と貴狼の二人は、陽玄の馬車のすぐ傍!しかし、馬上であるが故に、馬車内から時たまに発せられる陽玄の呻き声は、馬のひづめの音に掻き消されていく……。


「本当に良かったんですか……?京賀国じぶんたちの別邸を売り払って……?」

 真藤は何かもったいなさそうに、この疑問を貴狼に投げかけてみる。

 実は貴狼……。現在から一時間ほど前に、丘幸に在った京賀の別邸を売り払っている。

 ちなみにこの売り払い……実行者こそ貴狼だが、決定者は王である陽玄や月道である!

「これで良いのだ!佞邪王も自身に次ぐ国の建物ものが去って、晴れ晴れとしてるさ!」

 真藤の疑問に、貴狼自身もどこか晴れ晴れとして……このように答えてみせた!

 ちなみに、この貴狼の発言通り……佞邪国側も晴れ晴れとしている!


「そうなんですか……!」と渋々と貴狼にうなずく真藤……。

 どうしても納得できない!――というよりは、不安がぬぐえない……。

 しかし真藤は――自身でもその不安の正体が掴めなかったので、口にしない……。


 今――真藤が正体が分からぬ不安に襲われることは……決して不思議ではない!

 何せ、あの別邸は京賀国から佞邪国への外交機関でもある。つまりは大使館!

 それを売り払うとなると――当然別邸の管理人達を引き上げさせねばならない!だが、その管理人達も佞邪国との外交を担っていた!つまり、外交団の引き上げ!

 とどのつまり……佞邪国と京賀国は――事実上は国交断絶状態に陥った!

 これが真藤が『掴めなかった正体』である!

 しかし、幸いなことか両国とも互いに「かの相手国くにと国交断絶した!」と言った公式な声明を出していないので、表面上は国交は断絶していないことになっている……。


「それにしても……何かピリピリしてますね……」と話題を変える真藤。

 キョロキョロと周りを見渡した真藤かれの目に映るは――いつもより一層近づきがたい威圧感オーラを放っている京賀の兵達!目に至っては変なビームが出そう……。

 これに貴狼が「そりゃそうだ……何せ……」と陽玄の馬車の後方にある馬車を見る。

 その馬車は……『長』王朝の所有の馬車ものとだけあって――非常に豪華!

 陽玄の持っている質素な馬車と比べたら――天と地ほどの差!何せ金の装飾がある!

 そしてもちろんその馬車には――『長』の皇帝一家が乗っている……!

 更にその馬車の後方には帝室に名を連ねる者(皇帝の一族)や帝室に仕える者達を乗せた数多あまたの馬車がずらり!何台あるかと問われると即答できない規模レベル

「せっかくの皇帝陛下の行幸みゆきだもんな……」と貴狼も半ば茫然している……。


 今――陽玄ら京賀の一行は長の皇帝であるの鈔狼の護衛を担っている。

 しかし、陽玄が幼君である以上、事実上の最高責任者は摂政である貴狼!

「随分と旧臣の胃を傷ませるもんだ……」と貴狼は、かっての主にぼやいた……。



  世歴八百四年四月七日 午前九時頃 佞邪国丘幸 丞相府(佞邪王私邸)

「よろしいのですか、陛下!京賀王やつらをこのまま帰させて……!?

 ここは帝の行幸みゆきを妨げた!――と京賀王やつらの背後を突いては!」と釣幻がいる部屋に乗り込んで物騒な提案をする清乾!功名心にはやってだが……。

「今、京賀王やつらを攻めれば――“縁(京賀国の隣国)”が黙っておらん!

 気持ちは分かるが、縁を敵に回す余力が――今の佞邪国わがくににはない!」と釣幻にさとされて、清乾は「失礼致しました……!」と逃げるように去っていった!

 そんな清乾かれの背中を見ながら、釣幻は飲みかけた酒を悠々と飲み干す……・

 何も焦ることはない……。既に京賀国やつらとは雌雄を決する天命にある……!

次回予告:やっと自分たちの都……。

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