表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
37/183

第三十六話:乱乱乱世下での人手事情

やっと昼飯の時間……。

  せい歴八百四年四月二日 午後零時二十分 京賀軍占領地 畔河 政庁内広間

「いや~っ! 畔河政権てきりょうどまんなかで飯とは――乙なもんだな~っ!」

「そう感心してられんぞ、貴殿! 猛己もうきを討ち取らんことには、畔河政権はんがは下せんし、下した後も過穀政権かこくが控えとる!」

 一人で勝手に感嘆の声を上げる鋒陰ほういんを、真面目に牽制する貴狼きろう


 現在――畔河ここの政庁内の広間には、京賀国の伯爵(君主)である陽玄と彼の師である鋒陰、並びに同国摂政である貴狼と同国宰相である月清らが昼食を摂っている最中である。ちなみに現世界ここにきて日が浅い真藤も彼らに交じって昼食を摂っている。


「猛己を下すことは考えんのか? あの戦闘力には使い道が――」

「考えてみたが、あの男が京賀軍こっちに就いても品があることをやるとは思えん!

 味方にしても、害が自国こっちに及ぶだけだ! るのが一番よ!」

 鋒陰の何気ない冗談味がある質問に対して、本気まじ決定こたえをぶつけてくる貴狼。その目からは鋭い視線が、その身からは怖い雰囲気オーラが放たれている!


 今年で僅か五歳の男の子に――どこか大人げない……。と一心になる広間内の一同。

 だが、一同の中で『猛己』に詳しい陽玄と月清はこの決定こたえには賛成であった!

 どうせ、京賀わが軍に加わっても、略奪や虐殺しかやらない猛己おとこだ!

 ひん(この世界で文武を表す一般的な漢字一文字)百官すら謀殺するだろう!

 それにあの男の野心からして――自身の君主が“幼君”とあらば、必ずその君主に対しては『簒奪さんだつ』の二文字のみが奴の頭を占めるだろう……!

 ならば、あの猛己おとこの死を何かに役立たせるのが得策というもの!


「だろうね――!」と鋒陰は食べることに集中し始める。

 先の決定こたえを予測していたのか、嬉しそうに昼飯を食べている。

 さては、陽玄ようげんと月清、果ては自身が尋ねた貴狼と同様の腹を決めていたな。


「ところで宰相殿下! 殿下が拾ってきた、あの『申竜しんろう』とやらはどうだ?」

「はい、摂政閣下! あの男は閣下が望まれるように使える男です!」

 別件を思い出して尋ねた貴狼に、月清げっしんは微笑を浮かべて答えてみせる。

 実際に、申竜は猛己軍と狼煙のろしでの連絡で非常に役に立っている。

 彼が狼煙のパターンを熟知していたため、過穀の猛己軍は今も自身の畔河みやこ京賀軍てきの手に落ちたことを知らないどころか、疑ってすらいない。

 故に、まだ過穀政権の官男軍を絶賛攻撃中! 兵糧や体力も無駄にすり潰してるだけ!


 このことは笑える話だが、もしも猛己が攻めてくるとなると一転――笑えない話になる。

 有名な『多勢に無勢』という言葉がある以上、ここまでくれば必ず猛己を討ち取れる。

 とはいえ、猛己の戦闘力は冗談にしたいぐらいの規格外。噂の『片手で大きな猪を仕留めてみせた』という話が“裏を取れた”事実である以上、正面から戦うのは避けたい。

 猛己を倒しても、その後に倒すべき敵が腐るほど控えている。故に、猛己やつを戦うのが避けられない以上、猛己が率いる戦力は少しでも減らすに越したことはない……。


 猛己軍を都合のいいように欺いている申竜のこの働きぶりに、貴狼は――

「その通りだ! 現に非常に役に立っとる!」と上機嫌で月清に答えてみせる。

 この『乱乱乱世』……使える奴、いやそうでない奴でも最低な奴でなければ人手は欲しい……! ――この際は、敵対経験があっても良いわ! というのが貴狼のモットー!



 こうして京賀軍が畔河で昼食を摂って体力を温存している中、過穀では今でも猛己軍と官男軍が激闘を繰り広げている最中であった。川に流れる血と肉塊も絶賛量産中!


「くそーっ……過穀政権あいつらめぇ、しぶてえにも程があるぞ……!」

 自身の本陣で愚痴を吐く猛己。既に彼の全身は官男軍てきの返り血で真っ赤っ赤!

 最早、この世界の“鬼”でさえもビビって可笑しくないぐらいの風貌となっている……。


「同志主席、そろそろ昼食を摂ってはどうでしょう?どうし達は体力を消耗しきっています。それに古来より『腹が減っては戦はできぬ』と言われていますし……」

「それはそうだが……“別働隊”はどうなった!?」

 話しかけてきた後継者の攻巳にでさえ、容赦なく睨みつける猛己。これは不機嫌の極み。

 これには猛己の恐ろしさに慣れている攻巳こうしも、ビビってしまう。


 実は、猛己率いる本隊が橋で戦っている間に、河川小隊が十に上る小型船を使って、別働隊を官男軍の陣が在る岸まで運ぶという作戦が練られ――実行された。

 そして実行の結果――見事に敵に読まれて大失敗。

 向こう岸で待ち伏せされていた官男軍の弓兵部隊から熱々の火矢の洗礼を受ける羽目になった。何しろ、向こう岸まで兵を運ぶ代物が“木造の船”! 堪ったものではない!

 今となっては無事に帰ってきた船は、たった一艇のみ……。怪我をしてでも帰ってきた兵の数は今も調査中! 川に流されて水死体になった者のことなぞ考える暇もなかった。


 正直、こんな散々な結果を猛己ちちに悪い結果を告げたくはないが、告げないと猛己やつの怒りが爆発してしまう……! ならば“言う”しか攻巳に道は残されていない!

次回予告:どうなる、攻己(すんごい、どうでもいいけど)!!


*京賀国

陽玄ようげん:京賀国の君主。まだ幼い。

貴狼きろう:京賀国の摂政。

鋒陰ほういん:陽玄の師。まだ幼い。

月清げっしん:京賀国の宰相。陽玄の父方の叔父。まだ少年。

真藤しんどう:平成二十九年からの転移してきた日本人浪人生。


*佞邪救国政府畔河政権

猛己もうき:畔河政権主席(最高指導者兼元首)兼校尉(同政権の最高司令官)。頭に血が上りやすい豪傑。

攻巳こうし;畔河政権総理(首相)兼軍師尉(参謀総長)。猛己の次男。まだ16歳。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ