王への昇格
猛己に話しかける貴狼……!
「動こうと無駄ですぞ……!貴殿には大量の麻酔が注がれていますからな……」
「……!!」
この貴狼の説明に、猛己は殺意が籠った視線で応える!これには、猛己が動けないとは重々承知している貴狼でも肝を冷やしてしまう……。
「そう恨めしそうな目を向けますな!ところで――この書状、見覚えありますかな?」と貴狼は一枚の文書を自身の懐から取り出して、猛己に見せる。
すると、猛己の目から殺意が消えうせ、驚きが代わりを占める!
――こ……この署名は……!と同時に自身の目を大きく見開かせる!
その署名の主は――『塔高』!佞邪国の君主であるの釣幻の氏名!
そしてその文書の中身は――京賀伯(陽玄の爵位)に佞邪侯(釣幻の爵位)の“王”位昇格を帝に奏上するように仕向けさせるといったもの!
――『王』への昇格は侯でさえ表にしないお望み!貴狼がそれを文にした書を持っている!ということはつまり……!
「ようやくわかって頂けましたかな?私が貴殿の“同志”であるということを……」
頭の中で結論を出した猛己に、貴狼はその結論の答え合わせをしてみせる。
結果――猛己の結論は正解!少なくとも彼にとっては……!
――よっしゃあああああああっ!! 俺はたすかるぞおおおおっ!!と内心で大喜ぶ猛己!
そんな彼に、貴狼が猛己自身が抑えきれていない気持ちを助長するように――
「私は佞邪侯から貴殿に万一のことがあった場合、貴殿をお救いするよう承っております! 故に、貴殿は――早ければ今日にでも佞邪国へ引き渡されましょう……!
もちろん、無罪で……!」と語りかける……!
すると、猛己の目からは外への攻撃的な意思というものの一切が消え去る!
代わりに占めるは――内への積極思考!
――これでまた……侯、いや王と共に遊べるぞおおおおっ!! と彼の内面がその証拠!
そんな有頂天の極みに達している猛己に、貴狼はその内面を知ってか知らずか――
「しかし――もし万が一にも貴殿が“偽物の猛己”であったなら……私は死んでも侯、いや王と呼ぶべきでしょうな!とにかく、私は詫びきれません!」と述べる!
これに、猛己は不機嫌そうな顔で応える。――邪魔するなよ……!と言いたげだ。
「面倒だとお思いでしょうが、いくつかの質問に答え頂ききますぞ!
それらの答え次第で、貴殿を“本物の猛己”であるという証にしましょう!
貴殿も王への忠誠の証として、丘幸にご両親を預けている身!
万が一間違いでもあれば、さぞご両親に危機が及ぶことでしょう……!」
「……!」
貴狼に両親を引き出されて、渋々と首を微かに動かす猛己。実に親孝行!
「それでは……今から私は貴殿にいくつか質問をさせて頂く!
貴殿はまだ喋れんでしょうから……答えが“肯定”ならば、首を縦に!反対に“否定”ならば首を横に振って頂きますぞ!」と猛己に説明する貴狼。
これに猛己は――好きにしろ!と観念した様に首を縦に振る……。
直後に――「では一つ目――」と貴狼の尋問が始まる……!
世歴八百四年四月四日 午前十時頃 佞邪国東部国境
「な……なんだあれは……!?」というのがここに着いたばかりの俊雄の驚きの第一声!
乗馬したままの彼の目に広がるは京賀の衛団!しかし俊雄が驚いたのはそれらではない。
驚いたのは、その部隊の真ん中で縛られて正座している――官男と暖沼!同じく猛己も!そんな縛られた三人の周りに立っているは京賀の兵達!
それから少し離れて――立っている陽玄と鋒陰!そして貴狼と真藤の二人も同じように立っている!騎乗していないのは、京賀国より格上の佞邪国への礼儀!なお、月清は万が一に備えて、別の場所で中団(一個連隊規模)を率いて待機!
「ほう……あの猛己が捕まっておるわ……!」と俊雄とは反対に全く動じないどころか、不敵な笑みを浮かべてみせる釣幻!やはり踏んできた場数が違うか!?
これに俊雄が「丞相閣下、笑っている場合ではありませんぞ!京賀軍に手柄を持って行かれたのですぞ!」と焦って話しかけるも――
「狼狽えるな!京賀軍の目の前だぞ!」と釣幻に一喝される!
「……!」
これに我に返った俊雄は、瞬時に冷静に取り繕う……!
現在、釣幻と俊雄の親子は騎乗したまま、それぞれの部隊を率いてこの国境に辿り着いた!その目的はもちろん――官男と猛己を捕らえるためである!
しかし着いてみたら、二人はとうに捕らえられていた!この後どうしよう……
ちなみにこの親子は今も騎乗したまま。これが格上の侯室の特権!
「お待ちしておりました、殿下!」と貴狼が畏まって釣幻らに大声をかけると――
「久方ぶりだな、貴狼!」と釣幻が笑顔で応えてみせる!
この二人は、共に宮(帝らの宮殿)仕えしていた頃の――知り合い。表面上は……。
これに俊雄も「出迎え、ご苦労!」と警戒しながらも応えてみせる……!
次回予告:前世での「漢文」が役に立つ……かな……?




