この世の真理
丘幸へ行けます!
「この際だ!今を以て儂は――そなたらを正式に我が丘幸へ招待しよう!
共に君主諸国の戦勝を祝おうではないか!?」と陽玄らに持ちかける釣幻。
「……」
彼のこの上機嫌ぶりに、俊雄は辟易気味にため息を吐く。
――親父の考えがさっぱり分からん!と完全に諦め状態。
「この上なくありがたいお誘いに応じたいのは山々ですが……。
その前にいくつか確認したいことがございます!」と釣幻の誘いを受け入れる前に、当の釣幻に尋ねる貴狼。誘いの地が国外である以上、即決はしかねる!
この乱乱乱世――渡る海外は敵ばかり。例外なぞ――ない……!
それに例え陽玄が即決したとして、一度だけでもいいから警告しておく!
それが貴狼の使命!これを怠れば、陽玄の両親に何をされるか分かったものではない!
釣幻は微塵も機嫌を損ねずに「申してみよ!」と貴狼に応える。すると貴狼は――
「侯殿下は、何方をご招待なさるのですか!?
まさか、衛団(一個連隊規模の親衛隊)ごとではありますまい!」と両手を開いて、ここ一帯に展開している部隊を指す。その兵数は千名!今の佞邪全軍の四分の一……!
正直、この一部隊だけでも丘幸を落とせる勝算はあるとはいえ、やはり戦わずに落とす方がいい……。その先が――あまりにも長い道のりである故に……
「はははっ、確かにそうだなっ!あまりに多くては帝のご身辺を騒がせよう……!
そうだな……一個隊(一個中隊)程度なら、伯(陽玄)の護衛には事欠くまい!」
この釣幻の発言に、貴狼は「ではありがたく――私を含め主だった者らと一個隊を、我が殿下に伴わせて頂きます!」と畏まって応える!
「……!」
また、陽玄も無言で肯いて貴狼の決定に許可を出す!
「そういえばお主、『いくつか確認したいことがある』と申しておったな。
他にもあるなら、遠慮なく申してみよ!」と釣幻が貴狼に促してみる。
「この賊の首領共を引き渡したい!と、我が殿下がお望みです!
此度の戦で京賀軍が賊共をこうして捕らえることができたのは、侯殿下のご采配があってこそ!と殿下が御考えになられたが故に……!」
この貴狼の応えに、釣幻は「そうかそうか!ははははははっ!」と照れ笑い!
実際に――釣幻が官男と戦ってくれたおかげで、京賀軍は無傷で猛己を捕らえることに専念でき、最終的に官男と暖沼らも捕らえることもできた!
嘘は何一つ言っていない……!ただ佞邪国に “真に”都合のいい真実がないだけ……!
――ぬけぬけと『侯殿下のご采配』だと調子のいいことを言いおって……!と佞邪国では俊雄だけがこの事実に感づきかけている……。
「しかしながら、これらの手柄は貴国が挙げたもの!気持ちだけ受け取っておこう!」
「……!」
続いての釣幻の気前が良い断りように、驚いて言葉が出ない俊雄。
またこの断りを聞けた全ての者達も、我が耳を疑う!
――あの強欲な男が、他人から物を受け取らないとは……!
それから間もなく、釣幻は笑顔から一転して――
「故に――録尚書事(陽玄の官職。主席副宰相的地位)に命じる!
この賊の首領共を――我が丘幸まで護送せよ!」と真面目な顔で陽玄に命令!
これには名誉上とは言え、釣幻の部下である陽玄は「御意!」と畏まるのみ。
おまけに貴狼や鋒陰ら畏まり、彼らに続いて衛団一同も釣幻に畏まっている……!
この光景を見た真藤は――慌てて釣幻に畏まる。この世界に来て、まだ日が浅い者……。
なお、縛られてこの命令を聞いてしまった猛己。
――必ず佞邪侯(釣幻)は私を助けて下さる!と己を必死に励ます!
意外と筋力が強過ぎる分……精神が弱そう……。
珍しくも、真面目に丞相としての業務をこなした釣幻は、いつも通り笑って――
「では――我が丘幸に案内しよう!ついて参れ!」と後方を向く……!
これに陽玄らは「ははっ!」と応えるのみ……。
さて丘幸に招待された陽玄ら一行。佞邪軍が京賀軍を先導してくれている。
その当の佞邪軍の一角を除いてみると――
「丞相閣下!いくら疲弊した地とはいえ、やはり領土に簡単に譲っては諸外国に示しがつきません」と今だに過穀を諦めきれない俊雄!既に時遅しというのに……!
そんな彼に釣幻は得意げな笑みを浮かべて――
「領土などいくらでも取り返せる!それに本気を出せば――その倍以上を分捕れる!
この乱乱乱世に『他国の領土を分捕るな!』という法はないのだ!好きな時に好きに分捕れるぞ!」とこの世の真理を持ち出して返してみせる!
「その言い方……いくらでも取り返せない宝の方が大事だと聞こえますが……!」
この俊雄の推測に、釣幻は「そうだな……!」と苦笑するのみ……。
次回予告:丘幸に着くと……。




