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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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勢い

愚行を自覚して遂行する馬鹿、ほとんどいない説……。

「いいか!! この生(ごみ)(件の伝令兵)をげんを信じる者は、そいつだけでなく一族郎党全員の首が人民と同志達にさらされると思え!! 分かったな!?」

 この官男の一喝とどめに、先程まで閉口していた暖沼が口を開いて――

「流石は同志主席!賢明で有られます!」と大絶賛!

 これにまだ肝が解凍されていない側近達も「流石は全人民の指導者!」とか、「稀代の革命家!」などと一斉に同意しまくる!先の処刑けんがあってか、皆必死……!

 官男は暢気のんきにも、絶賛に酔っている……。この今だけは危機感はない!


 皆が口々に官男を褒めちって、この場の空気がぬる空気ものと化す中――

「仮にあの生(ごみ)の言が本当だとしても――同志主席の判断は正しいでしょう!」という暖沼の言が官男を。さらに側近達全員の虚を突いてみせる。

「「……」」

 その場の誰もが言葉を失い始め、遂にはしんと静まり返ってしまう。


 それからあまり時間をおかずに「どういうことだ……?」と官男が暖沼に問うと――

「重ねて申しますが、仮の話として――これが全軍に伝われば動揺は抑えきれません!

 過穀政権われらの自滅を待たずとも、これでは敵を利する結果となります!

 それにこのまま戻っても、京賀軍てきは万全の態勢で待ち構えておるでしょう!

 ならば――このまま進むのみ!同志主席、今こそ佞邪国へきましょう!」と暖沼の演説じみた進言が混じった答えが返ってくる!


「だがその仮の話には、兵糧の話が一切出てきてないではないか!

 現に残された兵糧も少ない!とても佞邪国をける量など――」

「兵糧なぞ佞邪国に住まう人民が用意してくれます!

 暴君に施して、その暴君を打倒する英雄に施さない人民がこの世におりますか!?」

 官男の反論を希望的観測で遮ってみせる暖沼。この行為は本来なら官男の逆鱗に触れ粛清ころされてもおかしくない非常に危険な行為!

「……!!」

 しかし、当の官男は自身を反論する暖沼に気迫に圧倒されるばかり……。

 実は暖沼はこの場で官男や他の同志達を扇動して佞邪国に攻め込むつもりであった。

 とはいえ、その扇動に真っ先に乗ってしまったのが、暖沼おのれ自身とは……。

 もうこの時点で暖沼かれの計算は狂っている。これぞ『策士策に溺れる』か……!


「同志書記の仰る通りです、同志主席!今こそ佞邪国の地を踏む時です!」

過穀政権われわれには先の佞邪の軍を退けた戦果があります!

 この戦果があれば、必ずや佞邪国の人民は我らに味方するでしょう!」

「このまま過穀ここで座していても滅びを待つようなもの!今こそ全軍に号令を!」

「今こそ暴君を討つときです!攻めれば、人民達も必ずや我らに応え決起するでしょう!」

「同志主席!佞邪国を解放しないのでは、何のための『佞邪救国政府』なのですか!?」

 側近達にも暖沼の扇動に乗って、口々に官男を焚き付ける。

 先程まで凍っていた肝は完全に“溶ける”を通り越して――熱くなっている……。

 もちろん“恐怖”もとうに払拭されており、代わりに占めるは“興奮”の二文字み!

 例え粛清ころされようとも、全員なら怖くないようである……。


「し、しかし……」と慎重な姿勢を崩さない官男はなおも反論しようとするが――

「同志主席!我々はあの時(佞邪救国政府の開闢かいびゃく)から四年も待ったのです!

 これ以上、待つ必要がありましょうか!」と暖沼が本音丸出しでそれを遮る!

 実は暖沼、官男の “力を蓄えてから佞邪国を解放する”というじれったい考えには、前々からじれったく感じていた。それ故に内心では官男かれを馬鹿にしている。

 ちなみに暖沼と同様の考えの持主は側近達の中にもいるようである……。

 ――『力を蓄えてから』というなぞ、君主国のやりそうなことだ!というのが暖沼の持論。ちなみに国々の歴史とか全く勉強していない。ただの思い込み……。


「よ……よし!先ず全軍はこのまま西へ進め!佞邪国を暴君から解放するぞ!」と遂に折れて、乗り気ではないまま全軍に号令をかける官男!もう己の腹をくくるとき……!


「「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 官男の号令に場はたちまち熱狂の渦へ……。皆、安っぽい正義感に酔いしれるばかり。

 誰も後先どころか、何一つすら考えられていない……。

 ――兵力的にも物資的にも不安だが、ここで粛清ころしては俺の株が下がるだけだ。と考えているのは官男のみ。ただし己のことだけで頭がいっぱい……。



 こうして暖沼とその他大勢の四年分の鬱憤うっぷんを晴らすように、西へ進軍!

 午後一時半頃のことである。食後にくる眠気に襲われた者は誰もいなかった……!

 官男軍は午前中に退けた佞邪軍の一団(一個連隊規模)を圧倒!

 勢いを殺すことなくそのままその一団を“位置的な意味”で推し続けたそうな……。



 それから陽玄らが官男軍かれらの本拠であった過穀で午後三時頃のおやつ(お煎餅せんべい)を食べている頃、官男軍は件の一団を半ば崩壊状態に追い込ませる最中!

 こうなると勢いも案外馬鹿にできん!しかし、所詮は『勢い』。長続きはしない……。

次回予告:予想斜め上を行く官男軍を翻弄するもの。逆にされるもの。

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