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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第四十二話:大興奮の猛己

畔河に戻ってきた猛己……。

  せい歴八百四年四月二日 午後八時半頃 畔河はんが 政庁正門前

「さっさと開けろおおおおおおっ!! 糞傍矛くそがきいいいいいいいっ!!」

 夜の政庁の正門に響く猛己もうきの怒声! しかも部下達の前での――本音まるだし。

 彼は今、自身の生き残った親衛隊四十名全員を丸々引きつれて、正門前ここにいる。

 攻己こうしの方は別に生き残った四十の兵ら共に、過穀かこくの住民や物資を畔河ここに連れている最中。故に畔河ここに到着するのは、あと一時間かかる。


「!!」

 しばらくすると、正門はゆっくりと「ギギギッ!」と軋んだ音を立てながら開いていく。

 すると開いた正門そこから見えた、石畳の延長上にいるのは――傍矛ぼうむ

 さらに傍矛そのの両隣りには、彼の従兵である申竜しんろう洲漕しゅうぞうがそれぞれ控えている。それも彼ら三人は皆一様に「ニコニコ」な笑顔で……。


「遅すぎんだあああああっ!! 糞共おおおおおおっ!!」

 この猛己の再度の怒声の後、猛己やつは自分の足で傍矛達の方へ猛ダッシュ!

 猛己かれの大柄な巨体が向かってくる様は――巨大な猪の突進を連想させる……。

 この迫力に、気弱な傍矛が「ひいっ!」と声を上げて怯んでしまうのも無理はない。

 しかしそれでも、彼らに怯んではいけない! やるべきことがある! 己の命のために!


 申竜は傍矛の背を「ポンポン」と手の平で叩いて、正気を取り戻させる。

 そして三人は互いにうなずいて合図を送って――

「「「申し訳ございません! 同志主席!」」」と一斉に“土下座”!

 これがこの旧日汎(じっぱん)王国地域にも古来から伝わる究極の謝罪方法らしい。

 中肉中背の申竜と洲漕はともかく、父に似て大柄な傍矛が異様に小さく見える……。


 この三人の土下座を目の前に、猛己は三人のすぐ近くで止まって――

「おお! 言い覚悟だな、糞共! 『首を刎ねられても文句はねえ!』ってことだよな?」と彼らに強烈な“プレッシャー”をかける! まだ怒りが静まらない様子。

 これにビビったか、傍矛と洲漕はおもてを上げずに、「プルプル」と震えている。

 こんな二人ではこのまま自分も、二人と一緒に殺されかねないと察した申竜。

 同時にこの状況で弁明できる者が己しかいないことも察してしまう……。


「過穀へ援軍を送れなかったこと、同志傍矛は『誠に申し訳なく』思っております!!

 しかし、同志傍矛はその遅れに見合う戦果を用意することができました!!」

 この申竜の弁明に対し、「言ってみろ……」とこたえる猛己。

 その彼の手には――何時いつの間に抜かれたのか? 自身専用の大剣が握られている。

 ここまでくると、三人の首を刎ねにかかる五秒前と言っても過言ではない!

 これに自身らの命の危機を全身で感じ取った申竜はすぐに――

「京賀国君主である――現“京賀伯”です! 傍矛同士はそのお方を捕らえております!」と結論を述べてみせる。加えて傍矛と洲漕も「コクコクコクコく」と首を縦に震わせる。

 この三人の必死の弁明に、猛己は大興奮パワーアップして――

「マジかああっ!? でかしたああああああっ!! 糞共おおおおおおおっ!!」と雄叫びを上げる!

 しかしながら、血管の浮き出っぱなし! この様子からでは、激怒しているのではないかと不安になってしまう程! 実際、今でも三人は生きている心地がしていない……。


「「「ありがたき幸せ! これも同志主席のご意向の賜物です!」」」

 改めて畏まって感謝の意を述べる三人に対し、猛己は興奮を抑えきれずに――

「でっ……! そいつは今どこだ……! どこにいる!」と執拗に訊き始める。

 これに申竜が「我らの真後ろの――」と答え始めた時、猛己はその答えの途中で――

「よっしゃああああああああっ!!」とまた大興奮パワーアップして雄叫び。

 そしてそのまま雄叫びを上げながら、猛己は三人の真後ろにある会所へ猛突進!

 これに呆気に取られる三人であったが、その中で申竜だけが正気を取り戻して、猛己を後から「待って下さーい!」と言わんばかりに全力疾走して追いかける羽目になった……。



「こいつがそうか……ってか小さくね? 本物なんだろうな?」と会所の広間に入って早々、疑念を抱く猛己。今、彼の目の前には――縄でぐるぐる巻きに縛られた陽玄が佇んでいる。

 その後ろには、猛己の後を追ってきた申竜が「はぁあぁ」と息を小さく切らしている。

 広間のど真ん中で静かに座る陽玄。そして彼の両脇には、見張りの兵二人が固めている。

「京賀の兵達が、このお方に向かって『殿下』と敬称を付けているのを聴きました!

 それと何人かの京賀の兵を捕らえて尋問しましたが、彼らの証言から――先ず間違いはありません! それに前の機関紙(分裂前の佞邪救国政府の新聞もの)からも然りです!」

 猛己の後を追ってきた申竜が、彼の疑念を払拭ふっしょくさせようとするが――

「念のため訊くが、影武者じゃないよな……?」と疑い深い猛己。無理もない。

「残念ながら、そこまでの確信は得ておりません!

 ですがその場合でも、人民や諸外国に対し、『京賀けいが国の君主は、幼子を身代りにするくず!』だと宣伝すれば、人民や諸外国は京賀国を侮蔑するでしょう!

 そうなれば、畔河政権われわれに対する支援を得られやすくなります!

 それに……影武者を捕らえてしまったとあらば、畔河政権われわれは世間の笑われ団体ものに成り下がります! ここは、意地でも“本物”を捕らえたと――」

「そうだな……いや、そうだ! 畔河政権おれたちは京賀の暴君を捕らえた!」

 このように、申竜の進言を受け入れた猛己。こんな彼に自身の興奮は抑えられない!

次回予告:おい猛己! ゆっくりしてるんじゃない!


     戦いは終わってないぞ! むしろ、既に始まってるぞ!


今回の登場人物

*京賀国

陽玄ようげん:京賀国の君主。まだ幼い。


*佞邪救国政府畔河政権

猛己もうき:畔河政権主席(最高指導者兼元首)兼校尉(同政権の最高司令官)。頭に血が上りやすい豪傑。

傍矛ぼうむ:畔河政権付(無任所大臣相当)。猛己の長男。後継者争い敗者。

申竜しんろう:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。

洲漕しゅうぞう:申竜の部下。



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