頼みごと
これぞ――乱乱乱世、最高の娯楽!?
世歴八百四年四月五日 正午頃 佞邪国丘幸 京賀伯別邸
「何だか、騒がしいですね……外が……!」と食事の最中に呟く真藤。
これに真藤と一緒に食事している陽玄も「確かに……」と肯く。
同じく豪快に食べ勧めている鋒陰も、手を止めて「何かあるのか!?」と疑問を口する。
しかし、同じく食事している貴狼だけが「どうせ、陸なことではあるまい……!」と察しているように述べる。それは正解だったが、その結果を知れたのは後のこと……!
別邸の外は騒がしい!何せ、市中で公開参加型処刑が催されているから!
この時、官男は既に溺死して――その遺体は闇葬儀社に引き渡されている……。
それでも、釣幻が考案した狂気の処刑は止まらない!
官男の処刑を見届けた釣幻!丁度その頃に俊雄が猛己の両親と一族郎党を引き連れて、彼らをどう処刑すべきか釣幻に訊きに来てしまったのだ!
先の処刑を面白く感じた釣幻はもちろん――先の溺死刑を命令!
この命令を俊雄は「時間が要しすぎる!」と一度は抗うものの、釣幻に――
「帝を奉るこの丘幸を――罪人の血で汚す気か!?」と論破される!
「さぁ――大量処刑ぞ!大量処刑ぞ!」と呼びかける釣幻!
結局、猛己の両親と一族郎党は――官男と同じように棺の中に収められてから、溺死刑を受けた!しかも今度は各々の体中に重石を載せられて……!
ちなみに釣幻は、この溺死刑専用の棺を――予め大量特注していた!
また、それら死刑を直接担当する住民達の手には――躊躇いがなかった!
皆、日頃から自身らを搾取する釣幻に怒りを抱いていないはずがない!だからと言って、釣幻に直接刃向うのは……あまりにも危険度が高すぎる!
そこで溜りに溜まった鬱憤を――死刑囚にぶつけようというのだ!
故に、臨時死刑執行者の内のほとんどが笑っていた!当たり前だ……何せ自らが行うのは――釣幻の下に正当なのだから……!
無論、少数の者は目に涙を浮かべて罪悪感に苛まれていた!とはいえ、彼らの死刑執行の手が止まる訳でもなかった……!
――殺らなきゃ、あの釣幻に何をされるか……!
そうして、死刑囚の全員に刑を執行しきっても――釣幻は止まらない!
「次はどいつに……」と新たな死刑囚を獲得すべく、釣幻は心当たりを思い出す!
それから瞬く間に、釣幻が思い出した心当たりが――
「そうだ!魯夫の敗北の責はまだ残ったままぞ!」と先の戦いで敗死した将の関係者ら!
「魯夫の息子夫婦も刑場に連れてこい!奴の敗北の責を償わせるのだ!」と釣幻が号令を掛けると、ものの十分もしない内に、その息子夫婦は刑場に連れてこられた!兵達がその夫婦を馬で引きずり回したためだ……!
その夫婦も揃って、死刑執行者達の慰み者となったそうな……。
そして刑を受け終えた全“元”死刑囚も――闇葬儀社に引き渡された……。
世歴八百四年四月五日 午後一時頃 佞邪国丘幸 丞相府(釣幻の私邸)
「――で、官男の悪足掻きが“いと”可笑しく面白くてな!」
「はははははっ!あの屑に相応の最後ですな!」
釣幻が語った官男の最後に、笑って応える暖沼!
――これがかって官男を補佐していた者の姿か!と疑ってしまう光景だが、暖沼から官男への忠誠心とやらは、元から砂の一粒さえない……!
「それで昼食会が遅れたのですか……!?」と笑って問う暖沼!
しかし内心では――日汎人は約束を守ると聞いていたが……所詮は噂に過ぎなかったか!と悪態をついている。予定時刻より大幅に過ぎた今も飯を喰えていないから……。
だからといって「いやはや、こちらから呼んでおいて……面目ない!」と釣幻が自身の非を認めていては、罪を許された身としては何も言えない……!
結果――暖沼は「いえいえ――侯がお気になさることはありません!」としか言えない!
そんなところに「失礼致します!」と、釣幻と暖沼の二人に掛かる声!
――ようやく、飯が食えるか……!と思った暖沼が声主の方を向いてみる!
するとその声主は、釣幻の侍従!しかしその両手には、小さな盆が一つ!その小さな盆には、徳利と猪口がそれぞれ一つずつだけ!
これを見た暖沼は「なっ……!」と反応を口に出せない!
これに釣幻が「昼食の前に、遅刻した詫びをしたいと思ってな……!」との釈明に――
「そういうことでしたか……!それなら――感謝の極みです……!」と気を良くする。
それから釣幻が酒を振る舞うと、「では――頂戴致します!」と暖沼は猪口の中に注がれた酒を「ぐいっ!」と一気に飲み干した!そこへ釣幻が――
「酒を飲んでるとこ悪いが――頼みごとを聴いてはくれまいか……?」と話しかける。
「何でしょう?」と快く頼みごとを引き受けようとする暖沼に、釣幻は穏やかに――
「何、簡単なこと――死んではくれまいか!」と純粋に頼み込んだ!
直後に暖沼は「がっ……!?」と小さく呻き――釣幻の頼みを引き受けた!結果的に……。
次回予告:国を持たぬ帝……!




