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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第三十八話:佞邪国の悪い親子

丞相とその息子……。正反対に見えて根っこは同じ!

 そして現在いま丞相府ここに至って――

「そういえば、俊雄しゅんゆうよ……! 過穀かこくに向った部隊は今どうしてる?」と自身の猪口ちょこに酒を注ぎながら、俊雄むすこに尋ねる釣幻ちょうげん

 酔いに酔っているくせに、その時の目が何故か微妙に鋭くなっている……!


「順調にいけば、昼の休憩に入っている頃です! 夕方までには必ず着くかと!」

「別に急がせる必要はないぞ! そうだな……部隊には『撤退』の許可を与えているな?」

「既に与えておきました! というより、与えておかねば“偵察”の意味がありません!

 緊急時でもないのに、偵察部隊に『退かず戦え!』と命令する馬鹿はおりますまい!」

「そうだな……その通りだ……!」と釣幻は猪口の酒を「グイッ」と一気飲み。

 そしてそのまま気持ちよさそうに舌なめずり。一件機嫌よさそうに見えるが……。


「ところで丞相閣下。猛己もうきは今後如何(いか)様になさるつもりで……?」

如何どうするも何も……処刑する他あるまい! まさか奴の助命を望んでいるのか?」

 釣幻はまた猪口ちょこに酒を注ぎながら、俊雄しゅんゆうに尋ねてみる。

 先と違うのは、彼の機嫌が悪そうに見えるところか……


「――まさか! 佞邪国われわれと同じ『佞邪ねいじゃ』の名をせんする賊を生かして、何の得があると? 返って悪しき先例を残すだけです!

 それに生かしたとして、佞邪国われわれにあの猪武者を飼える自信があると……?」

「そうだな、奴は感情の起伏が激し過ぎる! あれを手元に置くには命がいくついるか……。

 猛己やつが俺の部下だった頃から、つくづくそう思い知らされたものだ……」

 俊雄の応えに満足して機嫌を直した釣幻は、また猪口の酒を「グイッ」と一気飲み。

 その直後に安堵したように「フーッ!」とため息をいてみせる。


 片手で大きな猪を仕留める猛己が護衛になっていることを想像してみよう!

 熊に匹敵せんばかりの体格と、常に憤怒に満ちた目の猛己やつが己のすぐ傍にいる。

 しかも、いざ“敵に襲われた!”となったら自分を守らず、敵に向かって一直線!

 そのおかげで、釣幻じぶんは更に危ない目に遭ってしまう最悪の事態に……!

 こんな護衛――いや問題児、逆にヤバくない? 逆に自分が殺されそうじゃな~いっ!?


「同感です……。猛己やつの品の無さで、何回いくつ肝が冷えたことか……」と俊雄もため息を吐く。ただし釣幻ちちとは違い疲れたように……。

 同盟国との使者共の会談では、いくつ恥をかかされたことか……。

 それに何所どこの世界に、お客様用の食事を平らげる馬鹿がいるのだろうか。

 だが認めたくないことに――いたのだ! しかも自国うちに!

 あの時は時間と食材があったから、事なきを得たものを……生きた心地がしなかった!


「失礼致します! 両殿下(釣幻は佞邪国の君主、俊雄は同国の侯世子である為)!」

 ここでこの部屋にいる塔(釣幻と俊雄の氏)親子の二人に、召使めしつかい達が食事を運んできてくれたようだ。釣幻は即時に「構わんぞ!」と召使達に許可を出す。

 それから、召使達が自身と俊雄むすことの間に食事を用意し終えたことを確認した釣幻は「この部屋から一部屋分近くにいる者達全員をすぐに下がらせろ! 無論お前達もだ!」という“人払い”を召使達に命じた。すると召使達はすぐに下がっていった……。



 それから五分ぐらい塔親子は食事を共に摂っていくことになる。

「「……」」

 この間、親子水入らずの会話が一切ない。普段は釣幻ちち俊雄むすこに向かって一方的に話すのだが、今日は当の釣幻ちちも黙っている。異様な光景……!

 そして五分が過ぎた時、塔親子はほぼ一緒の時に食事を中断して、この部屋の周りで“人払い”がされているかを確かめていく。これぞ、徹底した情報漏洩対策……!


 その後、確認を終えた親子は食事を再開することにする。すると再開して早々……。

「帝も薄々とはいえ、佞邪国われら猛己やつとの縁に気付き始めている……!」

「――!?」

 釣幻ちちの口から発せられた衝撃の事実に、思わず口に入った物を咽喉のどに詰まらせてしまう俊雄むすこ。死にかけている……。苦しんでいる……。

「はっはっはっはっはっは!」と死にかけてもがき苦しんでいる俊雄むすこを正面から見て、この釣幻ちちの大笑い! その目は絶対に俊雄むすこを愛していない目。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!」

 程なくして、咽喉のどに詰まった物を適切なところに飲み込んでみせる俊雄。

 そんな俊雄かれの頭には、先程自信を大笑いした釣幻ちちを責める考えがない!

 あるのは――衝撃の事実、そしてその余波である。

 如何にかいらいでも、悪主あくしゅからの糸を切れるとあらば、すぐにでもその糸を切りにかかるだろう! しかも “格下(侯爵)の主”とあらば!

 そんなかいらいが“糸を切れるはさみ”を手に入れようしている……。

 この俊雄むすこの大きな心配を、釣幻ちちは――

「既に下々の間には、猛己やつが俺の昔の部下であったことが知れている。

 だが案ずるな! 前々からの噂が、帝の御耳に入っただけのことだ!

 いずれはそうなる結果だったのだ! これで浮足立ってはおれんよ!」と払拭する!

次回予告:猛己の末路……どうする?


今回の登場人物

*佞邪国

釣幻ちょうげん:帝の丞相(宰相)にして佞邪国の侯爵(君主)。

俊雄しゅんゆう:佞邪国の宰相にして侯世子(次期君主)。

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