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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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悪く笑う

翻弄するもの、されるもの……。

 世歴八百四年四月三日 午後七時頃 京賀軍占領地 過穀 京賀軍総本陣

「流石は官男かんなん!恐るべき戦果を挙げるものだ!」

 この貴狼きろうの“別の意味”での官男に対する称賛に、月清げっしんは戦慄して「ええ……!窮鼠きゅうそ(追い詰められた鼠)がこうも……!」と応えるのみ。


 今――貴狼の両手にあるは、とある情報筋から手に入れた一枚の報告書。

 そこには、佞邪軍に対して猛反撃を敢行した官男軍の現状が記されている……。


「それでっ!今……官男の奴のほうはどうなっているのだ!?」

 陽玄ようげんを連れて総本陣に戻ってきた鋒陰ほういんの第一声。

かず的に“パワーアップ”しとるよ!もう佞邪国内の中央おくまで進撃して、司隸(同国の首都である丘幸きゅうこうを含む地域)に迫っとるよ!」

 貴狼はどこか楽しげに鋒陰かれに答えてみる。

 常に我が京賀国を上から押し付けているやつが目茶目茶になろうとしている。

 これが楽しくない訳がない!“ウキウキ”や“ワクワク”が止まらない止まらない!

 この気持ちは『長』王朝内の佞邪国を除く全諸侯も同じである……!


「貴狼よ!『かず的に“パワーアップ”しとる』とはどういうことだ?」

 貴狼の答えに陽玄は驚いて目を丸くする。こんな彼に、当の答えの主である貴狼が――

官男軍やつらは昼食が終わって直後に、佞邪軍の一団――“南団なんだん(一個連隊規模)”に対して総反撃に出たようです!」とやや畏まりつつ答えていく。


「その『南団』とは、“高師(丘幸から南西に位置する地)”を本拠にする部隊か?」

「左様で御座います!かの一団は総反撃の時には、ろくな対処ができなかったそうで……!まぁ……自身が多勢だ故に、油断でもしたのでしょうな……」

「それで貴狼よ……その後はどうなったのだ……?」

「勝利の勢いに乗った官男軍やつらはそのまま佞邪の南団を押し続け、佞邪と過穀政権やつらさかい(国境)までに至りました。

 その時、南団のほうで“革命”という“乱”が起きて、南団の校尉(指揮官)である“網郷もうごう(氏が『もう』、名は『ごう』、あざなは『平場へいじょう』)”は――乱を起こされた側に“無様に”殺されたそうですぞ!」

 この網郷もうごうの末路を語った時の貴狼の目と口――悪人の笑う時の“もの”!

 ウザいやつの人材が減るのは――楽しい!

 貴狼のこの反応リアクションは――陽玄と最初から真藤を辟易!同時に月清を再び戦慄させ、鋒陰だけをワクワクさせる!


「で、乱を起こした側は官男に下って、官男軍やつらの将兵に成り下がったのだな!?」

 ワクワクしたままの鋒陰の問いに、貴狼は嬉々として「左様!」と答えてみせる!

 こいつらの根本こんぽん――多分同じ……。



 同日 同時刻 佞邪国 丘幸 丞相府(同国君主である佞邪侯の私邸)

「あの生(ごみ)が――!」と自身の私邸兼官邸で猛り狂う釣幻ちょうげん

 その証拠に、彼の執務室にはなかみが入ったままの猪口ちょこが無残にも砕け散っている……。さぞ――良い音がして割れたに違いない!

 それにしても――官男ごみを処分するはずの将が、逆に処分されるとは……。

 ちなみに釣幻にこのことを報告した文官一人の命も――無残に散っている……。


 今も周囲にとって非常に危険な釣幻を、息子の俊雄しゅんゆうが――

「丞相閣下――」と宥めようとするものの……。

「何だ!?」と共の釣幻の危険な視線に、俊雄は居竦いすくまってしまう……!

 ――ここで平場(網郷の字)を擁護するようなことしては、俺まで巻き添えを喰らってしまう……。と察してしまった俊雄。

 ――平場には申し訳が立たんが、仕方あるまい!と直後に何かを決心!

「網郷は自身の団で起きた乱を止められずに殺されるという醜態を晒す役立たず!

 挙句の果てには起こした兵を図籍ずせき(官男の氏名)に下らせ、官男軍てきの兵を増やすという――我が佞邪開闢(かいびゃく)の前代未聞の事態!

 このような事態を招いた網郷は死してもなお、自身の罪を償いきれておりません!

 ならば――奴の一族郎党の命で償わせるべきです!」と己の保身に、遺族の命まで売り払おうとする俊雄。この世が乱乱乱世でなければ、確実に白い目で見られる!

 これに釣幻は先程の怒りが嘘のように、気を落ち着かせ――

「そう早まったことをするでない……!」と俊雄に応えてみせる。

 俊雄は普段見る父の姿との違いからか、素直に「軽率でした」と釣幻に指す。

 ――まさか変な珍味ものを食べてはあるまいな……。と父を心配さえもする始末。


「あの網郷ごみの弟の網超もうちょうは、儂の馴染みの商人だ。

 網郷ごみの弟だからとて、簡単に消していい奴ではない!」と語る釣幻。

 流石に人への情がある者かと思えば――

「――故に、あ奴にあの網郷ごみの一族の処刑を任せてみようではないか!?」と悪く笑う始末。結局、いつもと何も変わっていない……。

 これに俊雄は安堵しつつ「それが良いでしょう!」と釣幻に――即同意!

 結局、かえるの子は成長しても――蛙ということか……。

次回予告:調子に乗ったやつ――いつ叩き潰す!?

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